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ⅩⅡ 最後のスタンプの行方
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持ち物検査を受けて自身のショルダーバックを預けた後、私はたくさんの緑の目が壁に張り付いている教室に通され、困惑していた。
「あのう、皆さん。とりあえず、どうしましょうか?」
首にシッカリと黒いバンドを巻いたデュラハンはここまで私を連れてきたのだが、想定外の事態に首が少々右方向に回っている。細身の黒い鎧を身に纏い、手には大きな鎌を持っているのは少々怖いが、彼の胸元にはしっかりと紫色のスタッフの証が揺れていた。
「どうしましょうかと言われても――どうしたらいいんでしょうかねぇ……」
白い布をまとったカボチャ頭の男が困ったように呟く。カボチャ頭というのは比喩でもなんでもなく、カボチャにハロウィンでよく見る――笑ったような顔が掘られているのが彼の顔になっているのだ。彼はジャック・オー・ランタンと言うらしい。彼の胸元にも、青いスタッフの証が光っている。
「コウ……サクサクットカイケツデキナインデショウカ?」
半透明の白い布のような化物が淡く黄色い光を発しながら陽気な声を出した。彼はゴーストで、胸元と言うよりかは彼のお腹あたりにユラユラと赤いスタッフの証が揺らめいていた。
「やっぱり、あの時の状況をもう一度確認するべきだと思うんだけど――どうかな?」
黒い執事服を着た銀髪の青年の背中には蝙蝠のような黒い羽が付いており、その頭には黒い角が二本頭に生えていた。彼はデビル。もちろん、彼の胸元にも赤いスタッフの証が煌めいていた。
「ああ! そうですね! あの――白虎のスタンプが盗まれた時の状況を確認しましょう!」
芝居じみた様子で顔の右上半分にだけ付けた白い仮面に触れた彼の名は、ファントムと言うらしい。ふんだんにフリルをあしらった白いシャツに、黒のジャケット、黒のパンツ、最後に黒いマントを羽織り、胸元には青いスタッフの証、黒い髪をワックスで撫でつけたスタイルの彼の動作は全て、まるで舞台でも見ているかのように大げさなものだった。
「本当にすみません。私のせいで――」
黒髪のロングストレートに映える雪の結晶のような形の綺麗な銀の髪飾りにそっと手をやった白い着物姿の色白の女性は、雪女。彼女の胸元には、ひっそりとした輝きを放つ紫のスタッフの証があった。雪女が気落ちしている理由は、彼女こそが大切なイベント用のスタンプを盗める絶好の機会を作り出してしまったからだ。
数時間前、大切な髪かざりを盗まれた雪女は、あるカードを受け取った。そのカードには、髪飾りを返してほしくば、スタッフが交代する時間、百の緑目が見守る教室に来て「白虎のスタンプを盗む」という予告状が届いたと言えと書かれていたらしい。カードは読んだ瞬間に魔法によって燃えてしまったが、その脅迫状を受けた雪女は妖狐と少し早めに見回りの時間を交代してもらったと言う。交代の話が真実であったことは、デュラハンが妖狐やその他にその場に居合わせた化物に確認を取っている。
「それでは百目さん。あの時の映像をもう一度お願いします」
デュラハンの言葉に、百目と呼ばれた壁の緑目達が一斉に瞬きし、教室内に立体的なカラー映像を映し出した。百目は、その名の通り百個の目を持っていて、今はその目の全てをこの壁と一体化させているらしい。ちなみに、この緑色の瞳の百目は極度のドライアイらしく、瞬きの回数が異常に多い。もちろん、瞬きをしている目としていない目があるため、監視はバッチリだ。
