8 / 16
Ⅷ 絶体絶命
しおりを挟む
「あれ――? 迷子の人間さん。もうイベントはクリアできたんですか?」
「あ、その、まだなんですが、ちょっと息抜きに――」
インフォメーションセンターでは、相変わらずふりふりのメイド服を着ている黒猫がいた。キラリと光る赤いスタッフの証が、黒猫が忙しく動くたび左右に揺れている。そして、今回はその横に可愛らしい水色のドレスを着たアリスの姿もあった。胸元で揺れる赤いスタッフの証はアリスが立ち上がったのと同時にピョンッと元気よく跳ねた。
「ああ、この子が迷子の人間さん? 初めまして、私、アリス!」
「え? ああ、はい……」
元気よく右手を出され慌てて握手を交わしたが、実際は初対面ではないため、どうしても反応が鈍くなってしまう。
「息抜きは大事だよね、うんうん。ゆっくりしていってね」
ブンブンと握手した手を上下に振られ、思わず苦笑してしまうが、その申し出をありがたいと思う。握手が終わり、先程から忙しなく動いている黒猫へと目を向けると、何やら壊れた陶器の人形を片付けているところのようだった。よくよく見ると、教室の大きな黒板の前に置かれている長机の上には陶器の人形が綺麗に並べられていた。
「あれ――? その陶器の人形って、最初からありましたっけ?」
私の素朴な疑問に、アリスがにんまりと笑う。
「ああ、気づいてくれた? 実はさっき、白ウサギさんに頼まれて設置したばかりなんだ!」
アリスは嬉しそうに陶器人形の一つを持ち上げる。黒髪ショートヘアでちょっと切りすぎた前髪に、少し垂れ目がちな黒い瞳が寂しげにこちらを見つめてくる。服装はアリスと同じ水色のドレスに可愛いフリルが付いた白いエプロンという可愛らしいものだったが、その人形はまるで生きてる人のようにあまりにもリアルすぎて、不気味に感じられた。そして、何より、その人形は――
「――あなたにそっくりだと思わない?」
そう、アリスが言うように、本当に私と瓜二つなのだ。抱き抱えられるくらいの大きさではあるのだが、あまりにも似過ぎている人形にいっそう気味の悪さを覚え、思わず顔が引きつってしまう。
「あなた――勘が鋭いのね」
「え――?」
「ううん、ただ……この人形、私がここに来た人の資料を参考に作ったの。私、人形が大好きだから作るの楽しかったよ」
アリスは「あなたのは力作なの」と楽しそうに笑った。私は、その笑顔から目をそむけ、壊れてしまった人形へと目をやった。
「……この人形にも参考にされた人がいたんですか?」
「はい。いましたよ。今は壊れてしまいましたが……とてもいい出来でした」
黒猫は壊れた人形の頭部を持ち上げ、こちらを見てニッコリと笑った。その人形の空虚な黒い瞳に、何故だか底知れぬ恐怖を感じた。
「まあ、陶器なので、壊れやすいのはご愛嬌ということになりますが……」
「もう、黒猫ってば、掃除が大変だからってそんなこと言わないでよ。陶器でも壊れにくい子はいるんだから――あ、そういえば、あなた、今青龍のスタンプのところまで行ってるんだってね」
「あ、は、はい?」
急な話をこちらに振られ、思わず疑問で返してしまう。そもそも、今もらえるスタンプの名前すら知らないので、疑問系なのは仕方がないことなのかもしれない。
「そっか。それにしても、もう答えに行き着いてるんだね」
アリスは、私が持っている本を見ると、嬉しそうに笑った。
(? この本が答え――?)
「ああ、コランダムの仲間外れでしたね。確か、宝石界の中では赤色のルビー以外の色は全てサファイアっていう……」
「うん、それそれ!」
(あ、じゃあ、赤色が仲間外れってことか!)
