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『機灰の孤島』編
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僕は、夢を見ていた。
何時だろう、何処だろう、なにも分からない。
気付けば僕は、藍君の隣に居た。
一緒に手を繋いで歩いている。
凄く心地いい、安心する場所。
「……――……」
藍君は、僕に向かって何か言ってるけど……分からない。
でも、何故かその顔は凄く悲しそうだった。
次第に藍君の話す声は遠くなっていく。
繋いでいた手も外れて――
「――お別れだ、樹――」
そう告げる藍君の声が、聞きたくない言葉がしっかりと聞こえてしまった。
「藍君、行かないで――」
僕が否定の言葉を叫んでも届かない。
藍君との距離が、どんどん離れて。
背中に、何かが近付いて――
「「「「「「「「「「――」」」」」」」」」」」
振り向いたら、沢山の人が居た。
王様に王女様、歓迎会に居た人がいっぱい。
僕を誘うように不気味に笑って。
そして僕を見ているようで――僕を見ていない。
見ているのは僕じゃなくて、僕が持つ魔力だ、固有能力だ、僕じゃない。
僕がこの世界に来て、唐突に得た『それ』に集るように……その人達は僕に手を差し伸べてきた。
「――っ、い、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
悲鳴が僕の中から漏れる。
それに構わず僕に集まり、僕の身体に手を――
――――――――――――――――――――――
「――っ………はあ、はあ」
悪夢から目覚めた場所は……僕の知らない場所。
冷や汗が身体に纏わりついて、気持ち悪い。
大きなベッドに、僕だけが居た。
そして――僕のすぐ横に誰かが居た形跡。
藍君の、匂いがした。
僕の脳裏に先程の悪夢の光景が蘇る。
――《「お別れだ、樹』》――
現れる、嫌な予感が僕を駆け巡っていく。
行かないと。
行かなきゃ、藍君に、藍君に会わないと。
「っ!」
僕はベッドから起きてドアに向かい、急いで開けて外に出る。
光景は下に続く階段と廊下が見えた。
普通の家みたいだ、一体藍君は何処に――
僕が思考していると、下で物音がした。
ちょうどこの階段を下りた部屋だ。
「はあ、はあ」
走って僕は階段を下り、その先は――
「来たか。……起きるのが少し、遅かったな」
古風な部屋に居た人物は、藍君ではなくて――アルスさんだった。
椅子に座り、僕を待っていたかのようにそう声をかける。
「あ、藍君、は……」
僕は、答えを聞きたくなかった。
でも、答えを求めるしかなかった。
あるはずのない……藍君がここに居るという希望を求めていたから。
「……」
アルスさんは、黙り込む。
その姿は、今までの彼にはとても似合わなかった。
「あい、く――」
「――もう行ったよ、お前がもう、手の届かない場所に」
……その答えは、僕はもう分かっていたのかもしれない。
でも、聞いてしまったらもう、もうそれが真実なんだ。
もう、藍君はここにいないんだ――
「う……っ……う」
その事実を感じれば感じる程、僕の目から涙が零れ落ちる。
立つ気力も失って、僕は崩れ落ちてしまった。
これまで無い程に僕を、悲の感情が襲う。
「…………あー……ったく。悪かったよ、俺もあいつを彼処までやるつもりは無かったんだ」
そう嘆くように言うアルスさん。
「昔の俺を見ているようで……酷く感情的になっちまった、情けねえな」
ため息をつき、アルスさんはそう呟く。
「藍、君は……」
確かめるよう、アルスさんにそう問う。
僕を見て少し間が空いた後……アルスさんは口を開いた。
「……『転移』した、この世界の遠くの何処かにな。その場所はもう俺にも分からねえ」
