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しおりを挟む私はこの空欄のゲームを愛している。
«世界の敵が討伐されました»
空に浮かぶ離島に、白亜の巨塔が静かに佇んでいた。
儚き蒼の花々がその摩天楼の目下で咲き誇り、時折響く鐘の音が、風と共に花弁をさらう。
ここは難攻不落と呼ばれたラストダンジョン。
空中庭園『バビロン』だ。
各階に張り巡らされた嫌らしい罠の数々は尽くプレイヤーを狩り尽くし、時間ごとに変わる構造は【地図】を狂わせた。凶悪なモンスター共は、弱り果てたプレイヤーを執拗に嗅ぎつけ、鬼ごっこを始める始末。
最高難易度を誇るこのダンジョンは、トッププレイヤーの力を持ってしても攻略は不可能だと言われていた。
……のだが。
難攻不落、最強難易度のレッテルを剥がすがごとく、一夜にして一人のプレイヤーに攻略された。
世界ランキング不動の一位。最強のギルドを束ね、運営のブラックリストに名を連ねる歴戦の猛者。
何者にも追随を許さぬ絶対なる実力を持ったそのプレイヤーこそ、
「私である!」
ふんす、と胸を張った私は、勝利の余韻を噛み締めてみるみる頬を紅潮させた。
「うぉー! 勝ったー勝ったぞー! よっしゃぁー!」
拳を突き上げ勝利の雄叫びをあげた私は、真紅の絨毯の上に倒れ込んだ。
さすがに一人での攻略は肩が凝った。
約束していたギルドメンバーは、リアルの事情で来れなかったために、苦戦を強いられ余計に時間がかかってしまったものの、初見でここまで来れたのは僥倖だった。
もともと50階層辺りまでの散策だったはずが、時間が余ったので進んでみれば、あれよあれよと言う間にここまで到達してしまった。
そして始まるボス戦。
一言で言えば、死にかけた。
苛烈に苛烈を極めた死闘だったともいえよう。
こっちが殴れば相手は三倍返しで殴ってくるし、回復しようと思えば相手も回復する。
大魔法を放とうとすれば解除(キャンセル)を確実に当ててくる。
実に長い戦いだった。
よく一人で頑張ったね、私。
と、自分で自分の頭を撫で、私はログを確認する。
«LIVE 隠しボス『レメゲントン』との戦闘が開始されました。am3:00
閲覧者が500人を超えました。
閲覧者が1000人を超えました。
閲覧者が1万人を超えました。
ーーーーーー
閲覧者が10万人を超えました。
閲覧者が20万人を超えました。
LIVE 隠しボス『レメゲントン』との戦闘が終了しました。am7:00
称号【世界を救いし者】を獲得しました。
称号【神殺し】を獲得しました。
称号【自重しろ馬鹿野郎】を獲得しました。
スキル【限界突破】を取得しました。
スキル【偉業】を取得しました。
これまでの経験値によって、レベルが引き上がります。
ギフトが贈られました»
おぉ、隠しボスだけあって称号やらスキルやらたくさん貰えたな。次のギルド戦で役立つのもあるかもしれない。
帰ったら皆に自慢しよう。
ニマニマとにやけながら、『レメゲントン』が待機していた玉座に目をやると、宝箱がドロップしていることに気づいた。
「白金の宝箱……!?」
ガバッと体を起こした私は、自分の足に足を引っ掛けて転けそうになりつつ、レア宝箱の前に移動した。
興奮と期待を抑えてゆっくり蓋を開ける。
そこにあったのは、一枚の紙切れ。
なまじ伝説の宝刀などを期待していたために落胆の色を隠せないで、紙切れをすくいあげる。
「なになに? 招待状?」
運営様からの茶会の招待状とみた。非常に面白そうだが断固拒否だ。
現実への招待状なんて受けられるはずがない。
こんなもの貰っても困る。物凄く困る。
何を考えているんだ運営よ。個人情報は大事でしょうが。
溜息をつき、手の中にある招待状を握りつぶす。
そして、空いている方の手で玉座をアイテムボックスに仕舞い、【飛行】を使って崩れ落ちた天井から外へ出た。
「絶景かな絶景かなぁ」
スクリーンショットを撮っておき、満足気に頷いた私は、舞い上がる青の花弁を摘む。
ハム、と口に挟み吸ってみる。
「甘ずっぱいなぁ」
口を開けると、欠けた花びらが下から吹き上がる風で唇から離れていった。
空中庭園と言わしめるだけあって美しい眺めだ。
暫く観賞した後、踵を返してその場をあとにした私は、
「あ、そーいえば」
帰りの道中にて、握りつぶした招待状のことを思い出した。
一時停止し、シワだらけになった紙を広げて綺麗に折り畳む。
八折ほどして、怪力のままに破り、紙吹雪を散らせた。
筋力がカンストしているから、さほど力はいらない。空気を割いている感じだ。
「これでよし。さ、帰って自慢しよう」
グッと背を伸ばしたその時、澄み渡る青空に亀裂が走った。
「へ?」
次の瞬間、【飛行】が解除され、体の自由な操作が効かなくなる。
まるでバグったような仕様に、冷や汗が流れる。
GMコールを鳴らそうにも手足に重しが着いたようにビクともしない。
明らかな異常。
動揺と焦燥が私を支配した。
「動かな……い!」
一体何がどうなって…ッまさかPK?