黒猫とアリスの会話から答えが分かり、思わずフランケンが渡してくれた本を抱えていた腕にギュッと力が入る。
「それにしても、ヒントが魚の目の宝石って分かりにくいと思うんだよね。まあ、だからこそ、本で調べられるようになってたみたいだけど――」
アリスが不満げに話す姿を黒猫が優しく見守っている様子に、ふとあることに気づく。しかし、確認していいのか分からない。脳裏には黒く塗りつぶされたページがチラつく。
「どうかした? 顔色、悪いけど……」
俯いていた私の顔を覗き込むようにして、アリスが少し屈む。私は「なんでもないです」と慌てて言った後、直ぐにその場を後にした。
☆ ☆ ☆
足早に去っていった女の子の後ろ姿を見送ったアリスは、置いてあった椅子に座り、机に頬杖をついた。
「なんだか、たくさんの人がこっちの世界にいるっていうのが不思議だよねぇ」
アリスはそう言って足をブラブラさせ、クスクスと笑った。それとは対照的に、暗い顔をした黒猫が小さな声で呟く。
「アリス……アリスは――」
「?」
「戻りたいって思う?」
「えぇ! 黒猫ってば何言ってるの? アハハ、笑えるぅ」
アリスが口元に片手をあてて笑う中、黒猫は耳をペタンとさせながらアリスを見つめていた。やがて、笑い声を上げるのをやめたアリスは困ったような笑みを浮かべた。
「私が存在できるのはここしかないし、今更戻ってもあっちに帰る場所なんてない。むしろ、帰る場所はこっちにあるんだから、戻りたいなんて思わないよ?」
「……」
長い尻尾をヘタリとさせた黒猫の姿に、アリスは仕方がないなあというように優しく彼女の頭を撫でた。
「何を不安がってるのかはだいたい察しがつくけど、私がいるべき場所はこっちの世界だっていうのは変わらないから安心して。そもそも、分かりきった答えを聞くなんて、いつもは賢い猫のあなたがどうしちゃったの?」
「ごめんなさい……アリスがあまりにも人間にかまってばっかりで――」
「黒猫――ううん、こっちこそ不安にさせちゃったのならごめん。でも、人と遊ぶのはモンスターとの遊びにはない面白さがあるからね……つい、楽しくなっちゃって。特に、さっき会った子は良かったなあ。できれば傷つけないでほしいかなって思うほどにはタイプだったなぁ」
「……」
「あ、でもでも、安心して良いよ? 私はずっとここにいる。ううん、ここにしかいられないんだから」
「…………」
「それじゃあ、そろそろ行こっか。このままだと白ウサギさんに働かざる者食うべからずですって言われちゃいそうだしね」
アリスがニッコリと笑い、踵を返した瞬間、黒猫はふんわりと笑った。
「ああ、そっか、あの子が良いんだね――アリス」
暗く、重い雰囲気を纏った小さな言葉は誰の耳にも届かず、ただただ黒猫の心を歪めていった。
☆ ☆ ☆
ドクドクと嫌な音を立て続ける胸を抑え、私はインフォメーションセンターから少し離れた廊下で考えを巡らした。
(元の世界にある【不思議の国のアリス】という本が、化物の世界では【化物になった少女】になっているのかもしれない。それなら、化物になった少女の名前はアリス。もし、化物側の話が真実だったなら――あのアリスと名乗った女性がそのモデルで、ダイナという猫は……)
先程から血みどろの王座の絵と優しげに笑う黒猫の姿が交互に浮かぶ。
(私が逃げなくちゃいけないのは――黒猫? でも、そもそもなんで逃げなくちゃいけないの? 逃げるってことは、ここから抜け出せるようスタンプラリーのイベントを進めていけばいいってこと?)
スタート地点に戻って得られたのはイベントの答えのみで、それ以外はまったく分からなかった。
(そもそも、あの塗りつぶされたページには何が書いてあったの?)
ゾワゾワと得体の知れない恐怖が這い上がってくる。
(私は――何を知らなくちゃいけない?)
その時、廊下の反対側から二匹のリザードマンがやってきた。どちらも人間の成人男性をゆうに超える大きさで、のしのしと大きな尻尾を優雅に振りながら歩いていた。一匹は黒に赤のまだら模様、もう一匹はゴツゴツとした緑色の体で、まるでワニのように巨大な口を持っている。二匹とも戦士のような武装をしており、頭には警備員さんが被るような帽子をちょこんと乗せている。黒地の帽子の真ん中には金色で真ん丸の刺繍が施されていて、まるで目玉のようだと思った。
「お? 人間……? 良い匂いぃ。な、な、そう思わない? ダメ? ダメかな?」
まだら模様が爬虫類特有の目をギョロリと動かし、ワニ口の反応をうかがう。
「ちょうど警備で疲れていたところ――味見くらいなら?」
パカッと大きな口を開け、長い舌をダラリと垂らしたワニ口に、まだら模様がにんまりと笑う。
「ね、ね、手ぐらいなら良いと思う?」
先ほどから流れて止まらない冷や汗のせいで、服が自身にピッタリと張り付く感覚が気持ち悪い。二匹の視線に絡め捕られたかのように体が動かない。
(で、でも、お守りを持ってるから大丈夫なはず!)
