1 / 6
悪夢の始まり
しおりを挟むああ、私は夢を見ている。
それも、とびっきりの悪夢を……
それなのに、どうして?
どうしてこんなにもあなたの手は――
【さあ、もう一度ゲームを始めよう……】
バッと目を覚ました瞬間、思わず自分の手のひらを凝視する。窓から差し込む太陽の光に照らされた自身の手は、情けないほどに震えていた。
(あれは――何?)
知らず知らずのうちに乱れてしまった息を整えながら、私は汗がにじんだパジャマの上から心臓を押さえた。まだバクバクしている……。
きっと、それほどまでにあの夢は怖かったのだろう。いや……怖かったのだ。あれはなんだった? 血だまりの中、こちらを振り返ったあの黒い毛むくじゃらの――
「人狼だって! 絶対!!」
外から聞こえてきた少女の大声に、二重の意味で心臓が飛び上がった。
(人狼……)
夢の中で見た赤い瞳を思い出し、震えが止まらなくなる。
(いやいや、しっかりしてよ私。たかが夢よ? 何もそんなに怖がることはないでしょ)
私が長く息を吐き、気持ちを落ち着ける。
(ああ、でも、夢の中であの人に会えた――そう、あの人に……って、あ……れ? あの人って――誰? 私は何か大切な――)
私の思考は、外から盛大な溜息と共に聞こえた面倒くさそうな少年の声によって中断された。
「そんなのお前の見間違いに決まってるだろ。人狼なんて大人達が子供に言うことを聞かせるために作った架空上の生物だって」
その言葉に、私も心の中で頷く。
(ああ、人狼――ね。そう、あれはただの架空上の――)
「絶対にいたもん!」
私の思考は、先程から外の声に邪魔されまくっている気がする。
窓を開けて外の様子をうかがうと、向かいの教会に住んでいる少女と少年が花壇に水をあげているところだった。
「だから、何かの影をそれと見間違ったんだろ? よく言うだろ、幽霊の正体見たり枯れ尾花って」
「本当にいたもん。だって、赤い目でこっちを見たんだよ!? 絶対絶対、いるもん!! だから……だからさ、今日一緒に寝てよぅ……」
少女がジョウロそっちのけで少年の服の裾を引っ張りながら、今にも泣きそうな声でお願いしている。よっぽど怖かったのだろう……。
「嫌だって。いつも通り一人で寝ろって」
「でも、人狼が……」
「人狼なんているわけ――」
「いるよ」
白熱していた少年と少女の会話に、しわがれた老婆の声が入ってきた。
「うっわ、いきなり出てきてなんだよババア! ビックリしただろうがッ!!」
「ああ、驚かせたようで悪いねぇ」
老婆がニッコリと笑うと、少女は少年の後ろにさっと隠れ、チラチラと老婆へと視線を送っていた。少女の人見知りは健在のようだ。
「そうさね、さっき言っていた人狼のことだけど……奴らはいるよ。そう、今もぎらついた赤い目を隠し、人の中に混じって……。ほうら、お前さん方のすぐ近くにも――」
「よう、ばあさんに坊主達、元気か?」
「「!!!」」
老婆の声を受け継ぐようにおじさんの明るい声が響き、少年と少女は面白いほどに飛び上がった。
「おいおい、ジョウロ吹っ飛ばして何してんだよ坊主」
「い、いきなり出てくんなよ、おっさん! ほら見ろ、コイツだって怖がってるだろ!」
少女がギュッと少年にしがみついている姿を見つけたおじさんは、申し訳なさそうに頬をかいた。
「いやあ、その……悪いな。何か大事な話でもしてたのか?」
おじさんの言葉に、老婆はニタリと笑った。
「人狼の話だよ」
「……ばあさん、顔怖いんだから、その話するの冗談抜きでやめてくれないか。俺が小さい時もそれでビビってトイレに行けなくなったの忘れたわけじゃねーだろ?」
おじさんが少し困ったように笑った。
「おお、そうだったか? 最近物忘れがひどくてねぇ」
「ばあさん、それ、ただ単に面白がってやってるだろ。まったく、いつまでも元気なことで……あ、でも、坊主達にはほどほどにな」
「ああ、分かってるよ。話もここら辺にしておこうか。あんたのところに下宿してる女学生さんも来たようだしね」
「ん? あ、朝飯できたみてぇだな。それじゃあ、またな」
おじさんが元気に家までかけていく背を少し眺めた老婆は、少年に怖がらせたお詫びだと言って少女の分と二つの飴をあげていた。
「人狼……か」
不意にこぼれた私の声は、誰の耳にも届かず、窓から入ってきた柔らかな風に運ばれていってしまった。
そして、この時の私は――いや、この村に住む人々は誰も気付いていなかった。
これが悪夢の始まりに過ぎないことを……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる