青い鳥への贖罪

雪音鈴

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第1羽

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「あ……ああ、サヨの怨念……なの?」

 か細い声で私の隣にいる瑠璃が呟いた。女子高生にしては小柄な体をガタガタと震わせながら、彼女は私の服の裾をギュッと掴んだ。彼女の言葉を聞きながら、私は道路に横たわっている女子高生の顔を茫然と眺めていた。

 目を力一杯に見開き、自らの喉に爪を立て、苦痛に顔を歪めたまま息絶えている制服姿の彼女――そんな彼女の手には、なんとも鮮やかな青色の羽根が握られていたのだった……。





        ✜ ✜ ✜





 全ては紗代さよの死から始まった。

 野本紗代は私の二歳下の妹で、私とまったく同じ顔だが真逆の性格の持ち主だった。紗代は何でも出来て明るくって優しくって――本当に非の打ちどころのない妹だった。それに、根暗な私の事を慕ってくれる唯一の存在と言っても良い。

 そんな彼女が死んでしまった。

 原因は一酸化炭素中毒。彼女は石油ストーブの炎が安定する前に芯を絞り、わざと不完全燃焼をおこした後、不眠症の母が使っていた睡眠薬を大量に服用し――永遠の眠りについた。

 発見者は私、野本真紀だった。私は朝食の時に起きてこない紗代を起こしに行き、冷たくなった紗代に触れた。

 ベッドに横たわる私と同じ顔――私だったらきっとこんなに綺麗な死に顔は出来ないだろう。そんな綺麗な彼女の手の中には、温かい頃の私達家族の写真が握られていた――



        ✜ ✜ ✜



 紗代の葬式は、暑さが過ぎ去った九月の末に行われた。その参列者の中には、彼女の彼氏だった樋山ひやま洋介ようすけもいた。彼氏と言っても、たったの二週間ちょいの関係だったが……。彼は彼女が亡くなる一週間ほど前、ちょっとした事が原因で喧嘩してしまっていたらしい。

 そんな経緯があったせいか、彼は「彼女が死んだのは俺のせいです。悔やんでも悔やみきれません……。本当にすみません」と言って、見ているこっちが辛くなるほどやつれた顔をしていた。

 だから私は彼に教えた。少しでも心が軽くなるように、少しでも自責の念から逃れられるように……。

「あのね、紗代は…………チャット内の友達関係に問題を抱えてたみたいなの――」



        ✜ ✜ ✜



 紗代の部屋にあるパソコンを立ち上げると、『サヨ』というハンドルネームで作られた可愛いアバターが現れた。そこの所属欄には『幸せの青い鳥』と書かれていた。『幸せの青い鳥』――ダブルクリックで所属先のチャットルームへ行くと、サヨの最後の書き込みが見れた。


  ―― 全員呪ってやる ――


「なんだよ……これ」

 パソコンを操作する私の横に立っていた樋山が、苛立ちを押し殺したような声で呟く。

 まあ、無理もないだろう。私だって驚いた。

 サヨのコメントの前には、サヨへの悪口ばかりが羅列されていたからだ。そして、極めつけは、〝死ね〟という文字――チャットルームの人々からは、サヨに対する純粋な悪意が感じられた。

「ちょっとしたことが原因だったみたいなんだけど……。このチャットのこともあって、紗代は――」

「こんなの……こんなの許せるわけない」

 震える声で呟く彼に、私はそっと声をかける。

「樋山君、紗代が死んだのはあなただけのせいじゃない。私だって気付いてあげられなかった……。だから――」

 そこまで言って、私の言葉は止まってしまった。だって、私は分かってしまったのだ。ぽたぽたと床へと落ちる透明な雫――そう、彼が泣いている事が……。彼の紗代への想いを受け、私も知らずのうちに視界が潤んでいた。私は耐え切れなくなりギュッと服の裾を握りしめ、視線を床に落とした。その瞬間、歪んだ視界の端に鮮やかな青が映った。

 床に転がった透明な瓶の中には、青い羽根がぎっしり詰まっていた。紗代の死でドタバタしていたから、何かの拍子に転がってしまったのだろう。

 瓶の中に詰まっている綺麗な青い羽根をぼうっと見ていると、ふと、懐かしい思い出がよみがえってきた。

(ああ、そっか、母さんの外国土産……)

 すっかり忘れていたが、この綺麗な装飾が施された瓶詰めは、紗代と私に母がお土産と称してくれた物だ。

(そう言えば、紗代、青色が好きだから喜んでたっけ)

 微笑ましい光景を思い出し、余計に胸が苦しくなる。

(まあ、私は自分の瓶、割っちゃったんだけど……ね)

 私は過去の思い出から目をそらすように瓶から目を背け、泣き続ける樋山を残し、部屋を出た。

 閉めた扉に背をあずけた私が考えるのは、紗代のこと。いつでも笑顔が絶えなかった紗代。私と違って皆に愛されていた私の妹……。

 そっと眼を瞑った瞬間、熱い想いが私の頬を伝った――
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