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『機灰の孤島』編

行き先、二

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「適当に寛いでな、お前の旅準備をしてやる」


アルスさんはそう言い、この部屋から出て行ってしまった。

……本当は、優しい人なのかな?

しばらくして、何かが落ちる音や何かが動く音が聞こえてくる。

一体何をしているんだろう……

―――――――――――――――――――――

僕は寛げるわけもなく、置いてある椅子に座っていた。


「待たせたな」


少しして、アルスさんはこの部屋に、戻って来た。

小さな袋を持って。


「っと、さて……まず一つ、この袋の中にはお前とユウスケの鞄が入っている」


アルスさんはそう言うが、その小さな袋にはどう見ても入りそうになかった。

けど、この世界なら普通の事なのかな。

って……アルスさん、僕達の荷物持っていてくれたんだ。


「ありがとう、ございます」

「ははっ、まだ一つ目だ、感謝されるにはまだ早い」


礼を言うとそう返すアルスさん。


「二つは……これだ」


アルスさんは、ポケットから何かを取り出す。

机に出したそれは、透明な玉。

僕はそれが『転移』する為の道具だって事はすぐに分かった。


「これは転移石って言ってな。その名の通りこいつを使えば転移できる。そしてこの転移石は――アイツの使った転移石に一番似ているモノだ」


アルスさんはそう言い、転移石を手に取る。


「行き先がランダムな転移石と同じ行き先なんて転移石は……どう考えてもありゃしない」


それは分かってる、でもそのランダムな行き先が――偶然同じだったなら。

そんな確率が、凄く低い事も分かってるけど……


「でも、転移石は形状や魔力感覚、色である程度同じ場所に行くって事は分かってる。……まあ、そういうこった。感謝しな、手持ちの転移石全部漁って来たからよ」


そう笑いながら言うアルスさん。

さっきの凄い音はこれを探していたからだろうか。

でも……どうしてそこまで。


「まあ勿体ぶったがこれだけだ、精々祈って転移するんだな」


そう言い、鞄と玉を僕に渡すアルスさん。


「本当、にここまでしてくださって、ありがとうございます」

「……ああ、感謝しとけ。心の準備が出来たら言えよ」


アルスさんは軽くそう言う。

……僕はなぜか、凄く落ち着いていた。

もう準備は出来てる。さっきから、僕を包む不思議な感覚がその要因。

この鞄と転移石を持った瞬間から、それはずっと続いていた。

藍君に会えず、この異世界で一人で投げ出されるかもしれないのに。

その可能性の方が圧倒的に高いのに。

僕は――藍君に会える事だけしか、僕には浮かばない。

藍君が『僕を呼んでいる』、そんな感覚が僕を包んでいるんだ。


「もう、大丈夫です」


僕は転移石を持ち、鞄を腰にかけて言う。


「……良いんだな?」

「はい」


僕は、頷く。

必ず僕は――藍君の元に。

「『起動』――行って来い、あの馬鹿を救ってやれ」

見れば、玉が光り輝き、その光はまた僕を包んでいく。

目を瞑って藍君の事を考える内に、いつの間にか転移は始まっていた。



――――――――――――――――――

「――ごめんな、樹――」

――――――――――――――――――



いつの間にか聞こえた、絶望するかのような藍君の声。

それは夢でも幻聴でもない、藍君の本当の声だ。


でも、どうして謝って――


「……っ」


僕が目を開けるとそこは灰色の地面がずっと続いていて。

そして、辺り一辺が不気味な化け物だらけだった。

生きているのか死んでいるのか分からない、『機械』の化け物。

僕がこの地に降り立った瞬間から、その機械の視線は僕にも移っている。

余りにも突然のその光景は、僕を恐怖で支配しようとした。



「……」


――でも、決めたんだ、もう僕は守られるだけじゃ駄目なんだって。

そして僕は、君に会えた。

だから僕は――今、君を助けて見せる。

イメージするのは、僕と藍君だけの空間だ。

この化け物達と、僕達を断絶する――『世界』を創る。



「――――『聖、界』!――――」



僕の詠唱とイメージが重なり、これまでに無い程の魔力が失われていく。

その魔力は聖なる光を放つ巨大な壁となり、僕達をあっと言う間に囲んでいった。

僕の今見えている光景は――もう、藍君しかいない。


「藍、君」


目の前の藍君に、早く僕を見て欲しい。

僕、頑張ったんだ。

君に会うために。だから……


「樹」


藍君は驚いた顔をした後、僕の名前を読んでくれる。

もう、我慢しなくて、いいんだ。

僕は藍君に抱き着く。

久し振りに感じる、藍君の身体、匂い、声。

心地好くて、安心出来て、落ち着く。

僕の止めていた涙が、堰を切るように流れ出した。


「もう、何処へ、も、行かない、よね?」


僕の不安が、勝手に口から出てくる。


「ああ、もう――間違えない」


藍君は、僕を強く抱き締めてそう言った。

――――――――――――――

藍君の温もりがこれまでの僕の不安を埋めて行く。

どれぐらい、そうしていただろうか。


「ごめんな、樹。もう絶対に俺は……樹を置いていかないから」


そう言い、藍君は僕の頭を撫でる。


「……ほん、と……に?」


もう、藍君と別れたくない。そんな思いが僕から勝手に言葉となり出てくる。

君にこうされると……僕は本当に、素直になってしまう。


「ああ」


その返答を、僕はどれだけ待ち望んでいたんだろうか。


「……」


藍君の胸から離れると、藍君の目が僕の目に映る。

その目は何か、迷っていたように見え――そして直ぐ、真っ直ぐな目に変わる。


「改めて……よろしくな、樹」


手を差し出す藍君。


そうだ、今からは……君と一緒に戦う『仲間』として。

僕の魔法で、藍君を守るんだ。
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