ただし、今回は百目のこのドライアイのため、教室の湿度を高く設定していたことが仇となった。湿気が多い所に雪女が来たことで、教室の室温が急激に下がり、部屋全体が霧に覆われてしまったのだ。そして、視界が悪いだけでなく、百目はあまりの冷気に全ての目を閉じてしまい、少しの間、百目の映像が途切れてしまっている。
「俺とファントムが交代の時間になってこの部屋にやってきた時は別段何もなかったんだよな」
立体映像の中にデビルとファントムがやって来た姿があり、デビルが説明を加える。百目は音声の録音はできないため、こうやって各自で確認するしかないのだ。中央に設置されたガラスの容器のようなケースの中にはまだ白虎のスタンプが置かれている。このケースは、透過の魔法がかかっているため、実際はケースの役割を果たしておらず、誰でもスタンプを手に取ることができるという説明は、荷物検査の際、デュラハンに聞いている。映像を見ていたファントムは、喉の調子を整えるようにわざとらしく咳ばらいをした後、やはり舞台上のように朗々とした声で話し出した。
「映像にあるように、四角いケースの横にゴースト、ジャックがいて、舞台に出演した後そのままここへ来たワタシと、屋台で食べ歩きをした後ここへ来たデビルが、その傍に行って談笑していたら、雪女がやって来たということですね!」
百目の映像は雪女が教室のスライド式のドアを勢いよく開いて中に入ってきた瞬間、白い霧で覆われ、一瞬映像が乱れた後、復活した。ケースの横にはゴースト、ジャック、ファントムがいて、ゴーストはケースの下に這いつくばり、ジャックはケースの中に手の部分であろう白い布の部分を突っ込んでスタンプを探しているようだった。対するファントムは、何故か仮面に手をやり決めポーズをしていた。デビルは入口付近の壁際に行き、雪女を外へ行くよう促しているようだった。この時にはすでに、雪女の髪飾りがケースの近くの床に落ちていた。
その映像を見ていたジャックがふいに入口付近に近づく。
「この教室では魔法や能力を使うとサイレンが鳴るようになってるから使えないですし、スタンプが教室の外に持ち出されたり、魔法が使えるような道具を教室内に持ち込んだりしても魔法感知センサーのせいで同じようにサイレンが鳴るんですよね?」
入口付近に張り付いた緑の目玉が瞬きもせず、じぃっとその姿を見つめる。ゴーストは体を緑色に発行させながら、ウーンと唸る。
「イチドモサイレンガナッテナイカラ、スタンプハコノキョウシツナイニノコッテイテ、マホウハツカッテナイッテノハ、サスガノボクデモワカリマスヨ? ダカラ――ドウナルンデショウ?」
ポフンッとゴーストの頭から緑の霧状のモノが散布する。もう、お手上げという合図らしい。
「ええと、とりあえず、ケースの近くにいなかった雪女さんとそもそも教室の中にいなかった僕はスタンプを盗んだ犯人ではないことは確かですね。それでなんですけど……ファントムさんはあの時、何をしていたのでしょうか?」
デュラハンは自身の首を直しながら、困ったような視線をファントムへと送った。
「目の前が白く染まった瞬間、硬質な何かが目の前に飛んできて、こう、カツンッとワタシの仮面に当たったんです!」
「アア、ソウイエバナニカオトガキコエタカモシレマセン」
「え? ゴーストさんも聞こえたんですか? すみません、ボクはデビルさんの声しか聞こえてなかったです……」
弱々しく首を振ったジャックさんに、デュラハンは頷こうとして、落ちそうになった首をおさえた。
「とりあえず、それでファントムさんは変なポーズをしていたんですか。それから、仮面に当たったモノですが、雪女さんの髪飾りがその近くに落ちていたことですし、それで間違いないでしょう」
「あ、よく見たら、ファントムさんの仮面のこの部分、微妙に傷ついてますね……」
ジャックが少し背伸びして、仮面の小さな傷痕を見つめる。ジャックの後ろの壁では百目もパチパチと瞬きをしながらその傷痕を観察していた。