一部だけ残っていた冷静な思考回路のおかげで、ゆったりと歩いてきたリザードマン達に向けて、ずいっと首にかけていたお守りのカードを出す。
「あ、あなた達はお守りを持った私にち、近づけないです!」
手が小刻みに震えているのは自分でも分かったが、できるだけ大きな声を出した。そんな私の様子に、二匹は互いに顔を見合わせた後、盛大に笑い出した。
「ああ、お守りね、お守り。それ、大事。商品だから」
まだら模様がケッケッという咳のような笑いを披露する中、ワニ口がその頭をバシッと叩く。
「バカか。白ウサギ様に殺されるぞ」
「あ、あ、嘘、商品嘘。でも、お守りって、お守りって!」
まだら模様が笑い続ける中、ワニ口は呆れたようにため息をつき、私の腕を掴んだ。
「それで――? お守りの効果っていうのは?」
ワニ口の言葉に弾かれるように腕を振り払った私は、がむしゃらに走り出した。
(なんで? なんで――どうしてお守りが効かないの?)
もう、何が何だか分からなかった。冷静な思考回路などもうない。ただ、目前に迫る恐怖から逃げるため、私は重い足を動かし続けた。後ろからは、怒ったまだら模様の声が――
(……聞こえない?)
先程まで聞こえていたドスの利いた声やドタバタとうるさい足音が聞こえなくなり、私は走りながら後ろを確認しようとした。
きっと、浅はかなその行動がいけなかったのだろう。その瞬間、足に何かが引っ掛かり、後ろを見る暇もなく、下りの階段を頭から落ちていくことになった。
「あ、その、まだなんですが、ちょっと息抜きに――」
インフォメーションセンターでは、相変わらずふりふりのメイド服を着ている黒猫がいた。キラリと光る赤いスタッフの証が、黒猫が忙しく動くたび左右に揺れている。そして、今回はその横に可愛らしい水色のドレスを着たアリスの姿もあった。胸元で揺れる赤いスタッフの証はアリスが立ち上がったのと同時にピョンッと元気よく跳ねた。
「ああ、この子が迷子の人間さん? 初めまして、私、アリス!」
「え? ああ、はい……」
元気よく右手を出され慌てて握手を交わしたが、実際は初対面ではないため、どうしても反応が鈍くなってしまう。
「息抜きは大事だよね、うんうん。ゆっくりしていってね」
ブンブンと握手した手を上下に振られ、思わず苦笑してしまうが、その申し出をありがたいと思う。握手が終わり、先程から忙しなく動いている黒猫へと目を向けると、何やら壊れた陶器の人形を片付けているところのようだった。よくよく見ると、教室の大きな黒板の前に置かれている長机の上には陶器の人形が綺麗に並べられていた。
「あれ――? その陶器の人形って、最初からありましたっけ?」
私の素朴な疑問に、アリスがにんまりと笑う。
「ああ、気づいてくれた? 実はさっき、白ウサギさんに頼まれて設置したばかりなんだ!」
アリスは嬉しそうに陶器人形の一つを持ち上げる。黒髪ショートヘアでちょっと切りすぎた前髪に、少し垂れ目がちな黒い瞳が寂しげにこちらを見つめてくる。服装はアリスと同じ水色のドレスに可愛いフリルが付いた白いエプロンという可愛らしいものだったが、その人形はまるで生きてる人のようにあまりにもリアルすぎて、不気味に感じられた。そして、何より、その人形は――
「――あなたにそっくりだと思わない?」
そう、アリスが言うように、本当に私と瓜二つなのだ。抱き抱えられるくらいの大きさではあるのだが、あまりにも似過ぎている人形にいっそう気味の悪さを覚え、思わず顔が引きつってしまう。
「あなた――勘が鋭いのね」
「え――?」
「ううん、ただ……この人形、私がここに来た人の資料を参考に作ったの。私、人形が大好きだから作るの楽しかったよ」
アリスは「あなたのは力作なの」と楽しそうに笑った。私は、その笑顔から目をそむけ、壊れてしまった人形へと目をやった。
「……この人形にも参考にされた人がいたんですか?」
「はい。いましたよ。今は壊れてしまいましたが……とてもいい出来でした」
黒猫は壊れた人形の頭部を持ち上げ、こちらを見てニッコリと笑った。その人形の空虚な黒い瞳に、何故だか底知れぬ恐怖を感じた。
「まあ、陶器なので、壊れやすいのはご愛嬌ということになりますが……」
「もう、黒猫ってば、掃除が大変だからってそんなこと言わないでよ。陶器でも壊れにくい子はいるんだから――あ、そういえば、あなた、今青龍のスタンプのところまで行ってるんだってね」
「あ、は、はい?」
急な話をこちらに振られ、思わず疑問で返してしまう。そもそも、今もらえるスタンプの名前すら知らないので、疑問系なのは仕方がないことなのかもしれない。
「そっか。それにしても、もう答えに行き着いてるんだね」
アリスは、私が持っている本を見ると、嬉しそうに笑った。
(? この本が答え――?)
