魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

文字の大きさ
3 / 21

☆ Familiar3☆ 待ってるだけじゃ変わらない

しおりを挟む
 使い魔の授業が終わり、それぞれのあるじである魔法使いを待つ。使い魔達がそうして神妙な面持ちで待っている中、私だけはグレイスに会ってこれから何をして遊ぶかで頭がいっぱいで、ニコニコが止まらない。

「おい、何をにやけている……行くぞ」

「グ・レ・イ・スウウゥゥゥ!!!」

 いつの間にか目の前に立っていたインテリ系イケメン――グレイス=クライシスのお出ましに、私のテンションは一気に最高潮まで上がり、彼の腕に自身の腕を絡めるようにすり寄る。そんな私の様子に彼は何も言わず、魔法使い科の生徒に支給される黒いローブを軽く翻してから歩き出す。

 彼の整った横顔を見つめ、彼の腰のあたりで揺れていた長い三つ編みをチョイチョイと引っ張るが、彼はこちらを見もせず、黙々と歩いていく。

 私と同じ銀色の髪に、私と違う切れ長な紫色の瞳――その全てが好きすぎて、私は髪を軽く引っ張るのをやめて、両腕で彼の腕をガッチリとホールドする。

「グレイスグレイスグレイスグレイス!」

 私のスリスリ攻撃をものともせず、私を引っ付けたまま、彼はズンズン歩いていく。目指すは私達が暮らしている家――そう、私とグレイスだけのマイホーム!

「えへへぇ、ねぇねぇ、帰ったら今日は何して遊ぶ? チェスはこの間グレイスに負けちゃったからもうやりたくないけど――あ、そうだ! 今度は魔法スゴロクでも――」

「おい、ナタリア――離れろ」

「ほへ?」

 低く鋭い声で言われて思い切り腕を払われ、何事かと思った瞬間――私とグレイスの間をビリビリと黒い波のようなモノが通り抜けていく。感知できた魔力の余波から、それが眠り魔法だということが分かった。かなり効力を弱めているらしいそれは、悔しいことに私の魔力感知網を抜けたようだ。

「チッ――これをかわすとは流石と言うべきか、グレイス」

 肩までで綺麗にそろえられた品のいい青い髪を揺らし、不敵な笑みを浮かべていたのは、これまた容姿の整ったイケメン。正直、小者臭半端ない彼だが、これでも一応、主席のグレイスに次ぐ成績の持ち主だ。

(つーか、こいつ……今『チッ』って言ったよね? 私のグレイス狙った時点で最低最悪の大悪党だけど、舌打ちって余計に腹立つわあ!)

「ケテル、俺を狙うのはいい。だが、他を巻き込むな」

 わずかに殺気立ったグレイスの視線を真っ向から受けとめた彼――ケテル=ワーグナーは、軽く鼻で笑う。

「他っていうのはそこのチンチクリンな使い魔のことか?」

「チンチクリンで悪かったわね。そんなあんたも器がチンチクリンじゃない!!!」

「は? 使い魔の分際で魔法使い様になんて口のきき方してんだよ」

 ギロリとケテルの青い瞳に睨まれたが、私はツンとそっぽを向く。

「ふーんだ」

「し・か・も、可愛くねぇ!!!」

「あんたなんかに可愛いって思われたって嬉しくないからいいですよーだ」

 あっかんべーと舌を出すと、ケテルはその形の良い眉と口の端をピクピクさせながら引きつった笑みを浮かべていた。

「ケテル様。シリル様があちらでお待ちです」

 私達の不毛な争いに水を差したのは、いつの間にかケテルの隣に立っていたひょろりと背の高い緑髪の二つ結びの女生徒――ケテルの使い魔だった。

 ふと彼女の視線の先に目をやると、雲1つない青空の中に黒塗りの高級魔法車が浮かんでいた。

 下校し始めた生徒達の中には、箒や絨毯に乗って家路についている生徒もいる(飛行試験の免許を取得した者だけ使用可能なため上級生が多い)のだが、流石に高級魔法車を持つ者はほんの一握りしかいないので、生徒達が遠巻きに見つめながら通り過ぎていく。

 ケテルは良いところの坊ちゃんで、その兄も研究機関のエリートだということは知っていたのだが……何千億、いや、下手したらそれ以上になりそうな価値の車に、流石に目玉が飛び出そうになる。

「兄上様だと!? アローナ、なんでそれを早く言わない!!!」

 ケテルはバッと自身の使い魔の胸倉を掴んだが、彼女は無表情のままピクリとも動かなかった。反対に、ケテルは顔面を蒼白にさせながら口をワナワナと震わせていた。

(ああ、お兄ちゃんに嫌なところ見られちゃったんだもんねー、お気の毒に~。ま、ケテルの自業自得だけどね――っていうか、いい加減アローナを放せやッ!)

 私はいつでも使い魔の味方だ。ケテルがアローナの胸倉を掴んだまま放さない状況に少なからず苛立ちを感じている。

「申し訳ありません。つい先程、ベルデアンヌ様――いえ、先生からご連絡があったばかりでして、対応が遅れました」

 無表情のままではあるが、アローナの深緑色の瞳に濃い悲しみの色が宿るのを見て、私の胸が苦しくなる。

「チッ――」

 アローナを乱暴に放し、舌打ちまでしたケテルに、ついに怒りの沸点を飛び越える。

「ちょっ――」

「話は終わったようだな。俺達は帰る」

「え? あ、待ってよ、グレイス! グレイスってばッ!?」

 私の言葉を遮ったばかりか、呼び止める声も聞かずにスタスタと歩いていってしまう彼に、思わずムッとする。ケテル達から離れ、彼に追いついた私は口を尖らせた。

「グレイスの意地悪……」

「俺は別に意地悪でやったわけじゃない。あそこでいくら奴を罵っても、他の奴の認識は変わらん。使い魔の三カ条はそれほど根深い」

「そう、だけどさ……でも、みんなも私達のように――」

「今は無理だ。この世界の認識そのものを砕くまでは……」

「うん……そうだね、それをしなくちゃダメだもんね」

 トボトボと彼の後ろを歩いていると、急に彼が立ち止り、こちらへと手を差し出してきた。

「?」

「手始めに、俺達は――魔法使いと使い魔で手と手を取り合って理想を叶えていきたいと思う。これが誰の意見でもない、紛れもない俺自身の意思だ」

 彼のその言葉に嬉しくなり、彼の手をギュッと握る。

「うん、うん! 一緒に歩いて行こうね、グレイス!」

 ようやく、私の頑張りが実ってきた。十二年かかった。六歳の誕生日の日に誓ってからここまで来るのに十二年……。

 この選択の果て、グレイスも私も、他の魔法使いも使い魔も――誰もが幸せになれる未来があるのかは分からない。もしかしたら、ただの理想論で、使い魔を野放しにした途端、今までの扱いから暴動が起きてしまうかもしれない。

 だけど、誰かがこの世界を変えなくちゃいけないのなら……誰かがこの世界を変えるのを待ってるんじゃなく――

(私自身がその先駆者になれるように、もがかなきゃいけない……ただ、待ってるだけじゃ、変わらないんだから……)

 グレイスの冷たい掌に、私の温かい掌の温度が伝わり、やがてどちらも同じ温度になった頃、私達は家へと辿り着いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...