「本当だ……雪女ちゃん、その髪飾り、ちょっと見せてもらえるかな?」
デビルが雪女から髪飾りを受け取り、仮面の傷痕に合わせると、ピッタリと重なった。
「おお、ビンゴ。じゃあ、これがファントムに当たったのは間違いないな」
「傷の角度的に……上から当たったみたいですかねぇ?」
ジャックは上を見上げてそう言ったが、上にあるのは百目の目のみで、その目はしきりに瞬きを繰り返している。
「思い返してみると、上から落ちてきたっていうよりは、投げて放物線を描いた物が横から当たったっていう感じだったかもしれないですね! ところで……誰か鏡持ってない?」
自身の仮面を片手で撫でながら、少し気落ちした様子のファントムに、私はポケットに入れていた水玉模様のコンパクトミラーを渡す。仮面に付いた小さな傷を見つめている彼の背中には、哀愁が漂っているようだった。
「それでは、ファントムさん以外の三体が容疑者ということですね。それから、この話とは関係ないのですが、迷子の人間さんに一つ忠告してもいいですか?」
デュラハンがファントムからサッとコンパクトミラーを掠め取ると、私の手のひらにやんわりと載せてくれた。
「鏡はここぞという時に使った方がいいと思います。ファントムさんはバカ正直なので鏡は壊れなかったですが、あちらの世界と違い、コチラでは真実を映す使い捨ての物ですので」
「あ、はい、分かり……ました」
久々に私へと話が振られ、思わず片言になりながら返事をしてしまう。そんな私の様子に、ゴーストがフワフワとピンク色の霧を飛ばしながら明るい声で言う。
「ソンナニカタニチカライレナクテイイデスヨ。ホラ、リラックス、リラックスデス」
「リラックスってのはいいけど、お前も容疑者の一体だからな。そもそも、霧が晴れた時、お前とジャックがあのスタンプの位置に近かったっていうのは怪しくないか? ファントムにも近かったし、その距離から上の方に投げれば、放物線を描いて横から当たるだろ?」
デビルが自身の黒い角を撫でながら、霧が晴れた時にゴーストとジャックがいた位置を見つめる。ジャックは、カボチャ頭を傾げた。
「でも、スタンプは霧が出た時にケースの近くにいた四体なら誰でも可能ですよね? 確かに、ボクはスタンプが盗まれるって聞いて思わずケースの中に手を入れましたが、その時にはもう既になかったですし……。そもそもですよ、ここにいる全員が身体検査をしてスタンプを持っていないことは分かっていることですし、ケース周辺にも隠せるような場所はなかったじゃないですか」
「ソレニ、デビルガイタイチカラモカミカザリヲナゲレバ、ホウブツセンヲエガイテファントムニアタリマスヨネ?」
「でもさ、俺がいた位置は入口の壁付近で、そここそ何もないって。たとえこの羽根で飛んだとしてもその勢いで霧の流れに影響するだろうし」
教室の入口付近で大きく羽を広げたデビルを見ていたデュラハンは、気難しそうに頷いた。
「そうですね……霧に大きな気流の乱れがなかったので、その言い分は当てはまります」
デビルの近くにある緑色の目が事の成り行きを見守るように、じぃっとこちらを見つめている。正直、瞬きもせず、ジッと見つめられると落ち着かない。
「あ――れ?」
緑の目の呪縛から逃れようと目をそらした時、私は何か引っ掛かりを覚えた。
「どうかしましたか?」
先程までことの成り行きを見守っていた雪女が、その綺麗な黒い瞳を変な声を発した私へと向ける。
「ええと、ですね……こう、何かをどこかで見たことがあるというか……」
まるで喉に魚の小骨が引っかかったようなスッキリしない感覚の私を見ていたゴーストが緑色の何かを散布させる。先程も見た霧状のモノだが、ゴーストは分からない時や困った時にこの霧を出すらしい。
(そう、どこかで――緑……緑の……?)