「ああ、コランダムの仲間外れでしたね。確か、宝石界の中では赤色のルビー以外の色は全てサファイアっていう……」
「うん、それそれ!」
(あ、じゃあ、赤色が仲間外れってことか!)
黒猫とアリスの会話から答えが分かり、思わずフランケンが渡してくれた本を抱えていた腕にギュッと力が入る。
「それにしても、ヒントが魚の目の宝石って分かりにくいと思うんだよね。まあ、だからこそ、本で調べられるようになってたみたいだけど――」
アリスが不満げに話す姿を黒猫が優しく見守っている様子に、ふとあることに気づく。しかし、確認していいのか分からない。脳裏には黒く塗りつぶされたページがチラつく。
「どうかした? 顔色、悪いけど……」
俯いていた私の顔を覗き込むようにして、アリスが少し屈む。私は「なんでもないです」と慌てて言った後、直ぐにその場を後にした。
☆ ☆ ☆
足早に去っていった女の子の後ろ姿を見送ったアリスは、置いてあった椅子に座り、机に頬杖をついた。
「なんだか、たくさんの人がこっちの世界にいるっていうのが不思議だよねぇ」
アリスはそう言って足をブラブラさせ、クスクスと笑った。それとは対照的に、暗い顔をした黒猫が小さな声で呟く。
「アリス……アリスは――」
「?」
「戻りたいって思う?」
「えぇ! 黒猫ってば何言ってるの? アハハ、笑えるぅ」
アリスが口元に片手をあてて笑う中、黒猫は耳をペタンとさせながらアリスを見つめていた。やがて、笑い声を上げるのをやめたアリスは困ったような笑みを浮かべた。
「私が存在できるのはここしかないし、今更戻ってもあっちに帰る場所なんてない。むしろ、帰る場所はこっちにあるんだから、戻りたいなんて思わないよ?」
「……」
長い尻尾をヘタリとさせた黒猫の姿に、アリスは仕方がないなあというように優しく彼女の頭を撫でた。
「何を不安がってるのかはだいたい察しがつくけど、私がいるべき場所はこっちの世界だっていうのは変わらないから安心して。そもそも、分かりきった答えを聞くなんて、いつもは賢い猫のあなたがどうしちゃったの?」
「ごめんなさい……アリスがあまりにも人間にかまってばっかりで――」
「黒猫――ううん、こっちこそ不安にさせちゃったのならごめん。でも、人と遊ぶのはモンスターとの遊びにはない面白さがあるからね……つい、楽しくなっちゃって。特に、さっき会った子は良かったなあ。できれば傷つけないでほしいかなって思うほどにはタイプだったなぁ」
「……」
「あ、でもでも、安心して良いよ? 私はずっとここにいる。ううん、ここにしかいられないんだから」
「…………」
「それじゃあ、そろそろ行こっか。このままだと白ウサギさんに働かざる者食うべからずですって言われちゃいそうだしね」
アリスがニッコリと笑い、踵を返した瞬間、黒猫はふんわりと笑った。
「ああ、そっか、あの子が良いんだね――アリス」
暗く、重い雰囲気を纏った小さな言葉は誰の耳にも届かず、ただただ黒猫の心を歪めていった。
☆ ☆ ☆
ドクドクと嫌な音を立て続ける胸を抑え、私はインフォメーションセンターから少し離れた廊下で考えを巡らした。
(元の世界にある【不思議の国のアリス】という本が、化物の世界では【化物になった少女】になっているのかもしれない。それなら、化物になった少女の名前はアリス。もし、化物側の話が真実だったなら――あのアリスと名乗った女性がそのモデルで、ダイナという猫は……)
先程から血みどろの王座の絵と優しげに笑う黒猫の姿が交互に浮かぶ。
(私が逃げなくちゃいけないのは――黒猫? でも、そもそもなんで逃げなくちゃいけないの? 逃げるってことは、ここから抜け出せるようスタンプラリーのイベントを進めていけばいいってこと?)
