魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

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☆ Familiar6☆ グレイスのお父様

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「ああ、さっぱりした~」

 お風呂から出てきてグレイスに髪を綺麗に整えてもらった私は、上機嫌でソファにダイブした。

「はあ――これぞ、至福の時いいいぃぃ」

 クッションを抱きしめ、ゴロゴロと転がっていると、グレイスが苦笑した。

「そのまま寝るなよ? 体を痛めるぞ」

「うーん……」

 グレイスの優しい声に返事かどうかも分からない声を出しながら夢の世界へと旅立とうとした瞬間、キーンという甲高かんだかい音が聞こえた。聞き覚えのあるその音に気怠いまぶたをなんとか開けると、リビングにあった一般回線用の魔境が発光し、湖に石を投げ入れたかのように鏡面が波打っているのが見えた。

「――通信? 誰からだろう……」

「ああ、ナタリア。眠いなら寝てて良いぞ。後でベッドまで運んでやるから」

 グレイスの温かい声に再び目が閉じそうになるが、波紋の広がりの中心に見慣れた回線番号と名前が浮かび上がっているのを見つけ、一気に意識が覚醒する。

「クラウス様から!? グレイス、ど、どどどうしよう!!! 髪、服、えと、えっと、あ、顔とか!! 私、大丈夫かな!?」

 ソファから飛び降りた私は急いで身支度を整え、素早く魔境の前に立っていたグレイスの隣に控える。

親父おやじに気なんて遣わなくて良いぞ」

「グレイスのお父様に対してそんなわけにはいかないわ! クラウス様には、どんな時でも優秀な私を見せておきたいの!」

 グッと拳を握りしめる私に、グレイスが軽く「そうか」と言い、少しだけ不機嫌そうな表情のまま魔境に魔力を流して通信を繋げた。

 途端、鏡の中に黒く短い髪を丁寧に撫でつけてオールバックにし、グレイスによく似た紫色の瞳を厳しく細めている長身の男が映った。細身の黒いスーツに白い手袋のスタイルは、見目麗しい彼によく似合っている。

「久しぶりだな、ナタリア嬢。それから、グレイス。元気そうで何よりだ」

「お久しぶりです、クラウス様。クラウス様もお元気そうで良かったです」

 優雅に淑女のお辞儀をした私に対し、クラウス様が満足げに頷く。クラウス様の表情は乏しいが、時々グレイスと同じように優しい瞳を向けてくれるのが嬉しい。

「親父、用件は?」

「ちょっと、グレイス」

 久しぶりの連絡にも塩対応のグレイスに、思わず咎めるように名を呼んでしまう。

「用もなければ息子に連絡も取れないのか? まったく……相変わらず、お前は私に似て人付き合いが苦手で心配になる。まあ、用はあるがな」

「あるならさっさと言え。ナタリアの昼寝の時間が削られるだろ」

「グレイスゥゥゥ!?」

(なんてこと言ってくれちゃってるのおおおおぉぉぉ!!!)

 恥ずかしさとバツの悪さで赤面してしまう。

「まったく、お前は変わらんな。だが、それなら手短に済まそう」

「クラウス様! 私のことは気にせず、思う存分お話下さい!!!」

「ナタリア嬢は気にするな。それよりも、タイミングが悪かったようですまないな」

「まったくだ」

「グレイスウウウウゥゥゥゥ」

 毎回、こんなやり取りにハラハラしてしまうが、クラウス様が気分を害した様子はない。

(ああ、もう心臓に悪い……)

「学校の方はどうだ? どちらも順調そうか?」

「ああ、問題ない」

「はい、クラウス様のおかげで問題なく通えています」

「そうか、それは良かった。もし何かあった時はすぐに報告しなさい。ナタリア嬢、特に使い魔の学校の方は色々と改革が出来ていない所が多い――充分に用心を」

「ありがとうござ――」

「手際が悪いな。俺達が入学する頃にはもっと改革が進んでいると思っていたが……」

「グレイス!? なんでクラウス様のことになるといつも以上に辛辣なの!? ここまで私達を気にしてもらってるだけでも充分なのに!」

「ナタリア嬢、グレイスの言う通り手際が悪いのは重々承知だ。学園の理事になるのにも予想以上の時間がかかったし、上は頑固でなかなか骨が折れる。手際は悪いが、こちらもこれが精一杯なのが現状だ。だから――後はお前達で頑張れ。お前達が決めた道だ」

「言われなくても進んでやるさ」

「茨の道でも――か……」

 スッと眼が細められ、背筋が伸びる。

「茨の道でも――です。グレイスと一緒に頑張ります」

 凛と返した私の言葉に、クラウスは悲しげに笑った。その瞳がグレイスと重なり、胸が痛くなる。

(それでも私は、諦めない――もう、決めたから)

「それじゃあ、そろそろ通信を切るな。ナタリア嬢、グレイス、次はセシリアの方から通信がいくと思うが、いつものように――」

「調理器具の場所は教えません!」

「そうしてくれると助かる。またキッチンを破壊されるのは勘弁願いたいからな」

 最後のやり取りはこれ――とでも言うようにお決まりの台詞セリフを言った私と、哀愁漂う彼の姿に思わず苦い顔をしてしまう。

(いつものことながら、クラウス様は苦労されているのね)

 後ろで束ねた銀色の髪を揺らしながら紅い瞳を輝かせて料理に向かい、毎度キッチンを半壊――いや、全壊の比率の方が全体的に多い気がする……をさせてしまう人物を思い出し、遠い目をしてしまう。

「ああ、それと――グレイス、いつまでも『アレ』を引きずるのは格好悪いぞ。過去よりも現実いま……それを見誤るな」

 フッと消えてしまったクラウス様の姿がまだそこにあるかのように、グレイスが不機嫌そうな表情のまま魔境を見続ける。

「ねぇ、グレイス――『アレ』って何?」

「過去のことだ…………」

「???」

 小首を傾げて彼を見つめるが、グレイスはそれ以上教えるはないようだ。

(まあ、グレイスが話したくないんなら聞かない方がいいよね……気にはなるけど)

「ナタリア、昼寝はどうする?」

「うーん、目が冴えちゃったからなあ……」

「それじゃあ、残りの宿題をやるか」

「ウッ――急に持病の筋肉痛が……」

「そうか、筋肉痛なら大丈夫そうだな」

「あ、いや、違うの! 持病の背筋はいきんが――? いやいやいや、やっぱりちょっと眠たくなってきたなあ、なんて――?」

 どうしても宿題のやる気が起きず、やらなくても良くなる言い訳を考えていると、グレイスの大きな手が私の頭を優しく撫でた。

「俺も手伝うから頑張ろうな?」

「うぅ……」

 グレイスに頭を撫でられるのは好きだ。優しい彼の手に安心する。彼に撫でられるとちょっとだけ頑張ろうかなと思えてしまう。

 その感触をもっと感じていたくて、頭をグリグリと彼の手の平に押しつけるようにすると、彼が薄ら笑ったような気配を感じられた。

「終わったら黒蜜きなこのアイスもあるぞ」

 彼の魔法の手と魔法の言葉で、パアッと目が輝く。

「頑張る!! すぐやっちゃうね!!!」

 私は勉強道具を取りに行くため、リビングを後にした。





 ★ ★ ★





「『アレ』か……言える訳がないだろう……ナタリアの初恋が親父で、ナタリアの初めては全部欲しいから嫉妬してる――だなんて……ああ、もう本当にかっこ悪い」

 グレイスが珍しく頬を染めて顔を覆っている様子は、通信が切れて普通の鏡の役割を果たしている魔境しか見ていなかった。




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