ゴーストの霧状の物が気に入らなかったのか、ギョロギョロと目玉を動かし、パチパチと瞬きを繰り返す百目を見た瞬間、全てが繋がった。
「あのう、皆さん。とりあえず、どうしましょうか?」
首にシッカリと黒いバンドを巻いたデュラハンはここまで私を連れてきたのだが、想定外の事態に首が少々右方向に回っている。細身の黒い鎧を身に纏い、手には大きな鎌を持っているのは少々怖いが、彼の胸元にはしっかりと紫色のスタッフの証が揺れていた。
「どうしましょうかと言われても――どうしたらいいんでしょうかねぇ……」
白い布をまとったカボチャ頭の男が困ったように呟く。カボチャ頭というのは比喩でもなんでもなく、カボチャにハロウィンでよく見る――笑ったような顔が掘られているのが彼の顔になっているのだ。彼はジャック・オー・ランタンと言うらしい。彼の胸元にも、青いスタッフの証が光っている。
「コウ……サクサクットカイケツデキナインデショウカ?」
半透明の白い布のような化物が淡く黄色い光を発しながら陽気な声を出した。彼はゴーストで、胸元と言うよりかは彼のお腹あたりにユラユラと赤いスタッフの証が揺らめいていた。
「やっぱり、あの時の状況をもう一度確認するべきだと思うんだけど――どうかな?」
黒い執事服を着た銀髪の青年の背中には蝙蝠のような黒い羽が付いており、その頭には黒い角が二本頭に生えていた。彼はデビル。もちろん、彼の胸元にも赤いスタッフの証が煌めいていた。
「ああ! そうですね! あの――白虎のスタンプが盗まれた時の状況を確認しましょう!」
芝居じみた様子で顔の右上半分にだけ付けた白い仮面に触れた彼の名は、ファントムと言うらしい。ふんだんにフリルをあしらった白いシャツに、黒のジャケット、黒のパンツ、最後に黒いマントを羽織り、胸元には青いスタッフの証、黒い髪をワックスで撫でつけたスタイルの彼の動作は全て、まるで舞台でも見ているかのように大げさなものだった。
「本当にすみません。私のせいで――」
黒髪のロングストレートに映える雪の結晶のような形の綺麗な銀の髪飾りにそっと手をやった白い着物姿の色白の女性は、雪女。彼女の胸元には、ひっそりとした輝きを放つ紫のスタッフの証があった。雪女が気落ちしている理由は、彼女こそが大切なイベント用のスタンプを盗める絶好の機会を作り出してしまったからだ。
数時間前、大切な髪かざりを盗まれた雪女は、あるカードを受け取った。そのカードには、髪飾りを返してほしくば、スタッフが交代する時間、百の緑目が見守る教室に来て「白虎のスタンプを盗む」という予告状が届いたと言えと書かれていたらしい。カードは読んだ瞬間に魔法によって燃えてしまったが、その脅迫状を受けた雪女は妖狐と少し早めに見回りの時間を交代してもらったと言う。交代の話が真実であったことは、デュラハンが妖狐やその他にその場に居合わせた化物に確認を取っている。
「それでは百目さん。あの時の映像をもう一度お願いします」
デュラハンの言葉に、百目と呼ばれた壁の緑目達が一斉に瞬きし、教室内に立体的なカラー映像を映し出した。百目は、その名の通り百個の目を持っていて、今はその目の全てをこの壁と一体化させているらしい。ちなみに、この緑色の瞳の百目は極度のドライアイらしく、瞬きの回数が異常に多い。もちろん、瞬きをしている目としていない目があるため、監視はバッチリだ。
ただし、今回は百目のこのドライアイのため、教室の湿度を高く設定していたことが仇となった。湿気が多い所に雪女が来たことで、教室の室温が急激に下がり、部屋全体が霧に覆われてしまったのだ。そして、視界が悪いだけでなく、百目はあまりの冷気に全ての目を閉じてしまい、少しの間、百目の映像が途切れてしまっている。
「俺とファントムが交代の時間になってこの部屋にやってきた時は別段何もなかったんだよな」
立体映像の中にデビルとファントムがやって来た姿があり、デビルが説明を加える。百目は音声の録音はできないため、こうやって各自で確認するしかないのだ。中央に設置されたガラスの容器のようなケースの中にはまだ白虎のスタンプが置かれている。このケースは、透過の魔法がかかっているため、実際はケースの役割を果たしておらず、誰でもスタンプを手に取ることができるという説明は、荷物検査の際、デュラハンに聞いている。映像を見ていたファントムは、喉の調子を整えるようにわざとらしく咳ばらいをした後、やはり舞台上のように朗々とした声で話し出した。
「映像にあるように、四角いケースの横にゴースト、ジャックがいて、舞台に出演した後そのままここへ来たワタシと、屋台で食べ歩きをした後ここへ来たデビルが、その傍に行って談笑していたら、雪女がやって来たということですね!」
百目の映像は雪女が教室のスライド式のドアを勢いよく開いて中に入ってきた瞬間、白い霧で覆われ、一瞬映像が乱れた後、復活した。ケースの横にはゴースト、ジャック、ファントムがいて、ゴーストはケースの下に這いつくばり、ジャックはケースの中に手の部分であろう白い布の部分を突っ込んでスタンプを探しているようだった。対するファントムは、何故か仮面に手をやり決めポーズをしていた。デビルは入口付近の壁際に行き、雪女を外へ行くよう促しているようだった。この時にはすでに、雪女の髪飾りがケースの近くの床に落ちていた。
その映像を見ていたジャックがふいに入口付近に近づく。
「この教室では魔法や能力を使うとサイレンが鳴るようになってるから使えないですし、スタンプが教室の外に持ち出されたり、魔法が使えるような道具を教室内に持ち込んだりしても魔法感知センサーのせいで同じようにサイレンが鳴るんですよね?」
入口付近に張り付いた緑の目玉が瞬きもせず、じぃっとその姿を見つめる。ゴーストは体を緑色に発行させながら、ウーンと唸る。
「イチドモサイレンガナッテナイカラ、スタンプハコノキョウシツナイニノコッテイテ、マホウハツカッテナイッテノハ、サスガノボクデモワカリマスヨ? ダカラ――ドウナルンデショウ?」
ポフンッとゴーストの頭から緑の霧状のモノが散布する。もう、お手上げという合図らしい。
「ええと、とりあえず、ケースの近くにいなかった雪女さんとそもそも教室の中にいなかった僕はスタンプを盗んだ犯人ではないことは確かですね。それでなんですけど……ファントムさんはあの時、何をしていたのでしょうか?」
デュラハンは自身の首を直しながら、困ったような視線をファントムへと送った。
「目の前が白く染まった瞬間、硬質な何かが目の前に飛んできて、こう、カツンッとワタシの仮面に当たったんです!」
「アア、ソウイエバナニカオトガキコエタカモシレマセン」
「え? ゴーストさんも聞こえたんですか? すみません、ボクはデビルさんの声しか聞こえてなかったです……」
弱々しく首を振ったジャックさんに、デュラハンは頷こうとして、落ちそうになった首をおさえた。
「とりあえず、それでファントムさんは変なポーズをしていたんですか。それから、仮面に当たったモノですが、雪女さんの髪飾りがその近くに落ちていたことですし、それで間違いないでしょう」
「あ、よく見たら、ファントムさんの仮面のこの部分、微妙に傷ついてますね……」
ジャックが少し背伸びして、仮面の小さな傷痕を見つめる。ジャックの後ろの壁では百目もパチパチと瞬きをしながらその傷痕を観察していた。
「本当だ……雪女ちゃん、その髪飾り、ちょっと見せてもらえるかな?」
デビルが雪女から髪飾りを受け取り、仮面の傷痕に合わせると、ピッタリと重なった。
