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第2章 深海の檻が軋む時
第16変 人魚の葛藤(裏)
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~シアン視点~
チラリと横を見ると、ちょっと遠目ではあるが一生懸命に【妖精の実】をすり潰す彼女の姿が視界にうつる。
最初は力が強すぎて器具ごと砕いてしまった彼女だが、今は要領をつかんだのか薬研を使いこなして一生懸命に【妖精の粉】を作ってくれている。
(どうしよう、マズイッ――マズイよこの状況!!! どうしたらいいの!?)
……うん、僕がこんなに錯乱しているのもしょうがないことだと思う。
(だって、彼女が着てるの僕の白衣だよ!? し、下着はきっとき、ききき、着てるとしても、他の服は着てなくて――)
ブンブンと頭を横に振り、なんとかやましい考えを振り払う。
(とりあえず、今まったく必要ない空中浮遊薬――【妖精の粉】を彼女に作るよう、間違えて指示を出しちゃったのは仕方ないことだよね!?)
オロオロしながらではあるが、自分の手は的確に魔薬を生成していっている。
(日頃の研究成果がここで現れるのは何とも言えないけど、とりあえず魔薬作りでこ、こ、心をお、おち、落ち着かせ――)
その時、彼女が作っている金の粉が少し、彼女の白衣へとこぼれた。彼女はそのことに気付かず、一生懸命実をすり潰している。
(ッ――!?)
白衣にこぼれた【妖精の粉】は完成品だ。その証拠に白衣の裾が浮かび、彼女の白い太ももがチラリと見える。咄嗟に彼女の太ももから目をそらし、目の前の魔薬へと意識を集中させようとするが、あまりの混乱ぶりに今までにないほどに手が震え、ビーカー中の緑色の液体が大きく波打っている。
(ぼ、ぼぼぼ、僕にどうしろと!? なんで僕はあの粉作らせたの!? こ、故意にじゃないからね!? 絶対違うからね! 魔薬品作りで手伝えそうなものなかったから、だ、だだだ、だから、何とかできそうなものを探したらあったのがそれってだけで!! で、ででで、でも、それ指示したのは僕だし、ど、どうしよう!!!)
完全にパニックになっている僕に、彼女はとどめの一撃を持ってきた。
「シアン、できたよ!」
彼女は満面の笑みで、僕の元へと完成した金の粉を持ってきてくれた。僕もその言葉に、ショート寸前の脳内のまま彼女を見た。
僕の白衣は彼女に大きいように見えた。いくら細身の僕といえど、彼女より少しは背が高い。彼女は長めの袖を折って邪魔にならないようにしていたし、裾も長く、さっきの粉でもギリギリ太ももが見えた程度だ。でも、一つ彼女には小さかった部分があったみたいだ。
(あ――もう、僕、ここで死ぬかも)
男の僕にはない膨らみ……彼女の豊満な――胸。
彼女はその……わりとある方だ。
だからだろう。今にも吹っ飛びそうな白衣のボタンの隙間から見えてしまった。
一糸まとわぬ――
「シアン?」
「あ、あああの、あ、ありがとう。あ、ああ、あともうちょっとで完成だから、る、るるる、ルチアーノは、せ、洗濯物も乾燥できた頃だし、それ着てて!!! ね、それがいいよ、そうしようよ!!!」
かなり強引な話転換だったような気がするが、僕の心の平穏のためにも早く普段の学校指定の軍服を着てほしい。
(白衣とか! しかも、予備ではあるけど、僕がき、着てたのとか!! す、すすす、素肌にとか、絶対ダメだから!!!)
僕の動揺具合に彼女は何故か優しい笑みを浮かべながら洗濯機がある隣の部屋へと行ってくれた。
彼女が研究室からいなくなった瞬間、僕は黒い研究机に額をぶち付ける。
(わああぁぁ――見ちゃった、見えちゃった!? どうすんの!? どうしたら良いの!?)
