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魔物が徘徊する険しい山に囲まれた国、ルダット。
身内ばかりで身勝手な政治を続けた結果、資源と人口を減らし続け、他国からも見離れされつつある弱小国家。
侵略しにくいという立地しか利点がないこの国には、緩やかに崩壊していく未来しかないと国民の誰もが気がついている。
セレンはそのルダットの第三王女だ。
父親である国王はよく言えば優しく、悪く言えば気の弱い男で、政略結婚で迎えた正妃と良好な関係を築けず、街の娼館に癒やしを求めてしまった。
その結果として、セレンが生まれた。
娼館でこっそり育てられるはずだったのに、セレンが十歳の時に母親が流行病で命を落としたことをきっかけに王家に迎え入れられた。
肩書きこそ王女になったセレンだが、実際の生活はなかなかに過酷だった。
正妃と姉である二人の姫からはひどく疎まれた。国王の手前、目に見えた虐待こそされなかったが、使用人たちからも軽んじられる日々。
娼婦の娘という肩書きからか、幼いながらに男遊びが好きな尻軽だとあらぬ噂をたてられ、下心丸出しの貴族や兵士たちからの視線に晒されることにもなった。
だが、娼館で育ったセレンは、それらをはねのけるたくましさを備えていた。
揶揄いや不遜の輩から己を守るため、自ら後宮の奥深くで息を潜めて生きることを決めたのだ。
おかげで年頃を迎えても清いままでいられた。
そんなセレンが17歳を迎える少し前、ルダットに巨大な赤いドラゴンが現れた。
山間の小さな集落を破壊したドラゴンは、王都へまっすぐにその足を進めた。
このままでは大勢が死ぬ。下手をしたら国が滅びるかもしれない。
皆がこれまでかと全てを諦めかけた時、一人の騎士が果敢にもドラゴンに戦いを挑み退けることに成功したのだ。
彼は庶民の出でありながら類い希なる腕前でめきめきと頭角を表していた男だった。
そんな彼はドラゴンを倒したことで周囲から、英雄騎士と呼ばれるようになり、国王から爵位と褒賞を授かることになった。
「何か欲しいものはないか? どんな願いも叶えてやろう」
そんな国王の問いかけに英雄騎士はこう答えたらしい。
「セレン様を、一晩俺にください」
それを聞いたセレンは当然憤慨した。
なんだ一晩って。もし願うなら妻に下さいだろうが。お前も私を尻軽と信じているのか。
父である国王は、お前が嫌なら断ると言ってくれたが、その表情には「断ってくれるな」とはっきりと書いてあった。
今や王家よりも人気のある英雄騎士の機嫌を損ねたくないのだろう。
セレンを王宮に招いたくせに王妃怖さに放置してきた父親は、娘の操などどうでもよいのだ。
噂の真偽を確かめることもせず、娘を道具としか思わぬその態度に、わずかに残っていた親子の情は呆気なく消えてしまった。
しかしセレンは要求を受け入れることにした。
こうなったら自棄だ。直接文句を言ってやる、と。
そして今に至る。
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