「おお、ビンゴ。じゃあ、これがファントムに当たったのは間違いないな」
「傷の角度的に……上から当たったみたいですかねぇ?」
ジャックは上を見上げてそう言ったが、上にあるのは百目の目のみで、その目はしきりに瞬きを繰り返している。
「思い返してみると、上から落ちてきたっていうよりは、投げて放物線を描いた物が横から当たったっていう感じだったかもしれないですね! ところで……誰か鏡持ってない?」
自身の仮面を片手で撫でながら、少し気落ちした様子のファントムに、私はポケットに入れていた水玉模様のコンパクトミラーを渡す。仮面に付いた小さな傷を見つめている彼の背中には、哀愁が漂っているようだった。
「それでは、ファントムさん以外の三体が容疑者ということですね。それから、この話とは関係ないのですが、迷子の人間さんに一つ忠告してもいいですか?」
デュラハンがファントムからサッとコンパクトミラーを掠め取ると、私の手のひらにやんわりと載せてくれた。
「鏡はここぞという時に使った方がいいと思います。ファントムさんはバカ正直なので鏡は壊れなかったですが、あちらの世界と違い、コチラでは真実を映す使い捨ての物ですので」
「あ、はい、分かり……ました」
久々に私へと話が振られ、思わず片言になりながら返事をしてしまう。そんな私の様子に、ゴーストがフワフワとピンク色の霧を飛ばしながら明るい声で言う。
「ソンナニカタニチカライレナクテイイデスヨ。ホラ、リラックス、リラックスデス」
「リラックスってのはいいけど、お前も容疑者の一体だからな。そもそも、霧が晴れた時、お前とジャックがあのスタンプの位置に近かったっていうのは怪しくないか? ファントムにも近かったし、その距離から上の方に投げれば、放物線を描いて横から当たるだろ?」
デビルが自身の黒い角を撫でながら、霧が晴れた時にゴーストとジャックがいた位置を見つめる。ジャックは、カボチャ頭を傾げた。
「でも、スタンプは霧が出た時にケースの近くにいた四体なら誰でも可能ですよね? 確かに、ボクはスタンプが盗まれるって聞いて思わずケースの中に手を入れましたが、その時にはもう既になかったですし……。そもそもですよ、ここにいる全員が身体検査をしてスタンプを持っていないことは分かっていることですし、ケース周辺にも隠せるような場所はなかったじゃないですか」
「ソレニ、デビルガイタイチカラモカミカザリヲナゲレバ、ホウブツセンヲエガイテファントムニアタリマスヨネ?」
「でもさ、俺がいた位置は入口の壁付近で、そここそ何もないって。たとえこの羽根で飛んだとしてもその勢いで霧の流れに影響するだろうし」
教室の入口付近で大きく羽を広げたデビルを見ていたデュラハンは、気難しそうに頷いた。
「そうですね……霧に大きな気流の乱れがなかったので、その言い分は当てはまります」
デビルの近くにある緑色の目が事の成り行きを見守るように、じぃっとこちらを見つめている。正直、瞬きもせず、ジッと見つめられると落ち着かない。
「あ――れ?」
緑の目の呪縛から逃れようと目をそらした時、私は何か引っ掛かりを覚えた。
「どうかしましたか?」
先程までことの成り行きを見守っていた雪女が、その綺麗な黒い瞳を変な声を発した私へと向ける。
「ええと、ですね……こう、何かをどこかで見たことがあるというか……」
まるで喉に魚の小骨が引っかかったようなスッキリしない感覚の私を見ていたゴーストが緑色の何かを散布させる。先程も見た霧状のモノだが、ゴーストは分からない時や困った時にこの霧を出すらしい。
(そう、どこかで――緑……緑の……?)
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