あの白い素肌を頭から振り払うように何度もぶち付けるが、消えてくれない。これはなんの試練なのだろう? ルチアーノのためには忘れるべき事のはずなのに、あの綺麗な光景が頭から離れない。そういえば、崖から落ちる時に僕はあの柔らかい――
(って――うわああぁぁ!!! 僕は何を考えてるんだ!? 確かに僕は彼女を好ましく思っちゃってるけどさ、ぶっちゃけ、今日会った仲なのにその考えとか行動とか、なんか好きだなあとか思っちゃってるけどもさ、でもでも、うわあぁ、僕、最悪だ……本当に最低な男だ!! ああ、もう、ぼ、ぼぼぼ、煩悩よ、消えろおぉ!!!)
何度も机に額を打ち付けていたことにハッとなって辺りを見る。周囲には連続して強く打ち付けたせいで飛び散った僕の血が飛散しており、軽くスプラッタな惨状ができている……額の傷はまあ、治癒力が高い方なので放置していても塞がるが、この血はマズイ。
見た目もそうだが、その内に宿る毒の効力もマズイので、僕は早急に魔力でそれらをかき集め、手近にあった空き瓶に入れる。こういう時、液体を操る魔力操作は楽だ。蒸発しやすいものや吸収されやすいもの、固化しているものだとこうはいかないのが欠点ではあるが、液体として飛び散ったままの血を残さずに処理できる。
少々固化した部分が机周辺に残っていたため、しっかりと拭き取る。
(ま、まあ、これで良いかな?)
黒い机の端っこには僕が頭を打ち付けすぎてできた妙なヘコミができてしまったが、あまり目立たない。とりあえず、血を拭き取った雑巾をゴミ箱に捨て、一度落ち着く。
「シアン洗濯機貸してくれてありが――って、ぎゃあああああ!!!」
研究室のドアが開き、軍服姿のルチアーノに安心していると、なぜか彼女が叫び声を上げる。
「?」
「ど、どどど、どうしたの、めっちゃ血みどろだけど、な、ななな、何があったの!?」
(あ、自分の顔、拭くの忘れてた……)
その後、とりあえずうっかり魔薬瓶を割ってしまったことにして顔を洗い、もう少しで完成する魔薬のためにもうひと頑張りするのだった。もちろん、彼女にはすごく心配されたけど、完成はあと少し。
どうせなら最後まで…………彼女と一緒にやり遂げたい。
~シアン視点END~
チラリと横を見ると、ちょっと遠目ではあるが一生懸命に【妖精の実】をすり潰す彼女の姿が視界にうつる。
最初は力が強すぎて器具ごと砕いてしまった彼女だが、今は要領をつかんだのか薬研を使いこなして一生懸命に【妖精の粉】を作ってくれている。
(どうしよう、マズイッ――マズイよこの状況!!! どうしたらいいの!?)
……うん、僕がこんなに錯乱しているのもしょうがないことだと思う。
(だって、彼女が着てるの僕の白衣だよ!? し、下着はきっとき、ききき、着てるとしても、他の服は着てなくて――)
ブンブンと頭を横に振り、なんとかやましい考えを振り払う。
(とりあえず、今まったく必要ない空中浮遊薬――【妖精の粉】を彼女に作るよう、間違えて指示を出しちゃったのは仕方ないことだよね!?)
オロオロしながらではあるが、自分の手は的確に魔薬を生成していっている。
(日頃の研究成果がここで現れるのは何とも言えないけど、とりあえず魔薬作りでこ、こ、心をお、おち、落ち着かせ――)
その時、彼女が作っている金の粉が少し、彼女の白衣へとこぼれた。彼女はそのことに気付かず、一生懸命実をすり潰している。
(ッ――!?)
白衣にこぼれた【妖精の粉】は完成品だ。その証拠に白衣の裾が浮かび、彼女の白い太ももがチラリと見える。咄嗟に彼女の太ももから目をそらし、目の前の魔薬へと意識を集中させようとするが、あまりの混乱ぶりに今までにないほどに手が震え、ビーカー中の緑色の液体が大きく波打っている。
(ぼ、ぼぼぼ、僕にどうしろと!? なんで僕はあの粉作らせたの!? こ、故意にじゃないからね!? 絶対違うからね! 魔薬品作りで手伝えそうなものなかったから、だ、だだだ、だから、何とかできそうなものを探したらあったのがそれってだけで!! で、ででで、でも、それ指示したのは僕だし、ど、どうしよう!!!)
