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新しい玩具
しおりを挟む一悶着あって、この部屋には私とヴィネ、わなわな震えている包帯男さんしかいない。
双柱はというと、突如やってきた上司と思われる美人さんに、職務怠慢だとか何とかと凄い剣幕で怒られ、タンコブを作って退出した。
その際に、上司さんが何度も頭を下げて、それをぽけっとした顔で見ている双柱の頭をひん掴み、床に押し付けて二人を謝らさせていたのが記鮮明に憶に残っている。
別に謝られるようなことはされてないのだけど、上司さんは妙に真面目な方のようで、謝礼を受け取るまで帰りません宣言を立てられた。
そう言われると受け取るしかなく、何だか申し訳ない気分でいっぱいになって、足元を見下ろすと苦渋の涙を流して謝る25柱君と、飄々と謝る35柱君がいた。
うん、罪悪感で胸が締め付けられそうになったよ。何千年を生きている大悪魔とはいえ、外見は少年風味だからね。
珍しく沈黙を突き通すヴィネを不思議に思って首を横に回すと、肩を震わして口元に手をやる彼の姿。
あ、と思った時には既に遅く、ヴィネは盛大に吹いてしまった。それに激昴した25柱君がヴィネの胸倉を掴もうと上司さんの腕の中でもがくけど、なかなか抜け出せなくて。
そうこうしているうちに麻酔らしきものを打たれ、25柱君は昏倒。
私は思う。
上司さん、大悪魔抑え込むとかほんと何者なの。
気を失った25柱君をひょいっと担いだ上司さんが、最後に花が咲いたような笑顔を浮かべて、この場はお開きのようなものになった。
始終空気になっていた男の人は幽霊を見たような顔で上司さんの後ろ姿を見つめていた。惚れたのだろうか。
あ、そうそうヴィネさんや。
ベリトを呼ぶ気、失くしたよね? ね?
「ではるし、キャンキャン喚く子犬共が完全に失せたようであるし、壁を修復しようと思うのだが、いいか?」
「あ、うん」
ポンッと思い出したように手を合わせたヴィネに、私は何となく頷く。
そう言えばヴィネは何かを建てたりすることが得意なんだったけか。
非常に便利な力だと思うんだけど、その力があれば穴が空いても壁をすぐ直せたんじゃ……?
「…修復など造作もないことであるが、汝とて、面白い方に転がった方がよかろう?」
私の考えを読んだのか、ニヒルな笑みを浮かべてきやがった。くそっ、イケメンめ。イケメンだからって私がなんでも許すなんて思うなよ!
ていうか、直せたのね。このチートの塊めっ!
「さて、ヴィネさんや。どうして風穴開く事態になったのか心当たりはあるかな?」
風穴が空いていた壁によし掛かり、私は封魔の白布を手元で弄ぶ。
元はと言えば双柱がここに来る原因になったのはありえないほどの熱量を孕んだ光線である。
それを噴射した本人に聞けば、わからないとの事なので、ヴィネに聞いた次第である。
「恐らく、服用したフルポーションには、此奴に耐え切れぬほどの魔力を保有していたのだろう。それが、目に集中し、布が落ちた途端に弾けた。そういうことだ」
「ホー……」
「なるほど。俺の魔力が漲っているのに理由がつくな」
……理解はした。多分。
要は体に耐えきれない魔力が外に出よう出ようとして、そんな時に布という壁がなくなって、勢い余って外に出ちゃった的な感じでしょ?
オーケーオーケー。
「体に異常とかないですか? えーと………」
「…あぁ、俺はアーサーだ」
「アーサーさん………あ、私はるしです。こっちの大悪魔がヴィネです」
「あぁ。異常は特にないな。寧ろ元気だ」
グーパーグーパーと手を開け閉めしているアーサーさん。一瞬、ぶるっと体を震わせた。
ある意味裸に近い状態だから寒いのだと思う。…今はまだ布団に潜って我慢してくれると助かります。
「えっと、服は血まみれで破れてたのでーー」
「ーー捨てたのか?」
「いえ、捨ててないですけど、一応洗濯してます」
「そうか。捨てても構わない」
ギムレットに裁縫頼んじゃったなんて言えないなぁ。
お互い何も言うことがなくなって、そのまま会話が途切れて沈黙が降りる。気まずい。
「なぁアーサー。汝はどうする?」
「どうする、とは?」
沈黙を破ったヴィネに、アーサーさんは眉間に皺を寄せた。それを見て口角を上げるヴィネ。
あれはベリトが玩具を見つけた顔に似てる。
「言葉のままよ。汝に何があったかは聞かぬが、このままベッドに縛り付けられ続けるわけにもいくまい? それに、貴様はもう失敗しているのだろう?」
「……ッ何を言って」
え、なになにヴィネ、何の話?
雰囲気が重くなってきたんだけど。アーサーさんにいたっては殺気が漏れてるし…。
二人とも、指先に魔法陣展開しないで。
ちょっ、本気ですか?
折角騎士団の双柱が帰ってくれたんだよ?
ここで暴れたら即Uターンしてくるからね?
「分からぬのか? ルベーー」
「ーー黙れ!!」
アーサーさんの指先から雷の砲弾が打ち出された。ヴィネを襲わんと一直線に飛ぶけど、ヴィネはそれをパクリと飲み込む。
ヴィネ、魔法食べると胃が荒れそうよ。
「…化け物が」
「それは褒め言葉として受け取ろう」
吐き捨てた言葉をわざわざ拾ったヴィネは、ポケットから取り出したハンカチで口元を拭う。バチバチと二人の間で火花が絶えない。
…わかんない事だらけだけど、これだけは分かった。
ヴィネはアーサーさんの地雷を踏んだ。思いっきり踏み抜いた。
そして、さっきよりも確実に雰囲気が悪くなってる!
「もう一度聞くがアーサー。汝(おまえ)はどうする? このままここで朽ちるか、それともるしについて行くか」
朽ちるか、私についてくるか。
……ん?
私についてくる?
なんでさ。
「俺には故郷がある。朽ちるつもりなどないし、恩人であるが、お前についていく義理もない」
「ほう……」
ますます笑みを深めるヴィネに、鳥肌が立つ。口、裂けてるよね多分。
裂けている上に三日月型になってるよ。怖いよ。
「るし、我は此奴と話すべきことがある故、一刻の間席を外す」
「俺は何も話すことはないが」
嫌々と首を横に振るアーサーさん。私としてはアーサーさんに今後のことは任せたい。NPCだとしても、彼の人生だし。
たけどね、任せたいのは山々なんだけどね、ヴィネの顔が怖いのなんの。
ごめん、アーサーさん。恨むならヴィネを恨んでくれ。
「ヴィネ、アーサーさんほぼ全裸だからベッドから出たくないんだと思う。それに、私が包帯で下半身ぐるぐる巻きにしておいたから、一刻と言わずゆっくり話してくれば?」
そう言うと、アーサーさんの眉が釣り上がり、鬼のような形相が私を見た。裏切り者、と聞こえてきそうな表情だ。
対するヴィネは勝ち誇った顔でベッドに近づき、シーツでアーサーさんをぐるぐる巻きにした。
上半身のみでヴィネに勝つことは叶わず、されるがままに芋虫のようにされ、肩に担がれた。
「ではいってくる」
「ーーんー!!んーーんーッ!!」
「いってらっしゃい」
しっかりと口に猿轡を噛ませ、意気揚々と扉から出ていったヴィネを見送り、一人になった私は窓辺に腰掛け、貴族街を見下ろす。
「あ」
ちょうど、クー 一行が宿屋に帰ってきたのを目撃した。
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