初めて聞く言葉だけど、なんとなく分かる。
『何か』を用いて、藍君は何処かに行ってしまったんだ。
……なら。
「藍君は、何を使って……転移、したん、ですか?」
僕は、意を決してそうアルスさんに質問する。
「お前、まさか……馬鹿な事考えてるんじゃねえだろうな」
「……」
僕は肯定の意味を込めて黙り込んだ。
そうだ、藍君と同じ場所に転移すればいいと僕は考えてる。
それがどれだけ無謀な事か、僕には分からない。
世界がどれだけ広大なのか。
その広大な世界の中で、藍君に会える事象がどれだけ奇遇なのか。
それを僕は分かっていても――同じ答えを出すだろう。
「おし、えて、下さい」
僕は、頭を下げる。
「……アイツは、随分と『一人』が良いって言ってたぜ、それでもか?」
アルスさんはそう告げる。
でも、僕はもう分かってるんだ。
《――「お前を守れるぐらい、強くなりたいんだ」――》
《――「俺がお前を守るからさ。これからも一緒に頑張ろう」――》
藍君が、ずっと強くなりたいと思っている事。
藍君が、僕を守り続けてくれようとしていた事。
アルスさんに負けて――『僕を守れない』、そう考えて一人になろうとした藍君を。
でも……違うんだ、藍君と王宮を二人で出発した時から――僕がずっと思っていた事は。
誰かに守って欲しいとか、誰かにずっと助けてもらうとかじゃないんだ。
僕は――ただ藍君と一緒に居たい。藍君が見る光景を僕を見たい。藍君と強くなっていって、藍君の為に役立ちたい。
だから僕は、藍君の元に行くんだ。
今度は守ってもらうだけじゃなくて――僕も藍君を守るために。
「……」
意思を変える姿勢を見せず、僕は黙って頭を下げる。
「そうか。お前が何を言っても無駄ってのは分かった……頭を上げな」
アルスさんは諦めたようにそう言う。
「……?」
「俺はお前がどうなろうがこの先関係ねえ……だがほんの少しだけ、『手助け』してやるよ」
顔を上げた僕を見て、アルスさんは笑い言った。
「適当に寛いでな、お前の旅準備をしてやる」
何時だろう、何処だろう、なにも分からない。
気付けば僕は、藍君の隣に居た。
一緒に手を繋いで歩いている。
凄く心地いい、安心する場所。
「……――……」
藍君は、僕に向かって何か言ってるけど……分からない。
でも、何故かその顔は凄く悲しそうだった。
次第に藍君の話す声は遠くなっていく。
繋いでいた手も外れて――
「――お別れだ、樹――」
そう告げる藍君の声が、聞きたくない言葉がしっかりと聞こえてしまった。
「藍君、行かないで――」
僕が否定の言葉を叫んでも届かない。
藍君との距離が、どんどん離れて。
背中に、何かが近付いて――
「「「「「「「「「「――」」」」」」」」」」」
振り向いたら、沢山の人が居た。
王様に王女様、歓迎会に居た人がいっぱい。
僕を誘うように不気味に笑って。
そして僕を見ているようで――僕を見ていない。
見ているのは僕じゃなくて、僕が持つ魔力だ、固有能力だ、僕じゃない。
僕がこの世界に来て、唐突に得た『それ』に集るように……その人達は僕に手を差し伸べてきた。
「――っ、い、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
悲鳴が僕の中から漏れる。
それに構わず僕に集まり、僕の身体に手を――
――――――――――――――――――――――
「――っ………はあ、はあ」
悪夢から目覚めた場所は……僕の知らない場所。
冷や汗が身体に纏わりついて、気持ち悪い。
大きなベッドに、僕だけが居た。
そして――僕のすぐ横に誰かが居た形跡。
藍君の、匂いがした。
僕の脳裏に先程の悪夢の光景が蘇る。
――《「お別れだ、樹』》――
現れる、嫌な予感が僕を駆け巡っていく。
行かないと。
