魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

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☆ Familiar4☆ 会合

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「魔鏡の準備なら私がやったのに……」

 私が頬を膨らましていると、グレイスが苦笑した。

「前みたいに魔境を割って怪我でもされたら嫌だからな」

「あ、あれは、魔鏡を動かす時にちょ~っとだけラクしようとして魔法使ったのがいけないだけで――」

「もともと魔鏡は重い。ナタリアがやる必要はない」

「そう言って、また私に何もやらせてくれない! 私だってグレイスのために何かしたいのに!」

「【イフ】の組織構成員名簿を渡しただろ」

 グレイスが魔鏡に魔力を流し、誰かに魔法の干渉を受けていないかを確認している横顔を見つめながら、私は苦い顔をした。彼が言うように、私は現在、【使い魔の権利向上】を目指した反政府組織である【イフ】の名簿を持っている。

 この組織は私とグレイスが結成した。組織はまだ弱小だが、構成員の数は八十弱。使い魔だけの場合、自身のパートナーである魔法使いに逆らえないことが想定されるので、実際の戦力は二十弱しか期待できないが、そこそこの人数になった。

 まあ、実力行使に出るつもりは今のところないが、反政府組織であることには変わりないので、この異様に分厚い構成員名簿にも特定の魔力を持つ者でないと読めないよう厳重な鍵魔法を施している。

 魔力は指紋と同じように個々によって放出されている波形が違うため、この鍵魔法が意味を成すのだが、指紋と違う点も一つだけある。それは、魔法使いとその使い魔が同じ魔力波形になっているという点。だからこそ、私達は情報を共有するために指紋認証魔法ではなく、鍵魔法を使っている。

(そう、だからこその鍵魔法なんだけど……)

 ずっしりと重い名簿をペラペラと捲っていくと、どこのページにもびっしりと文字が並び、たくさんの情報が記載されていた。

「…………やっぱり、意識同調シンクロ使わない?」

 意識同調シンクロはパートナーの魔法使いと使い魔同士ができる記憶や感情の共有のことで、魔力の波長が同じだからこそできる芸当だ。大抵の魔法使いは使い魔を見下しているため、これを使用するのは偵察等の必要時のみのようだが、私とグレイスはこれによって毎日互いの知識を共有している。

「組織構成員の中には危険分子がいる可能性もあるから二人で見定めようと言ったのはナタリアだったはずだが?」

「うぅ……そ、そうだけどさあ。ほら、構成員多くなったし」

 モゴモゴと言い募る私の名をグレイスが優しく呼ぶ。

「人間関係等の情報では知識の情報共有よりも顕著にその人物に対する俺の感情がつきまとうことになる。それでは、同じ考えが増えるだけで構成員の見定めには不十分だ」

「感情までもが共有されちゃうのは分かってる。でも、ほら、見せたくない部分ってチョチョイって隠して意識同調シンクロできるじゃない? だから、名前とか、ちょっとした情報とかだけでもさあ――」

「ナタリア、最後のページに魔法使い学校における重要者リストを追加しておいたから、そこだけでも読んでおいてくれ」

 グレイスはどう言い訳しても意識同調シンクロで情報を教えてくれる気はないようだ。おそらく、こうして二人で構成員を見定めた方が組織と私のためになるであろうと彼なりに考えてくれたのだろう。

 私はため息をつき、名簿をテーブルの上に置いた。ペラリと裏表紙を捲ると、定例会でよく見かける構成員の名前が並んでいた。もちろん、全て偽名だが……。

「…………」

「ナタリア」

「はーい、読みます。読みますよう! 少しでもグレイスの役に立ちたいってのはホントだから……」

 私は少し拗ねた感じでそう言い、リストの一番上にあった【ミニック】という名とそこに書かれた情報を睨みつけた。

「その気持ちだけは――疑いはしない。呆れるほどに……」

「??? 何か言った?」

「いや……ナタリア、ミニックは知ってるな?」

「ええ、常連さんっていうのもあれだけど、いつも会合に出てくれてる話し方の綺麗な人でしょ?」

 魔鏡の上を迷いなく滑るように動いていたグレイスの長い指先をぼんやりと眺めながら、私は頷いた。

「そいつは多分、上流階級の人間だ」

「…………娯楽で参加でもしてるっていうの?」

 上流階級は使い魔を完全に道具のような認識で扱っている。だから私は上流階級の【ニンゲン】という奴が大嫌いだ。

「ナタリア、上流階級の奴が嫌いなのは分かるが、それで目を曇らせるのなら、それは使い魔を道具としか思っていない連中と同じだ」

「……分かってる。ミニックは同志だってことは――彼の行動からも……。ごめん、この場合はむしろ、上流階級でも変化を望んでる人がいるってことを喜ぶべきだったね」

 俯いた私の頭に大きくて優しい手のひらが柔らかく乗る。

「……落ち込む必要はない――」

 気落ちした私をなんとか元気づけようと絞り出したらしい彼の言葉に、少しくすぐったさを感じながらも頷く。

「落ち込むくらいなら次に生かすべきだよね! うん、ありがとう。とりあえず、リストの続きを読んじゃうね!」

 リストの次に名前が挙がっていたのは【フェイ】。少しきつめだが丁寧な口調、物事の先の先を見据えての発言から、おそらく、かなり頭のいい人物だという認識はしている。

(ん? 注意書き……?)

『※自分の気に入った使い魔をその使い魔のパートナーから金で買うことが多い。可愛い人形が好きで、自身の使い魔に対しては極度の束縛気質。接触注意』

(金で買う……それって、人身売買じゃ――)

 使い魔の身体は魔力で構成されているため、基本的に見目が良い。そうした使い魔を奴隷として買う上流階級の年寄りは多いのだが……内容を読む限り、フェイは買った使い魔を使用人として働かせ、大切にしているようだ。組織への参加理由は、自身の大切な使い魔達が他の魔法使いから不当な扱いを受けないよう、使い魔の権利を改善すること。

(でも、【極度の束縛気質】……か。これって、フェイの使い魔側からしたら、どうなんだろう?)

 権利が回復されてもフェイから逃げられないでいる使い魔を想像し、ゾッとする。いくら権利を回復したところで、魔法使いと使い魔の絆は断ち切れない。だからこそ、現在進行形で絆を断ち切る研究を行っているのだが、魔法使いも使い魔も互いに依存性が強すぎてなかなかに難航している。

「ナタリア、せっかく名簿を見る気になったところですまないが、そろそろ会合の時間だ。名簿は後で確認してくれ」

 彼の言葉に頷いて名簿を閉じると鍵魔法が鎖状になって何重にも巻き付いた後、名簿に溶け込むように消えた。

「今から姿や声がばれないよう魔法をかけるから動くなよ」

(依存性――か……私も、グレイスに依存しちゃってるな)

 私は彼のローブの裾をキュッと掴み、研究の行く末に少しだけ不安を感じた。その後の会合はつつがなく終了したが、せっかく覚えたミニックが欠席だったのは少し不満だった。
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