唯一動く眼球を忙しなく回すが、その影は見当たらない。
状態異常は…かかっていない。
事前に空中トラップが設置されていないかいどうか調べておいたから、罠の可能性はゼロ。
だとすれば、私の知らない超遠隔系のスキルとかだろうか。
最悪な展開をバグとするなら、その線が濃さそう。
今はこの二つしか考えられない。
もしバグならメンテナンスが入るまでは動けないし、待つしかないか。
てか、誰がこのバグを報告するの?
うわ、これは絶体絶命というやつだ。
一応何かあった時のためにギルドメンバーにはラストダンジョンに行くって言っておいたから、長時間帰って来なければ探しに来てくれる、はず。
鯰さんとか。
あの人副ギルドマスターだし、優しいし、ドSだし……あ、駄目だ。
D.アルグレイさんは……あ、海外出張だ。
ならば他のメンバーはと思考に耽っていると、ガクンと体が傾いた。
「うぇ?」
嫌な予感。
それはすぐに的中し、冷たい風が頬をきる。
足場がいきなりなくなったような感覚がしたあと、腰から駆け上がるジェットコースターに、小さな悲鳴を上げる。
眼下に広がる雲海に、私は重力に引かれて沈み込んだ。
ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー
絶賛空の旅を満喫中だった私は、無我夢中で手足をばたつかせた。
豆粒のように見えた都市がどんどん大きくなり、それと同時に私の下降スピードもギュンギュン上がる。
パラシュート無しのダイビングを経験したのはこれが初めてだ。
心臓が凍りついて悪寒が酷い。
死と隣り合わせとは、こういうことか。
冷静な思考とは裏腹に、口は勝手に生存本能を叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
久しぶりにあげた大絶叫は、眼前に近づいたアスファルトに吸い込まれ、轟音とともに地面に体が激突した。
砂煙が舞い、パラパラと破片が降りかかる。
スキルのおかげで痛みはないものの、視界端に映るHPのバーの一つが、ミリ単位で削られていた。
状態は……変化なし、と。
顔面から落ちたせいで上半身がすっぽり埋まってしまったこと以外は大事ないようだ。
「あいたたた……」
お尻を振って、何とか埋まった体を地面から引き抜き、顔についた土を拭う。次いで、ぱんぱんと装備に付着した汚れを払った。
辺りを見回すが、砂煙でよく見えない。アイテムボックスから【地図】を取り出すも、ジャミングが入って使い物にならなくなっている。
隠しエリアからの隠しエリアに転移ってことはないだろうし、そもそも【地図】にジャミングが入るなんて事態は起こったことがない。
これは警戒を上げたほうが良さげだ。
やがて視界が良好になった頃、私は改めて自身のいる場所を確認せんと先を視た。
そして、目に飛び込んできた光景に絶句した。
「……渋谷?」
私を中心にして敷かれたスクランブル交差点。
記憶とは異なる少し近未来的な高い建物に、煌びやかな看板。信号待ちをしていたであろう人の群れ。
刺さる奇異の視線は無遠慮で、居心地の悪さと不安を増長させる。
「……っは。通行の邪魔になる!?」
私の視線の先には渋滞を巻き起こす車の姿があった。
明らかに朝の通勤ラッシュの邪魔をしている。
【飛行】を使って退くか?
いや、まだバグがあるかもしれないからスキルは控えておいた方がいいかもしれない。
そうとなれば。
私はグッと足腰に力を入れ、持ち前の脚力を使ってその場からの離脱を試みた。
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