行かなきゃ、藍君に、藍君に会わないと。
「っ!」
僕はベッドから起きてドアに向かい、急いで開けて外に出る。
光景は下に続く階段と廊下が見えた。
普通の家みたいだ、一体藍君は何処に――
僕が思考していると、下で物音がした。
ちょうどこの階段を下りた部屋だ。
「はあ、はあ」
走って僕は階段を下り、その先は――
「来たか。……起きるのが少し、遅かったな」
古風な部屋に居た人物は、藍君ではなくて――アルスさんだった。
椅子に座り、僕を待っていたかのようにそう声をかける。
「あ、藍君、は……」
僕は、答えを聞きたくなかった。
でも、答えを求めるしかなかった。
あるはずのない……藍君がここに居るという希望を求めていたから。
「……」
アルスさんは、黙り込む。
その姿は、今までの彼にはとても似合わなかった。
「あい、く――」
「――もう行ったよ、お前がもう、手の届かない場所に」
……その答えは、僕はもう分かっていたのかもしれない。
でも、聞いてしまったらもう、もうそれが真実なんだ。
もう、藍君はここにいないんだ――
「う……っ……う」
その事実を感じれば感じる程、僕の目から涙が零れ落ちる。
立つ気力も失って、僕は崩れ落ちてしまった。
これまで無い程に僕を、悲の感情が襲う。
「…………あー……ったく。悪かったよ、俺もあいつを彼処までやるつもりは無かったんだ」
そう嘆くように言うアルスさん。
「昔の俺を見ているようで……酷く感情的になっちまった、情けねえな」
ため息をつき、アルスさんはそう呟く。
「藍、君は……」
確かめるよう、アルスさんにそう問う。
僕を見て少し間が空いた後……アルスさんは口を開いた。
「……『転移』した、この世界の遠くの何処かにな。その場所はもう俺にも分からねえ」
初めて聞く言葉だけど、なんとなく分かる。
『何か』を用いて、藍君は何処かに行ってしまったんだ。
……なら。
「藍君は、何を使って……転移、したん、ですか?」
僕は、意を決してそうアルスさんに質問する。
「お前、まさか……馬鹿な事考えてるんじゃねえだろうな」
「……」
僕は肯定の意味を込めて黙り込んだ。
そうだ、藍君と同じ場所に転移すればいいと僕は考えてる。
それがどれだけ無謀な事か、僕には分からない。
世界がどれだけ広大なのか。
その広大な世界の中で、藍君に会える事象がどれだけ奇遇なのか。
それを僕は分かっていても――同じ答えを出すだろう。
「おし、えて、下さい」
僕は、頭を下げる。
「……アイツは、随分と『一人』が良いって言ってたぜ、それでもか?」
アルスさんはそう告げる。
でも、僕はもう分かってるんだ。
《――「お前を守れるぐらい、強くなりたいんだ」――》
《――「俺がお前を守るからさ。これからも一緒に頑張ろう」――》
藍君が、ずっと強くなりたいと思っている事。
藍君が、僕を守り続けてくれようとしていた事。
アルスさんに負けて――『僕を守れない』、そう考えて一人になろうとした藍君を。
でも……違うんだ、藍君と王宮を二人で出発した時から――僕がずっと思っていた事は。
誰かに守って欲しいとか、誰かにずっと助けてもらうとかじゃないんだ。
僕は――ただ藍君と一緒に居たい。藍君が見る光景を僕を見たい。藍君と強くなっていって、藍君の為に役立ちたい。
だから僕は、藍君の元に行くんだ。
今度は守ってもらうだけじゃなくて――僕も藍君を守るために。
「……」
意思を変える姿勢を見せず、僕は黙って頭を下げる。
「そうか。お前が何を言っても無駄ってのは分かった……頭を上げな」
アルスさんは諦めたようにそう言う。
「……?」
「俺はお前がどうなろうがこの先関係ねえ……だがほんの少しだけ、『手助け』してやるよ」
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