増幅使いは支援ができない

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『機灰の孤島』編

二匹

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俺達は、灰色の土地を歩いていく。

先程までの機械達の騒々しさが嘘のように、静かな道中だった。

灰色の地面は変わる事無く、ずっと続いている。

何者にも出会う事無い道。


「何も居ないな……」


そんな事を自然と呟いてしまう程、平和なのだ。


「……」


横を見れば、青く透明な杖を構えている樹。


「そういや、樹は自分でその杖を選んだのか?綺麗だよな」


武器は性能も大事だが、見た目も同じくらい大事だ。

見た目でやる気とか結構変わるからな。

俺のスタッフは……無惨な姿に変わってしまったが。


「……マール、先生に……」


そう言う樹。

マール先生か、そういやこのスタッフもあの人に勧められたんだっけな。

……あの人は、色んな人に杖を勧めていたのだろう。


「はは、樹によく似合ってるよ。マール先生はセンスが良いな」


樹は、個人的にだが派手な装飾が施された杖は似合わなそうだ。

だからこそ、綺麗な単色のこの杖は……樹にピッタリだと思う。

青色ってのも樹に凄く似合ってるな、うん。


「……藍、君の杖も……」


俺が樹の杖を見ていると、俯きながらもそう言ってくれる樹。


「はは、ありがとうな。俺も結構気に入ってるんだ」


手に入れた時から、ずっとこのスタッフで戦ってきたんだ。

愛着も湧くし、折れた今でも役に立ってくれている。

はは、折れた今の方がこの杖に合ってるんじゃないだろうか。

二つの内持ち手だけの方は刃を創造して剣に、もう一方はそのまま鈍器として。

うん、かなり使い勝手が良いと思ってる。

……本当に、マール先生には感謝するよ。


「だから、本当にありがとうな。樹が俺の元に来てくれなかったら……もうこれを握る事も無かったかもしれない」


鞄からスタッフを取り出し、握って見せる。

実際、そうだしな。

ここに来て俺の元にあったのは、制服とライターの二つだけだ。


「…………」


少し目があったと思えば、また俯いて顔を紅くする樹。

よく見れば、小さく微笑んでいるのが見えた。

嬉しいのと照れているのが半分半分で交わっているような、そんな感じの表情。

俺は……いつの間にか、そんな樹の表情を見つめてしまっていた。

釘付けってやつだろう。


……正直な所、かなり樹の笑っている顔は可愛い。

俺の鼓動が、乱れる程に。


「……ふう……」


深呼吸する。

だめだだめだ、落ち着け俺。

この鼓動を治めなければ。

「……?」

不思議そうに、こちらを覗き込む樹。

そりゃそうだ、いきなり深呼吸だもんな。


「はは、何でもない。気を引き締めて行こう」


俺は、自分へと言い聞かせるようにそう言った。

―――――――――――

灰色の道は、あれからも何も出てこない。

「本当に、何もないな……」

一体終わりは何処にあるんだろうか、そんな不安が出て来たそんな時。


「――!」

聞き覚えのある、機械音。

警戒し近付き見えたのは、狼のような見た目の機械の化け物。

……だけでは無く、対峙するもう一つの影があった。

遠目で見れば、もう一匹。

しかし、近付いて見ればそれは金属の造形では無い、皮膚も肉も付いている『生物』だった。

そしてそれが分かる頃には……もう、『生物』の狼は、息絶えていて。




「……――」




『機械』の狼は、ゆっくりとこちらを向く。


『生物』だったモノを、吐き捨てて。


「……樹、多分、初の戦闘になる」


そう、狼を見据えながら後ろにいる樹に言う。

「……」

この沈黙は、大丈夫という事だろう。


「――!」


スチームを吹き出したと思えば、猛スピードで向かってくる機械の狼。

スピードが、蜘蛛の時とは大違いだ。


「……狼の形してるだけあって、速度特化って事か」


そう呟き、俺は鞄の中からスタッフの持ち手では無い方を取り出して構えた。鞄は邪魔なので地面に放っておく。

……意外と、持ち手が無くても安定するな。

同時に身体に、薄い光のベールのような物が包まれた。何となく鎧のような感覚がする。恐らく樹の補助魔法だろう。

「――――!」

迫る狼に、俺は動く事は無い。

攻撃方法はさっき見た噛み付きだろう……な
ら、真正面からカウンターを決める。

「『増幅』、『付加』……来い!」

ライターを着火、詠唱による炎を身体に纏う。

油断はしない、初めて見る敵なんだ。


「――!」


口を開け、突っ込んでくる狼。

読み通り俺の頭に噛み付いてこようとする口に、容赦なくスタッフを振る。


「……あれを、避けるのか」


当たったと思った俺の攻撃は――間一髪、外れた。

寸前で俺の攻撃を避け、距離を取る狼。


「――……」


しかし無傷ではないようで、機械の足が一本無くなっていた。


「助かったよ、樹」


俺も――樹の魔法が無ければ無傷ではなかったようで。

狼は回避と同時に牙を俺に飛ばしたのだろう。

光のベールが消えると同時に、鋭く尖った金属が足元に落ちていた。


「――――……」


負傷ゼロの俺『達』と、足を一本無くした狼。

そんな状況で狼は負けを悟ったのか、振り向き逃げようとする。


「……!」

そんな狼に容赦なく、一瞬で光輝く壁が立ち聳えた。


「完璧だ、樹」


狼に逃げ場は――もう無い。
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