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☆ Familiar8☆ 追跡
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「禍々しい水晶――か。それは恐らく【呪術】だな」
私の首についた縄で絞められた痕を治癒魔法で丁寧に治療しながら、グレイスが険しい顔つきで言った。
「呪術って――永続的な苦痛を与えるっていうあの呪術?」
「ああ、それだ。使い魔は重傷を負えば肉体的な自己再生能力を使用できるが、呪術などによる状態異常の回復は出来ないからな。使い魔への【罰】としては非常に有効だ」
「罰!? そんなの、上流階級の奴らのただの娯楽じゃない!!!」
「ナタリア、まだ喉が本調子じゃないんだ。あまり大きな声を出せば血を吐くことになるぞ? 治癒魔法がただの応急措置でしかないことは知っているだろう?」
グレイスの言葉に、怒りはまだ収まっていなかったが、声のボリュームを下げる。流石に血を吐くのはごめんだ。
「だって、グレイス……呪術は高額な材料が必要で、もう廃れたような風習でしょ? それなのに、面白半分で上流階級のボンボン共がッ――って、痛い、痛いグレイス!」
「声がまた大きくなってるからだ。いいか、ナタリア。今日は一日声を小さくして過ごせ。分かったな?」
★ ★ ★
「ナタリアッ! その首の包帯、どうしたの!」
教室について早々、リリアンが赤い髪を揺らしながら駆け寄ってくる。
「お、落ち着いて、リリアン。ただちょっと寝違えちゃっただけだから。その、グレイスが大げさに手当しちゃって――」
「ああ、そうなのね。それなら良かった……」
(……ねぇ、リリアン? その理由であからさまに安心した顔されるとなんか虚しいんだけど!? 私ってそんなアクロバティックな寝方してると思われてるのかな――って、あれは!)
「アローッゴホゴホゴホ!」
「ナタリア、大丈夫!?」
思わず大声を出してしまった衝撃で喉に負担がかかり、思いっきり咳込んでしまう。リリアンが背中をさすってくれるが、咳がなかなか治まらない。
「人の顔を見ていきなり咳込まないで頂きたいのですが?」
無表情なまま白いハンカチを差し出してきたのは、私が名を呼ぼうとして失敗したアローナ=ワーグナー本人だった。
「あ――ゴホッ――ありが、とう。そ、それよりも、首! 包帯ッ――!!!」
「ああ、これですか……」
アローナが感情を映さない深緑色の瞳をわずかに下に向け、細くて長い指先で自身の首に巻かれた白い包帯に触れる。
「ど、どどど、どうして!」
「一身上の都合です。それでは、そろそろ授業開始時刻となりますので、席に戻ります」
★ ★ ★
「夢見で見た呪術を受けてたのはアローナよ。私の目に狂いはないわ! 絶ッッ対、間違いない!!!」
「そうか」
「そうかって――グレイス~、もうちょっと親身になってくれても良いじゃん!」
「ナタリア……そうやって昨日一日アローナに纏わりついて『これ以上私達に関わらないで』と言われたのは誰だ?」
「うっ――それは、私です、けど……」
「それなのに、お前はこんな所で何をしているんだ?」
「いや、その、これは……」
「……」
グレイスの無言の圧力に思わず身を小さくする。
「ごめん、なさい。でも、夢で助けを求めてきたアローナを助けたくって――」
「はあ、だからってストーカーはよくない」
グレイスが言うように私は今、学校帰りのアローナとケテルを尾行し、草むらに隠れているところだ。頑なにアローナが首の包帯を取ろうとしないため、呪術の解呪をしようとする私はどうしたらいいのか考えあぐね、とりあえず、彼女の傍をうろついていた。
……完全に不審者だが、私の目的は彼女を救うことだ。間違ってもストーカーなどではない――と思いたい。
「そ、それにしても、ケテルってば、家に帰んないでこんな所で勉強してたんだね。なんか意外っていうか――」
そう、ここはケテルのような貴族のお坊ちゃんが行きたがらないであろう裏路地の寂れたカフェ。間違っても高級レストランなんかではない。そこの一角に陣取り、あろうことかアローナと椅子を並べて勉強しているのだ。
『僕の使い魔が馬鹿だと困るからな。そこで勉強をすることを許可する』
先程、ケテルはそんなことを言い、そのまま自身も勉強を始めたのだ。あまりにも意外すぎる展開に目と耳を疑ったが、どうやらアローナの慣れた様子を見れば、これが日常のようだ。そうなると、彼女の首に巻かれた包帯の意味がますます分からなくなった。
(ケテルは実は良い奴? それとも、裏では――)
「ナタリア、悪いが俺はそろそろ行く」
「え!? グレイス、行っちゃうの?」
「一緒にいてやれなくて悪い。だが、今日は放課後に呼び出しを受けててな」
「グレイスが呼び出し受けるって珍しいね。どうしたの?」
「ナタリアが心配するようなことは何もないから、気にするな。それよりも、何かあれば話がこじれる前に俺を呼べ」
最後に「絶対だぞ」と念を押されながらも、グレイスは空間移動の魔法を使い素早く学校へと戻っていった。一瞬だけ空間の歪みと魔力の乱れによってケテル達に私の存在がばれてしまわないか心配したが、グレイスはそこら辺も配慮してくれたらしい。彼らは変わらず静かに勉強を続けていた。