スタート地点に戻って得られたのはイベントの答えのみで、それ以外はまったく分からなかった。
(そもそも、あの塗りつぶされたページには何が書いてあったの?)
ゾワゾワと得体の知れない恐怖が這い上がってくる。
(私は――何を知らなくちゃいけない?)
その時、廊下の反対側から二匹のリザードマンがやってきた。どちらも人間の成人男性をゆうに超える大きさで、のしのしと大きな尻尾を優雅に振りながら歩いていた。一匹は黒に赤のまだら模様、もう一匹はゴツゴツとした緑色の体で、まるでワニのように巨大な口を持っている。二匹とも戦士のような武装をしており、頭には警備員さんが被るような帽子をちょこんと乗せている。黒地の帽子の真ん中には金色で真ん丸の刺繍が施されていて、まるで目玉のようだと思った。
「お? 人間……? 良い匂いぃ。な、な、そう思わない? ダメ? ダメかな?」
まだら模様が爬虫類特有の目をギョロリと動かし、ワニ口の反応をうかがう。
「ちょうど警備で疲れていたところ――味見くらいなら?」
パカッと大きな口を開け、長い舌をダラリと垂らしたワニ口に、まだら模様がにんまりと笑う。
「ね、ね、手ぐらいなら良いと思う?」
先ほどから流れて止まらない冷や汗のせいで、服が自身にピッタリと張り付く感覚が気持ち悪い。二匹の視線に絡め捕られたかのように体が動かない。
(で、でも、お守りを持ってるから大丈夫なはず!)
一部だけ残っていた冷静な思考回路のおかげで、ゆったりと歩いてきたリザードマン達に向けて、ずいっと首にかけていたお守りのカードを出す。
「あ、あなた達はお守りを持った私にち、近づけないです!」
手が小刻みに震えているのは自分でも分かったが、できるだけ大きな声を出した。そんな私の様子に、二匹は互いに顔を見合わせた後、盛大に笑い出した。
「ああ、お守りね、お守り。それ、大事。商品だから」
まだら模様がケッケッという咳のような笑いを披露する中、ワニ口がその頭をバシッと叩く。
「バカか。白ウサギ様に殺されるぞ」
「あ、あ、嘘、商品嘘。でも、お守りって、お守りって!」
まだら模様が笑い続ける中、ワニ口は呆れたようにため息をつき、私の腕を掴んだ。
「それで――? お守りの効果っていうのは?」
ワニ口の言葉に弾かれるように腕を振り払った私は、がむしゃらに走り出した。
(なんで? なんで――どうしてお守りが効かないの?)
もう、何が何だか分からなかった。冷静な思考回路などもうない。ただ、目前に迫る恐怖から逃げるため、私は重い足を動かし続けた。後ろからは、怒ったまだら模様の声が――
(……聞こえない?)
先程まで聞こえていたドスの利いた声やドタバタとうるさい足音が聞こえなくなり、私は走りながら後ろを確認しようとした。
きっと、浅はかなその行動がいけなかったのだろう。その瞬間、足に何かが引っ掛かり、後ろを見る暇もなく、下りの階段を頭から落ちていくことになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
7月は男子校の探偵少女
金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。
性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。
顔の塗りつぶされた肖像画。
完成しない彫刻作品。
ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。
19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。
(タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
寄生虫の復讐 ~美咲の冷徹な一刺し~
スカッと文庫
ミステリー
「お前みたいな寄生虫はゴミだ」
10年尽くした夫・雅也から突きつけられたのは、離婚届と不倫相手。
彼は知らない。私が家を飛び出した「サカモト・ホールディングス」の令嬢であることを。
そして明日、彼が人生を賭けて挑む調印式の相手が、私の実父であることを。
どん底に叩き落とされたサレ妻による、容赦なき「経済的破滅」の復讐劇。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる