魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

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☆ Familiar13 ☆ ナタリア絶好調

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「ふんふんふーん♪」

 次の日、グレイスとの登校中に鼻歌混じりでスキップすれば、彼が呆れたようにため息をついた。

「おい、そんなに浮かれていると転ぶぞ」

「その時はグレイスが助けてくれるから大丈夫だよ~」

 再度深いため息をついたグレイスが、ふと空を見上げる。つられて上を見ると、雲一つない青空の中を、箒や絨毯、魔法車に乗った人々が忙しなく空を飛び回る様子が見えた。

「……チョーカーがそんなに気に入ったのか?」

「え、ああ、うん! あと、ようやく首の包帯も取れたし、犯人捕まえるための罠も順調に――」

 ぼうっと空を見ていたせいで、うっかり口が滑ってしまい、笑顔のまま固まってしまう。

「犯人……? 罠?」

 案の定、眉間に深いしわを作ったグレイスにギロリと睨まれ、冷や汗がブワリと吹き出す。

「きょ、今日、そういえば、日直だったなー、急がなくっちゃなー、というわけで、私は先に――」

 言い終わらないうちにガシリと腕を掴まれ、思わずヒッと悲鳴を上げてしまう。そんな私の反応に、グレイスが長い長いため息をついた後、諦めたように手を離してくれた。

「ナタリア……今日の放課後、洗いざらい吐いてもらうからそのつもりでいろ。あと、急ぐつもりなら空間を繋げてやる」

 私の嘘は明らかにバレているようだが、今は流してくれるらしい。慣れた様子で空間に干渉する魔法を発動させるグレイスの横顔を見て、ホッと胸をなで下ろす。

(これ以上一緒にいると余計にボロが出そうだったから良かった……今日ばかりは【吸魔】の能力に感謝だね――)

 基本的に空間を繋げるのは魔力の消費が激しいため、一般的にはあまり行わないのだが、グレイスは先天性の能力の中では珍しい『魔力を吸収する能力』――【吸魔】を持っているため、逆にこうして余分な魔力を定期的に消費しないといけない。

 もともと、私達の体内には魔力を貯める器のようなものがあり、そこに魔力を貯めている。この器以上の魔力が流れ込むと、器から溢れ出た魔力が身体を蝕み、やがて耐えきれなくなった身体が壊れてしまう。

 魔法使いはこの魔力の生成を体内で行うことができ、使い魔はパートナーの魔法使いから自然にその魔力をもらい受け、成長する。魔法使いの魔力生成量は個人差やその日の体調に左右され、器の大きさも人によって違うため一概には言えないが、だいたい一日で器の九十五%ほど魔力が回復する。このぐらいの魔力回復速度であれば、日常生活に魔力が必須な魔法使い達にとってはなんら驚異ではない。

 しかし、グレイスは【吸魔】の能力で空気中にある魔力を一定量ずつ吸収してしまうため、通常の三倍の速度で魔力をため込んでしまう。一応、魔力吸収量抑制装置なる銀の腕輪を装備しているが、それでも魔力吸収量が多いグレイスはこのように、わざと魔力消費量の多い魔法を使用したがる。

 まあ、その異常な魔力量のおかげで美味しい怪鳥のお肉にもありつけるので、大変ではあるけれど悪いことばかりがあるわけではない。

「ほら――空間繋げたぞ?」

「ん――ありがとう。あの、その……グレイス――」

 つい最近隠し事云々を問題にしたばかりで、早々に自分の方が隠し事をしている現状に気まずくなり、彼に謝ろうと口を開く――が、その言葉はグレイスが私の頭に手を置いたことで止まってしまった。もちろん、彼のもう片方の手は空間を維持しているので、大惨事は起きていない。

「気にするな。ナタリアなりに考えてるんだろ? 俺も俺なりに考えて行動してる。お互い様だ。ただ、念のため――」

 グレイスの言葉に呼応するように、蒼色のチョーカーからふわりと温かい魔力が溢れる。思わず手で触れると、雫型の飾りが増えていた。

「俺の魔力で作った魔力結晶だ。これでお前の害になる魔法は防げる――が、何かあればすぐに俺を呼べ。分かったな?」





 ★ ★ ★





「えへへ~、うっふふ~♪ まったくもー、心配性なんだからあ」

「ナ、ナタリア?」

 今朝のグレイスとのやり取りを思い出し、ニマニマしていると、リリアンが引きつった顔で私の名を呼んだ。正直、いつもなら、そんなにドン引くことないじゃないかと拗ねるところなのだが、今は機嫌が良いので気にしないことにする。

「えへへー、リリアンだあ! 体調は大丈夫?」

「う、うん、もう大丈夫だよ……」

「本当に? まだ顔色悪いみたいだけど――」

 色白の彼女はもともと血色が悪く見えるのだが、今は唇の色も赤みが薄く、まだ本調子には見えなかった。

「大丈夫だよ――ナタリア。それから、お見舞いに来てくれてありがとう。さっそく使わせてもらってるよ」

 リリアンが右腕を掲げると、赤色のチョーカーがブレスレットのように巻き付けられていた。

「あれ? 首に付けないの?」

「うん、これ、バリス様に貰った――大切な物、だから……」

 そっと首のチョーカーに触れ、困ったように笑う彼女に、私は慌てる。

「ご、ごめん、そんなに大事な物だと思わずチョーカーにしちゃって!」

「あ、こっちこそごめんね。首に付けられなくて……」

 彼女がいつも付けている大きめのチョーカーには、赤を引き立てるように黒い宝石が散りばめられており、見るからに高級そうであること、彼女がいつもそれを付けていることを考えれば、大切な物であることは一目瞭然だ。

 それなのに、そんな簡単なことに気付かない自分の馬鹿さ加減に少々肩を落としながらも、彼女の優しさに救われる。

(――てか、使い魔に装飾品くれるって、バリスって本当に良い奴なんだなあ)

 使い魔の身なりをある程度整えるのはパートナーの魔法使いとして当たり前のことだが、装飾品の類を与える魔法使いは珍しい。

 まあ、それを言えば、ケテルもアローナにリボンを贈ったりしてるらしいので、お金がある家ではそう珍しいことではないのかもしれない。

「あ、そう言えば、ナタリア……最近、シリル=ワーグナー様と何かあった?」

「げ――」

「げってことは、やっぱり何かあったのね。どうも、シリル様がグレイス様の研究の件で何か動いてるらしいの」

 ため息交じりにそう言い、彼女がチョーカーから手を離す。

「グレイスの研究?」

「そう、だからナタリア……その、脅迫状の件もあるし――」

「あの野郎! グレイスに何かしたら許せないんだから!」

「え、ナ、ナタリア?」

「フッフッフッ――あの野郎がその気なら、こっちだってやってやる! 今日こそ、二度と歯向かおうなんて気が起きないくらいにケチョンケチョンにしてやるんだから!!!」

 何か言いたそうなリリアンの視線を受けながら、私は今日こそ脅迫状の件を片付けようと改めて意気込むのだった。
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