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ⅩⅢ 犯人は?アイツとは?
しおりを挟む「緑の目玉――」
私の言葉に、ピクリと体を動かした者がいた。それで確信する。
「百目さんはドライアイなんですよね? それなのに、一つだけ瞬きをしない目玉があるのはおかしくないですか?」
「瞬きをしない目玉?」
雪女は頬に手を当て、可愛らしく小首を傾げた。
「私、前にも見てるんです。どんな魔法アレルギーの化物にもぴったりフィット、魔法感知ゼロが売りの特注品のその緑色の目玉を――」
「あ、もしかして、キョンシーさんですか? それなら魔法感知センサーに引っかからないで教室内に持ち込めますし、その中にスタンプを隠して壁に貼り付けることも可能です」
デュラハンが頷くのを見てホッとする。実のところ、この教室での異常を見抜いただけで、結局どういったことに関係しているのかは全く分かっていなかったのだ。
「キョンシーさんは誰かに頭を叩かれて両目を落としたって言ってました」
「え! どの階にも見回りがいたはずです! その見回りは気づかなかったんでしょうか?」
ファントムが顎に手をやりながら不思議そうに聞く。
「インフォメーションセンターがある廊下なんですが、見回りはいなかったような気がします……」
私の言葉に、短く驚きの声をあげたのは雪女だった。
「すみません、それ、私が見まわってた階です……妖狐さんに交代時間を早めてもらったんですが、妖狐さんは舞台のカーテンコールが終わってからしか来れず、どうしても空き時間ができてしまって……」
「たぶん、その時間を狙っての犯行だったんじゃないでしょうか? スタッフが多い分、シフトは全て同じ時間で一時間置きに組まれていましたし、一人ずつ配るのが面倒だからという理由で、全スタッフのシフト時間が乗ったシフト表になっていました。妖狐さんが舞台に出ることを知っていれば、空白の時間を狙うのは簡単だったはずですよ?」
デュラハンの言葉に頷きながら、私は更に確信に迫る手がかりを掴んでいた。
「ジャックさんとゴーストさんはこの部屋にきてから一度も外に出ていないということでいいんでしょうか?」
「はい。それは百目が証明してくれています」
ニッコリと微笑むデュラハンの言葉に呼応するように、百目の瞬きが一層多くなる。
「スタッフのシフトは全て一時間置き……ということで、雪女さんと同じ時間には、ジャックさんとゴーストさんの二人がシフトに入っていました。その間、キョンシーさんの目玉を奪えるのはファントムさんとデビルさんですが、ファントムさんは妖狐さんと一緒の舞台に出ていたんじゃないですか? 確か『舞台に出演後そのままここへ来た』って言っていましたよね?」
「その通りです! ちなみに、カーテンコールに出たところは、ちゃんと記者がカメラに撮ってくれているはずなので、明日あたりアヤカシ通信に載るかと――」
「妖狐さんと一緒の舞台から帰ってきたのでは、キョンシーさんの頭を打って両目を奪い、その片目を目玉焼きの屋台の具材の中に混ぜるなんてことできません」
私は、ファントムの話を遮り話し続けた。
「それが可能なのは、他でもない、屋台で食べ歩きをした後ここへ来た――デビルさん、あなただけですよね? その証拠に、霧が晴れた後あなたがいた入口付近の壁にある緑の目玉だけが瞬きをしていません。それこそがキョンシーさんの目玉であり、スタンプの隠し場所ってことですよね?」
「ああ、うん。正解だね」
デビルが入口付近にあった緑の目玉を壁から引っぺがすと、彼の手のひらの上にポロリと白いスタンプが転がった。
「はい、おめでとう。名推理だったよ」
そのスタンプを私のお守りのカードの裏にポンッと押す。そこには、白く輝く雄々しい虎の印が浮かんでいた。その様子をポカンとして見ていたデビル以外のメンバーに、デビルは楽しそうに口角を釣り上げた。
「これで全てのスタンプ制覇ってことになるのかな? うん。なかなか楽しかったよ」
「え――終わりですか? なんかこう、抵抗とかってのは――」
私の言葉に、一瞬驚いたデビルはニカッと鋭い犬歯を見せながら笑った。
「ないない。だって俺、邪魔したかっただけだもん。ただの時間稼ぎ。まあ、そんなに意味なかったみたいだけど」
「エ? エエエエェェ!」
「ボク達みんなの時間返してくださいよ!」
皆の気持ちを代弁してくれたゴーストとジャックの声を聞き、私はそっと教室から出て行ったのだった。
(時間稼ぎ――か)
外を見ると、もう夕日が見えていた。
(随分、時間がかかっちゃったなあ……でも――)
「ようやく、ようやく――スタンプが揃った」
小声で呟き、グッと小さくガッツポーツをした私は、早る気持ちを抑え込み、インフォメーションセンターへと続く廊下を駆け足で進む。その時、外から何やら歓声が聞こえてきた。
「?」
窓の外を見ると、白い半球型のホールがあり、そこにわらわらと化物達が集まっていた。あちら側の世界では見かけなかったモノに思わず好奇心が疼く。たぶん、もうあちら側の世界に帰れるという気の緩みもあるのだろう。思わず、じぃっと外のホールを見つめてしまう。
「気になりますか? あの歓声が何に対するものなのか――」
聞き覚えのあるねっとりとした女性の声が横から聞こえる。見ると、チェシャ猫が窓辺に腰かけて、にんまりとこちらの様子をうかがっていた。
「知らなければいいことも中にはあります。お嬢さん、あなたが知らなくちゃいけないことは、もっと別のことじゃないですか? たとえば、真実を映す鏡とか、アリスの言う――【アイツ】のこととか」
窓枠からトンッとこちら側に軽やかに降りたチェシャ猫は私のお守りのカードを手に取った。
「鏡は真実を一度だけ映すそうです。さあ、時間はありませんよ。全部考えなくちゃダメです。謎を解く鍵はどこにあるんでしょうかねぇ?」
にんまりと笑ったチェシャ猫は、一瞬で姿が見えなくなり、支えがなくなったお守りのカードは力なく私の胸元へと落ちた。
「真実を映す鏡――」
心臓がバクバクと嫌な音をたてている。私は今日、何度嫌な汗をかけばいいのだろう。
(全部考えなくちゃいけないって言われても――)
その時、ズボンのポケットになにか硬い物が入っているのに気がついた。
(ああ、童話の世界から帰ってくるときに貰った鍵か……)
ふと、その金色の鍵を見ると、小さな文字で【ロイノキテハキツソウ】と書かれていた。正直、意味がわからない。
(化物の言葉なのかな?)
さらにその裏には、【ナスタワ二キテ】とも書かれていた。
(?)
私が首を傾げていると、ポンッと肩に手を置かれた。驚いて咄嗟に身を引くと、そこには本の中で出会った狼男がいた。
「え? な、なんで?」
「ああ、ちょうど、シフト終わって外に出てきた所だったんや。とりあえず、スタンプコンプリートおめっとさん」
妙なイントネーションにはやはり慣れないが、優しさを含んだ声に安心する。
「実はな、ちぃとばかしあんたが不利そうやから、助言しに来たんや……今は監視がないみたいだから、チャチャッと言わせてもらうな。疑問はあるやろうけど、とりあえず、よく聞いてな」
狼男が、真剣な顔で私を見つめる。
「【アイツ】は自分の外見を見繕うために人を食らう。アイツの真の姿――化物の姿が心底嫌いだから人を喰らい続けるんだ。そして、アイツはインフォメーションセンターであんたを待ってる……」
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