魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

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☆ Familiar20 ☆ 憧れ

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「はあ、食べた食べた~♪」

「甘い物をよくあれだけ食べれるな。僕は途中からお前が食べている姿を見るだけで胸焼けがしてきたぞ」

 アルテナの邸宅から表門へと移動する途中、ケテルが白いハンカチを口元にあて、顔を青くしている。

「甘い物は別腹ってよく言うじゃん」

「お前のソレはもはや別空間の勢いだったぞ!?」

「えへへ、それほどでも~」

「いや、褒めてるわけじゃないぞ? おい、グレイス……コイツ、家でもあんなに甘い物ばかり食べてるのか?」

「家ではキチンとバランスよく食べさせるようにしてる。今日は特別だ」

「わーい!! とっくべつ、特別♪」

「食べさせるようにって……お前それ、母親かペットの飼い主のような発言なんだが? おい、ナタリア、その扱いで良いのかよ……」

「だって今日は特別だもん♪ あ、家帰ったらついでにホットケーキも食べたいかも! ハチミツタ~ップリの! あ、ブルーベリージャムとかバニラアイス乗っけても美味しそうだな~」

「ああ、こりゃ聞いちゃいねーな。つーか、あんだけ食べてまだ食べるのかよ!? おい、グレイス! お前が甘やかし過ぎているせいで、コイツ、確実にデブへの道を進んでるぞ!」

「もちろん、食べた分の運動はしてもらう予定だ。健康の管理は万全だ」

「え、あれ? グレイス……目が怖い。特別って、もしかしてあの地獄のスパルタ運動メニューをするって意味の特別だった!?」

「どんな運動メニューなんだよ、ソレ――」

 ケテルとグレイスと軽くじゃれ合って話していると、ピタリとケテルが足を止めた。不思議に思い、彼の目線の先を辿ると、表門の前に紫色の髪を落ち着かない様子で撫でつける青年の姿があった。今から社交界のパーティーにでも行けそうな装いをしている彼の姿を見つけ、後ろから着いてきていたアローナにもケテルと同様に緊張が走るのが分かる。

「ゲッ――シリル……」

 思わず漏らしてしまった言葉に、シリルは眉根を釣り上げた。

「ゲッ――とはなんだ、ゲッとは……まったく、不愉快極まりないな!? これでも私はお前達がやってきた諸々に収集をつけた功労者だぞ!?」

「あ、そうだったね。アリガトウゴザイマス」

「おお、そうだ。もっと敬うことだな!」

 私のカタコトなお礼に機嫌を良くしたらしいシリルがふんぞり返ったところで、ケテルが一歩踏み出した。

「兄上様、本日はどうされたのですか?」

 張り付いた笑顔を浮かべ、そう問いかけるケテルをしばし見つめたシリルは、何故か急にケテルの頭を撫でた。そう、撫でたのだ。不機嫌そうに眉根を寄せて、少し乱暴に……。

「あ、兄上、様?」

 綺麗に整えられていた青い髪がグチャグチャになり、ポカンとしたケテルの顔は、先程の偽物の笑顔と違い、完全に素の顔だった。

「フン――ケテル、家族の間でくらい気を抜いたらどうだ。それから、コレをお前にやる」

「え、鍵――ですか?」

 ケテルは急に手に乗せられた金色の鍵とシリルの紫色の瞳を交互に見つめ、混乱が隠せない様子だ。成り行きを見守る私達も、同じように彼らのやり取りに理解が追いついていない。

「ああ、学校の近くに別宅があってな。お前とアローナと何人かの使用人で暮らすのにちょうど良いだろう」

「……え?」

「その、今まで悪かったなケテルにアローナ」

 急に話に出されたアローナがピクリと反応し、反射的にお辞儀をした。

「顔を上げろ、アローナ。ああ、なんだ、私は非礼を詫びようとしているのだ。父上や母上は私が説得した。後はお前の意志だけでその別宅を使え。それから、お前が学校を卒業するまでには家の中でも使い魔の扱いを改善する予定だから、ま、まあ、楽しみにしておけ」

 腕を組み、ふんぞり返るシリルの言葉に、その場にいる誰もが固まった。

「な、なんだその反応は! この私がここまでしているんだ!! 喜ぶとか何かしたらどう――ファッ!?」

 照れ隠しなのか、顔を真っ赤にして怒鳴ったシリルが慌て始める。それもそうだ。私だって驚いている。もはや儚げな美少年と化したシリルの目からハラハラと涙が溢れていたのだ。

「な、なんだ、その、べ、別にお前を家から追い出そうとしたんじゃないぞ!? ただ、まだ家では使い魔への扱いが整っていないから、ケテルやアローナには大変だろうという私なりの配慮からで――」

「兄上様……ありがとうございます」

 涙の次は、フワリと天使のように微笑んだケテルに、今度は目玉が飛び出しそうになる。

「僕は――ずっと、兄上様に嫌われていると思っていました」

「え、ああ、その……別に嫌っていた訳ではなく、あ、兄としての威厳をだな、保ちたかったというかだな……」

「うわあ、シリルがモジモジしてる……」

「おい、外野のナタリアあぁぁ! 茶化すな!!!」

 私の呟きに盛大なツッコミを入れた後、咳払いを1つして、シリルは真剣な顔をした。

「ケテル、お前には才能がある。私はお前に尊敬される兄でありたいと常々思っていた。だが、未熟な私はお前の才能に勝てなくなっていく自分が赦せなくて、それでもお前の上には立っていたくて、あんな風に格好悪い姿を晒してしまっていた。力や恐怖で押さえつけるなど、醜いだけなのにな……」

 光に反射し、キラキラと輝く紫色の瞳とバッチリ視線が交わり、ついつい笑ってしまう。

(あの時の言葉、ちゃんと届いてたんだ……シリルのように、真っ直ぐなバカばっかりだったら世の中の改革はもっと早く進みそうなのにな――)

「おい、ナタリア=クライシスッ! お前、なんか失礼なことを考えていなかったか!?」

「いいえ~、ただ、間違いを認めて、ちゃんと向き合ってる今のあなたは、なんかカッコイイなって思っただけですよ~」

「そ、そうだろう! そうだろう!? 私はカッコイイだろう!!」

(チョロイなあ)

「フン――そうだぞ、ナタリア。僕の尊敬するシリル兄様は昔からカッコイイんだ!」

 快活に笑うケテルの口調は、いつもの憎まれ口に戻っていた。彼らの話し方が似ていたのは、家族だからだけではなく、ケテルのシリルに対する憧れから来ていたのかもしれない。

『昔はあんな兄ではなく、僕の憧れだったんだけどな……』

 ケテルが前に言った言葉が脳裏に浮かぶ。

 兄弟のわだかまりが消えて互いに笑い合う姿は、この一癖も二癖もある兄弟であっても美しいと感じた。まあ、私への怒鳴り声が二重になるのはちょっとばかし煩い気はするけれど……。
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