私の首についた縄で絞められた痕を治癒魔法で丁寧に治療しながら、グレイスが険しい顔つきで言った。
「呪術って――永続的な苦痛を与えるっていうあの呪術?」
「ああ、それだ。使い魔は重傷を負えば肉体的な自己再生能力を使用できるが、呪術などによる状態異常の回復は出来ないからな。使い魔への【罰】としては非常に有効だ」
「罰!? そんなの、上流階級の奴らのただの娯楽じゃない!!!」
「ナタリア、まだ喉が本調子じゃないんだ。あまり大きな声を出せば血を吐くことになるぞ? 治癒魔法がただの応急措置でしかないことは知っているだろう?」
グレイスの言葉に、怒りはまだ収まっていなかったが、声のボリュームを下げる。流石に血を吐くのはごめんだ。
「だって、グレイス……呪術は高額な材料が必要で、もう廃れたような風習でしょ? それなのに、面白半分で上流階級のボンボン共がッ――って、痛い、痛いグレイス!」
「声がまた大きくなってるからだ。いいか、ナタリア。今日は一日声を小さくして過ごせ。分かったな?」
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「ナタリアッ! その首の包帯、どうしたの!」
教室について早々、リリアンが赤い髪を揺らしながら駆け寄ってくる。
「お、落ち着いて、リリアン。ただちょっと寝違えちゃっただけだから。その、グレイスが大げさに手当しちゃって――」
「ああ、そうなのね。それなら良かった……」
(……ねぇ、リリアン? その理由であからさまに安心した顔されるとなんか虚しいんだけど!? 私ってそんなアクロバティックな寝方してると思われてるのかな――って、あれは!)
「アローッゴホゴホゴホ!」
「ナタリア、大丈夫!?」
思わず大声を出してしまった衝撃で喉に負担がかかり、思いっきり咳込んでしまう。リリアンが背中をさすってくれるが、咳がなかなか治まらない。
「人の顔を見ていきなり咳込まないで頂きたいのですが?」
無表情なまま白いハンカチを差し出してきたのは、私が名を呼ぼうとして失敗したアローナ=ワーグナー本人だった。
「あ――ゴホッ――ありが、とう。そ、それよりも、首! 包帯ッ――!!!」
「ああ、これですか……」
アローナが感情を映さない深緑色の瞳をわずかに下に向け、細くて長い指先で自身の首に巻かれた白い包帯に触れる。
「ど、どどど、どうして!」
「一身上の都合です。それでは、そろそろ授業開始時刻となりますので、席に戻ります」
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「夢見で見た呪術を受けてたのはアローナよ。私の目に狂いはないわ! 絶ッッ対、間違いない!!!」
「そうか」
「そうかって――グレイス~、もうちょっと親身になってくれても良いじゃん!」
「ナタリア……そうやって昨日一日アローナに纏わりついて『これ以上私達に関わらないで』と言われたのは誰だ?」
「うっ――それは、私です、けど……」
「それなのに、お前はこんな所で何をしているんだ?」
「いや、その、これは……」
「……」
グレイスの無言の圧力に思わず身を小さくする。
「ごめん、なさい。でも、夢で助けを求めてきたアローナを助けたくって――」
「はあ、だからってストーカーはよくない」
グレイスが言うように私は今、学校帰りのアローナとケテルを尾行し、草むらに隠れているところだ。頑なにアローナが首の包帯を取ろうとしないため、呪術の解呪をしようとする私はどうしたらいいのか考えあぐね、とりあえず、彼女の傍をうろついていた。
……完全に不審者だが、私の目的は彼女を救うことだ。間違ってもストーカーなどではない――と思いたい。
「そ、それにしても、ケテルってば、家に帰んないでこんな所で勉強してたんだね。なんか意外っていうか――」
そう、ここはケテルのような貴族のお坊ちゃんが行きたがらないであろう裏路地の寂れたカフェ。間違っても高級レストランなんかではない。そこの一角に陣取り、あろうことかアローナと椅子を並べて勉強しているのだ。
『僕の使い魔が馬鹿だと困るからな。そこで勉強をすることを許可する』
先程、ケテルはそんなことを言い、そのまま自身も勉強を始めたのだ。あまりにも意外すぎる展開に目と耳を疑ったが、どうやらアローナの慣れた様子を見れば、これが日常のようだ。そうなると、彼女の首に巻かれた包帯の意味がますます分からなくなった。
(ケテルは実は良い奴? それとも、裏では――)
「ナタリア、悪いが俺はそろそろ行く」
「え!? グレイス、行っちゃうの?」
「一緒にいてやれなくて悪い。だが、今日は放課後に呼び出しを受けててな」
「グレイスが呼び出し受けるって珍しいね。どうしたの?」
「ナタリアが心配するようなことは何もないから、気にするな。それよりも、何かあれば話がこじれる前に俺を呼べ」
最後に「絶対だぞ」と念を押されながらも、グレイスは空間移動の魔法を使い素早く学校へと戻っていった。一瞬だけ空間の歪みと魔力の乱れによってケテル達に私の存在がばれてしまわないか心配したが、グレイスはそこら辺も配慮してくれたらしい。彼らは変わらず静かに勉強を続けていた。
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