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熱々のレモンティーは不安の味
しおりを挟む「凛子さん。ありがとうございます」
重い荷物を持ちながら階段を下っていく中、前を行く最上に感謝の意を示す。
ボクは今、田辺から頼まれた運送作業中。
そして、最上はそれを手伝ってくれている。
「一人じゃ運べない物もあったから助かりました」
ボクは、ここにはいない役に立たないメンバーを思い出しながら、最上に笑顔を送る。
(鳴海はしばらく起きないから仕方ないとして、レイとアルは……まあ、今は考えるの、止めておこう)
「気にしないで奈央ちゃん。私にとっても、ちょうど良い運動になってるから」
ボクの方が後輩だと分かり、幾分か砕けた様子で話してくれるようになった最上の笑顔に眩しさを感じる。
「そういえば、優衣ちゃんから聞いたんですけど、凛子さんって優秀なんですね」
「え? 優衣ちゃんから?」
戸惑ったように言う最上は、ぎこちなく笑う。
「私なんかより、新井君の方が断然優秀よ」
「そんな、ご謙遜を……」
最上の言葉に、ボクはそんな返しをする。これはお世辞ではなく、本当の話だ。
「いやいや、新井君は海外留学してみないかって教授直々に言われるくらいにすごくって、私にとっては本当にもう、憧れの存在で……」
頬を上気させながら、熱く語り出す彼女の様子に驚きを感じつつも、話の続きを待つ。
「それなのに、その話を蹴ってまで地元の弱小企業に勤める方を選んじゃうなんて……本当に残念」
最後に小さく、やっぱりあの子……と言う意味不明な言葉を呟き、最上は黙り込んでしまった。
「凛子さんは留学する予定なんですか?」
重くなる空気の中、何とか話題を探そうと、そんな質問を投げかけてみる。その時、不意に最上の表情が強張った。
「私は……企業に勤めるつもり。新井君のように選べる道はないの」
少し悲しげに笑う彼女を見て、心が痛んだ。
(でも、凛子さんの能力からいけば、海外留学も楽勝なはず……だとしたら――)
「よし、これで全部ね」
最上の声に、意識が現実の方へと引き戻される。いつの間にか物置の中にまで来ていたらしい。
「奈央ちゃん、疲れたでしょう? お茶していかない?」
最上にそう言われ、ボクはお言葉に甘える事にした。
◇ ◆ ◇
「紅茶で良いかしら?」
最上の研究室はお昼時の為か誰もいなかった。ボクが彼女の言葉に頷くと、彼女は奥へと引っ込んでいった。
手持無沙汰になり、何となく彼女の机の上を見る。そこには綺麗に瓶が立ち並び、中には錠剤が入っているのが見て取れた。
(いろんな薬があるな……あと、アロマテラピーの本がこんなに……)
何気なくそうやって眺めていると、本と本の間に紙が一枚挟まっているのを発見した。
(これは……?)
本の間から微妙にはみ出していたその紙を抜き出すと、そこには不可思議な紋様が円形に書かれていた。
「ねぇ、奈央ちゃん。お菓子、クッキーで良い?」
「あ、はい。お構いなく」
隣の部屋からひょっこり顔を出した最上の言葉に笑顔で返しながら、咄嗟にその紙を元の位置に戻す。
(あの紋様は……いったい?)
疑問を残しながらも、ボクは最上からレモンティーを受け取った。
「そういえば、オカルト研究会の部長さん、知ってる?」
「ああ、瑠美奈ちゃんのことですよね?」
「ええ、その子、最近この棟の周辺にいることが多くって気にしてたんだけど……。ここだけの話、あの子、新井君のことを好きだったんじゃないかしら……」
内緒話をするように最上の声が小さくなる。
「実はこの間、新井君と優衣ちゃんが一緒にいるところをその子がすごい形相で睨んでるのを見ちゃったの」
「え? 瑠美奈ちゃんが? 何かの間違いじゃ……」
「そう言われればそうかもしれないけど、あまりにも殺気立ってて、ちょっと怖かったのよね……」
最上の言葉により広がった不安を押し殺すように、ボクは熱いレモンティーを口に含むのだった。
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