完全にパニックになっている僕に、彼女はとどめの一撃を持ってきた。
「シアン、できたよ!」
彼女は満面の笑みで、僕の元へと完成した金の粉を持ってきてくれた。僕もその言葉に、ショート寸前の脳内のまま彼女を見た。
僕の白衣は彼女に大きいように見えた。いくら細身の僕といえど、彼女より少しは背が高い。彼女は長めの袖を折って邪魔にならないようにしていたし、裾も長く、さっきの粉でもギリギリ太ももが見えた程度だ。でも、一つ彼女には小さかった部分があったみたいだ。
(あ――もう、僕、ここで死ぬかも)
男の僕にはない膨らみ……彼女の豊満な――胸。
彼女はその……わりとある方だ。
だからだろう。今にも吹っ飛びそうな白衣のボタンの隙間から見えてしまった。
一糸まとわぬ――
「シアン?」
「あ、あああの、あ、ありがとう。あ、ああ、あともうちょっとで完成だから、る、るるる、ルチアーノは、せ、洗濯物も乾燥できた頃だし、それ着てて!!! ね、それがいいよ、そうしようよ!!!」
かなり強引な話転換だったような気がするが、僕の心の平穏のためにも早く普段の学校指定の軍服を着てほしい。
(白衣とか! しかも、予備ではあるけど、僕がき、着てたのとか!! す、すすす、素肌にとか、絶対ダメだから!!!)
僕の動揺具合に彼女は何故か優しい笑みを浮かべながら洗濯機がある隣の部屋へと行ってくれた。
彼女が研究室からいなくなった瞬間、僕は黒い研究机に額をぶち付ける。
(わああぁぁ――見ちゃった、見えちゃった!? どうすんの!? どうしたら良いの!?)
あの白い素肌を頭から振り払うように何度もぶち付けるが、消えてくれない。これはなんの試練なのだろう? ルチアーノのためには忘れるべき事のはずなのに、あの綺麗な光景が頭から離れない。そういえば、崖から落ちる時に僕はあの柔らかい――
(って――うわああぁぁ!!! 僕は何を考えてるんだ!? 確かに僕は彼女を好ましく思っちゃってるけどさ、ぶっちゃけ、今日会った仲なのにその考えとか行動とか、なんか好きだなあとか思っちゃってるけどもさ、でもでも、うわあぁ、僕、最悪だ……本当に最低な男だ!! ああ、もう、ぼ、ぼぼぼ、煩悩よ、消えろおぉ!!!)
何度も机に額を打ち付けていたことにハッとなって辺りを見る。周囲には連続して強く打ち付けたせいで飛び散った僕の血が飛散しており、軽くスプラッタな惨状ができている……額の傷はまあ、治癒力が高い方なので放置していても塞がるが、この血はマズイ。
見た目もそうだが、その内に宿る毒の効力もマズイので、僕は早急に魔力でそれらをかき集め、手近にあった空き瓶に入れる。こういう時、液体を操る魔力操作は楽だ。蒸発しやすいものや吸収されやすいもの、固化しているものだとこうはいかないのが欠点ではあるが、液体として飛び散ったままの血を残さずに処理できる。
少々固化した部分が机周辺に残っていたため、しっかりと拭き取る。
(ま、まあ、これで良いかな?)
黒い机の端っこには僕が頭を打ち付けすぎてできた妙なヘコミができてしまったが、あまり目立たない。とりあえず、血を拭き取った雑巾をゴミ箱に捨て、一度落ち着く。
「シアン洗濯機貸してくれてありが――って、ぎゃあああああ!!!」
研究室のドアが開き、軍服姿のルチアーノに安心していると、なぜか彼女が叫び声を上げる。
「?」
「ど、どどど、どうしたの、めっちゃ血みどろだけど、な、ななな、何があったの!?」
(あ、自分の顔、拭くの忘れてた……)
その後、とりあえずうっかり魔薬瓶を割ってしまったことにして顔を洗い、もう少しで完成する魔薬のためにもうひと頑張りするのだった。もちろん、彼女にはすごく心配されたけど、完成はあと少し。
どうせなら最後まで…………彼女と一緒にやり遂げたい。
~シアン視点END~
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