魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

文字の大きさ
14 / 21

☆ Familiar14 ☆ 悪夢は終わらない

しおりを挟む
 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピッッ――

「ハッ! 敵襲だ!」

 眠りかけていた私の耳に届いた音に反応し、顔をあげると、バシッと良い感じに頭を叩かれた。

「ナタリア=クライシスウゥゥ」

 地を這うような低い声に、頬が引きつる。

 ピピピピ、ピピッ――ゴキャ――メキ――

 無情にも魔法によって出現した黒い蛇に締め潰されたひよこ型の魔法具が、コロンと机に転がる。

「きょ、今日もご機嫌麗しゅうございますです。ベルデアンヌ先生」

「ナタリア=クライシス、次はあなたがこうなりますよ?」

 キッと最後に強く睨まれ、私は頭がクラクラするほど高速でその言葉に頷いた。それ以降は先程のアラームも気になり、居眠りはしなかった。

「ナタリア、大丈夫?」

「びっくりしたけど、大丈夫……それからね、ようやく奴を捕まえたわよ!」

「奴――?」

 困惑するリリアンを半ば引きずるように下駄箱へと連れていくと、床に散らばった黒い紙の上でモゴモゴと動く大きな白い繭があった。

 この繭こそ、私が早朝から仕掛けておいた魔法トラップだ。ニヤリと笑い、繭の先端をガシッと掴む。

「さあ、シリル、観念しなさい!」

 そのまま繭をベリッと破ると、高級そうな黒い革靴が出てきた……。

 しばしの(気まずい)沈黙の後、気を取り直してもう一方の先端を破ると、ようやくもさもさした茶髪が見えた。

「は? 茶髪? あんた誰よ? まさか、シリルの使い魔?」

 プハッと顔を出した青年に思わずガンを飛ばすと、彼は身を縮こまらせた。プルプルと震える青年を見ていると、まるで私が悪者のように見えて気にくわないが、筋は通さなくてはいけない。どうしたものかとため息をついた時、一緒にいたリリアンが「あれ?」と声を上げた。

「あなた――もしかして、アルテナ様の……?」

「リリアン、こいつのこと知ってるの?」

「知り合いではないけど……この人の胸のリボンについている月の家紋が――」

「ももも、申し訳ありませんでしたああぁぁ!!!」

 白い繭に包まれた体のまま、器用に額を地面にこすり付けて土下座のようなポーズをとった茶髪男が、震える声をあげながら何度も床に額をぶつける。

「すみません。すみません。すみ――」

「やめんかい!」

 魔力で編んだ縄で男を縛り、頭をあげさせる。もっさりした髪のせいで男の目は見えないが、怯えた雰囲気でこちらを見つめているのが分かった。

「あんた、アルテナが部屋に閉じ込めてるっていう使い魔?」

「閉じ込めてるなんて、そんな! ご主人様は、ぼぼぼ、僕のために――」

「ああ、うん。それはいいから、名前となんでこんなことしたのか教えなさい」

「……な、名前はカイン=ロマグレン――で、です。あの、こここ、これは、僕の意思でやったことで、ご主人様は関係なくって……僕は、ただ、ご、ご主人様の望みを叶えてあげたくて、笑ってほしくって……」

「は?」

「だ、だって、あなたはいつもグレイス様と一緒だし、その、だから、少しでも、は、離れてくれれば、ご主人様が望むように、お、お茶会に参加してくれるかもって……」

「お茶会?」

「うん、ご、ご主人様の選んだ服を着て、甘いお菓子においしい紅茶を飲んで、ご主人様の話を聞いて――」

「はああああ……そんな理由で――」

「そんな理由? そそそ、それこそが僕の生きる理由なんです! ご主人様の願いを叶えることで、初めて僕の存在が肯定されるんです! ああ、そう! 僕のすべてはご主人様のために!!!」

 恍惚とした表情(前髪のせいでよくは見えないが、おそらくそう)を浮かべて熱く語るカインのパートナーへの依存度具合に少々引きながらも、私は決意した。

「ああ――もう、分かった。アルテナの願いとやら、私からもグレイスに頼んであげる。だから、もう、こんな脅迫状まがいのことやめてちょうだい」

「い、良いんですか!?」

「誰かのためにっていう気持ちは分かるから……ね。ただ、もう、アルテナのために暴走するのはこれっきりにしてね? あんた鈍臭そうだし、温室育ちすぎて世間知らずっぽいし、今回のやり口もただのイタズラレベルというか――」

「ナ、ナタリア、もう、それくらいでやめてあげたら? カイン様のライフが……」

 リリアンの制止の声にカインを見ると、彼はいつの間にか「ぼ、僕なんて……」と言いながら、めそめそと泣いていた。

(やっぱり、お願いなんて聞かずに制裁を加えるべきだったかな……正直、こいつ、面倒くさい――)





 ★ ★ ★





 ようやく放課後になり、うーんと伸びをする。今日のホームルームが早く終わってしまったため、グレイスの迎えに出るにはまだ少し早い。

(それにしても、犯人捕まえられて良かったなあ。まあ、グレイスへの報告とか、アルテナのお茶会があるから憂鬱ではあるけど……あーあ、グレイス、お茶会出てくれるかな?)

 グレイスが社交的なところを想像できず、思わず苦笑がもれてしまう。そんな時、ポンッと誰かに肩を叩かれる。

「シリル様が今、学校へ来るようです。急な連絡で私も少々戸惑っておりますが、貴方達も気をつけて下さい」

 スッと音もなく離れていくアローナの後ろ姿を見つめながら、彼女の助言に感謝する。

「ね、ねぇ、ナタリア……」

「あ、リリアン――って、顔色悪いけど、大丈夫?」

「う、ん……ちょっと、まだ本調子じゃないみたいで――あのね、今日はなんだかすごく嫌な予感がするの……だから、ナタリア、あなたは早く帰――」

 リリアンのか細い声をかき消すように響いた爆発音に、残っていた生徒達が騒ぎ出す。何事かと窓の外を見れば、魔法使いの学校の方から黒い煙が上がっているのが見えた。

「グレイスッ!」

 慌てて駆け出そうとすると、グニャリと空間が歪んだ。何事かと辺りを見回すと、黒く塗りつぶされていく視界の端に驚くリリアンの顔があった……。

「ここ……どこ?」

 目の前にあるのは暗闇だけ――しかし、先程の感覚は分かっている。あの魔法は空間移動だ。しかも、感知できた魔力量からそれほど遠くには来ていないことが分かる。

「倉庫か何かかな……」

 光の差さない闇の中で、自分が目を開けているのかさえ分からなくなってくる。とりあえず、明かりが必要だ。短く呪文を呟き、魔法で光の球を形成する。その瞬間、背後に誰かの気配を感じ、バッと振り返る。

 振り返った瞬間、目の前にあった白い狐面に驚いていると、顔に何かスプレーをかけられ、一気に眠気が増す。最後の力を振り絞り、狐面に向けて攻撃を仕掛けようとするが、魔力が上手く流れず、狐面の喉元をひっかくような形になった。

 赤い何かが舞い、首元の縄の締め痕と黒い首輪のような呪術の刻印が目に焼き付く。私は眠りの淵へと落ちていきながら、そっと涙をこぼした。どうせ眠るのなら――夢など見ないほど、深く深く眠ってしまいたかった……。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...