83 / 100
『機灰の孤島』編
サバイバル
しおりを挟む機械の狼は、スタッフが直撃すると簡単にバラバラに散らばった。
やはりスピード重視の構造、材質なのだろうか?
攻撃がかすった程度で足が一本無くなっていたのも考えるとやはり脆いのだろう。
「……」
樹は初めての戦闘を終えて安堵してるようだ。
牙を防いだ光のベールの魔法に、狼を逃さなかった壁の魔法。
樹が居なかったら、と考えればかなり俺は苦しかった。
「凄く良かったよ樹。本当に助けられた」
本心のまま、俺はそう樹に言う。
「……」
そんな俺の言葉に首を横に振る樹。
自分なんてまだまだ、そう伝えるように。
「はは、謙虚だな樹は。さて……さっきの奴は……」
俺は生物の方の狼の死骸を探す。
もしかしたら、あれは食料になるかもしれないからだ。
「……?」
ふと樹に俺の裾を引かれる。
見れば、指で俺の探し物を指していた。
「おお、ありがとうな。……うーん、これは中々」
頭をもぎ取られた狼の死骸は、中々にグロテスクな物。
機械の狼に噛み付かれたら……こうなると覚えておかなければ。
それにしても変わった色の皮膚だ。紫色って。尻尾も三本有る。
「……ま、もの……」
そう呟く樹。俺も、全く同じ事を考えていた所だ。
初めて見たな……本当に、前の世界じゃあり得ない造形だ。
「……これ、食えるのか……?」
「……」
二人で、沈黙する事数十秒。
「……取りあえず、焼いたらいいか」
この世界には食中毒菌とかあるのかは知らないが、火を通す事でなんとなく安心は出来る。
火で死なない毒を持ってたら終わりなんだが……
ただ、狼は毒なんて持ってなさそうだけどな。
「樹、毒の回復とかはやった事あるかな?」
「……」
首を横に振る樹。まああったとしてもまだ教わってないだろう。
「そっか、まあ大丈夫だよ」
このまま何も食わないって訳にはいかないからな……もうこの狼は食料確定だ。
当然毒味は俺がします。
「……もうすぐ、夜か」
もう、灰色の景色が暗くなってきている。
気温も少し寒くなった気がする、制服のお陰で快適だが。
さて……夜に向けて準備しないとな。
―――――――――――
少し歩きまわり、灰色に枯れた木々の枝を折り集める。
この木達は、この灰の土地特有の植物なんだろうか。
これが生きているのか死んでいるのかは分からないが……今は凄く助かる。
「……」
樹には、落ちている木くずを集めて貰っている。
「よし、焚き火の材料はこんな所でいいよな……樹、頼めるか」
「……」
樹は頷くと、壁を俺達を大きく囲むように創造する。
「うん、いい感じだ。ありがとう」
次は焚き火だ、確か燃えにくいのを上に、燃えやすいのを下にやるんだよな。
……まあこんなもんだろう。
ライターで着火と。
「……!」
樹が焚き火に反応する。
「はは、もしかして焚き火は初めてか?」
「……」
頷く樹。俺が初めて焚き火にあたった時は、火の暖かさに驚いてたっけ。
暖かさそうに焚き火にあたっている樹を見て、そんな事を思い出す。
うん、火の起こしがいがあるってもんよ。
「さて……んじゃ俺はちょっとこいつを捌いてくるよ。火にあたって待っててくれ」
俺は手に狼を掴み、樹にそう言う。
「ぼ、僕も……」
俺の言葉にそう返す樹。
何か手伝いたい、何か役に立ちたいという意思が伝わってくる。
「はは、ありがとうな。大丈夫だよ」
でも流石に、狼を捌くなんて事は樹にさせるべきじゃないだろう。こういうのは男の俺がやらなくては。
「……で、も……」
俯き、そう呟く樹。
……ああ、そうだ、あれがあった。
『洗い物』だ。俺の水筒や弁当箱、箸等。
これは、水魔法を扱える樹にしか出来ない事だからな……
「……」
少し考える素振りを見せた後、頷く樹。
どうやら納得してくれたようで。
「樹にしか出来ない事なんだ。宜しくな」
俺はそう言い、少し離れた場所に移動する。
よし、それじゃ狼の解体といこう……上手くいくと良いんだけど。
――――――――――――
「ふう」
とりあえず、こんなものだろう。一息入れる。
剥ぎ取った狼の皮の上に、捌いた肉を置いていく。
他の内臓とかは……もう穴でも掘って埋めとくか。
「意外となんとかなったな……ほんと」
狼は食料と割り切ったおかげか、思ったより早く捌けた。
『この世界』では、それぐらい自分で出来なければ生きていけない。
そして何より、俺がやらないと待っている樹はどうなる?
出来ないと思う事も、これから先何度も……無理矢理にでもこなして行かなくては。
そう思えば……勝手に手は進んだ。
それにしても、鋏を持ってて助かったな。俺の能力のおかげか、凄く簡単に、思い通りに切れたのだ。
切れにくいような場所もさくさくっと。
……これ、紙とか切る用なんだけどな。まあ気にしちゃいけない。
「お待たせ、樹」
見れば樹は、洗ったであろうものを焚き火で乾かしていた。
俺の呼びかけに、振り向く樹。
待っていたのか、顔を輝かせる樹。
「……はは」
俺は、笑ってしまった。
樹が待っている、そんな光景は……一日前の俺には到底無かった事。
この灰色の世界で、その光景が見える事は――本来無かったこと。
本来は、『あの時』機械の集団に押し潰されていただろうしな。
でも。
俺の知らない樹の決断が、樹の過去が、樹の思いが。
彼女が、ここへ連れてきてくれたんだ。
彼女が、『あの時』に、来てくれたんだ。
だからこそ俺は生きている。
そして今もずっと、この無口な少女が間違いなく俺の心の支えになっている。
それは今、自然と溢れた俺の笑いが証拠だろう。
「……?」
樹が、不思議そうな表情をする。
「なんでもないよ、樹。ご飯にしようか!」
俺は浮かんだ感情を誤魔化すよう、声を上げる。
……サバイバル生活、初日のご飯だ。
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった!
覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。
一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。
最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる