運極さんが通る

スウ

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歪な信念

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ギギギッと、不協和音を奏でながらペーターがゆっくりと立ち上がった。鎧から30本もの神槍ゲイ・ボルグを抜き、ゆらゆらと近付いてきた。
神槍ゲイ・ボルグを持ち上げる…引き抜くには、最低でも筋力が500は必要なはずだ。それを鎧に挟まった枝でも取るかのように軽々と抜く姿に戦慄した。

「首を…ぐびをっ!!首を出せぇぇぇぇ!!!首が!!首を!!クビ!!クビィぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ペーターから赤黒いオーラが立ち上った。空気が軋み、重圧がのしかかる。1歩、また1歩と近づいてくるにつれ、ペーターが巨大に映った。

「…っ!!」

窒息する程の殺気にあてられ、鎮魂歌(レクイエム)は途切れて喉が閉まり、ヒュッと音が出る。カタカタと足が震え、その場から動くことを許されない。
ペーターは、ゆっくりと、ゆっくりと、両手を広げながら好敵手たる者の首を目指し、進む。傍から見ると、それはまるで、抱擁を求めているかのようにも映る。
だがそれは、るしから見れば、恐怖以外の何者でもなかった。
禍々しいオーラが、ペーターを包むように揺れ、落とされた影は荒れ狂うモンスターのようにさえ見えた。
冷たい感覚がるしの爪先からから頭の頂点まで駆け上がり、死に戻りした時の感覚が強制的に蘇らせられる。
動かなければ。
動かなければ。
恐怖で身体が縛られ、動けない!!
動け!!動け!!動けぇぇ!!
脳は身体に動けと命令するが、身体は反応を示すことはない。首から下がまるで違う生き物なのではと思うってしまうほどに。
ピクリとも動かない指先は、真っ直ぐに地面に向いている。
少しずつ近づいてくる重い重奏音が、死を予感させるには十分すぎだ。
空に浮かぶ雲はいよいよ深い闇を落とし、悲鳴のような轟音が嘶いた。




「るし!!」

「リビングアーマー」を相手にしていたジンは、空気が急に重くなったことを感じた。原因は何かと首を回すと、るしが窮地に陥っていることに気付いた。駆けつけようにも、目の前の敵が邪魔をする。
「デュラハン」より一回り小さい「リビングアーマー」は、小柄な分俊敏力が高く、小回りがきく。よって、ジンがどれだけるしを助けに行こうとしても、器用に自身の大剣で道を塞ぐのだ。

「どけ!退けよ!!るしっ!!るしーー!!!」

ジンの必死な叫び声に、他の「リビングアーマー」を相手にしていた5人も、るしの窮地に気付く。が、敵の猛攻が激しい故に助けに行くことが出来ずにいた。
【宝石変換】により、大剣を宝石に変え、さっさと「リビングアーマー」を倒してるしを助けようとジンは新しいスキルを使った。

「ミラージュ!!」

背景に同化し、「リビングアーマー」を倒さんと水精霊の双剣を奴の死角から入れる。
【氷纏】によって、水精霊の双剣による攻撃を当てた場所から霜が現れた。
身体を捻り、同じ場所にもう1度攻撃を入れようとすると、顔面に「リビングアーマー」の拳が入った。小さな身体は宙を舞うが、クルクルと回り、綺麗に着地した。
温かいものが鼻から流れる始めたのを感じ、袖でちょこっと拭くと、赤い血が服に滲んでいた。
ズズっと吸うと、鉄の味が口内に広がった。

「どけ、然もなくば、死ね」

目を猫のように細めたジンは、「リビングアーマー」に、まるでゴミでも見るかのような目を向けた。



「くそっ!!るし!!」

余所見をしたウォッカの頬に、「リビングアーマー」の剣先が掠り、ジワリと赤い玉が滲み出た。

「っ!!くそぉぉっっ!!」

何の為に、何の為に俺は、頑張ってきたんだ!?るしを守るためだろう?なら何で、俺は助けに行けないんだ!!
ウォッカは高く跳躍し、ブラッディローズを「リビングアーマー」に向けて振り落とす。それを見越していたかのように、「リビングアーマー」は、大剣で受け止め、弾いた。がら空きの腹に蹴りを入れられ、ウォッカは地面に打ち付けられた。
口の端から流れる血をグイッと右手で拭き、「リビングアーマー」に再度攻撃を仕掛ける。

「邪魔だ!!俺はッ!!俺は助けに行かなくちゃいけないんだ!!」

その願いを叶えてくれるほど、モンスターは優しくはない。寧ろ、踏みにじろうとさえするだろう。
 吼えるウォッカを涼しげに見やる「リビングアーマー」は、ただ無機質に剣を振るった。




ベルモットは、忌々しげに敵を睨む。
聖域サンクチュアリ】によって敵は大分体力が削られているはずなのに、消えやしない。
それどころか、剣を振るスピードが段々上がって来ている。そのせいか、自分の翼に剣が掠れること数回。
だが、ドラゴンの皮膚は硬い。
熱をも遠さない強靭な鱗は、生半可な剣では傷がつかないのだ。
よって、ベルモットの身体には傷がつかない。ただ、むず痒い。
自身の尻尾を大剣の根元に叩き付ける。すると、ピシピシと亀裂が入り、刃が折れた。
武器破壊はお手の物。水平に移動し、敵との間に距離をとる。
武器が無くなった敵は、柄を放り投げ、ベルモットに対して構えをとった。
それを見たベルモットは1度空高く上昇し、小さく丸まる。
そして、狙いをつけ、スピードを上げて敵に突っ込む。




キュッと唇を真一文字にし、テキーラはチョークで召喚陣を描く。
「リビングアーマー」の相手は、バレンシア様とゴーレム達がしている。初めは5体いたゴーレムは、時が経つにつれて「リビングアーマー」に粉々に砕かれていき、残り最後の1体となった。これが居なくなると、一気に戦況が不利になると考えたテキーラは、1度後方に下がり、新たなゴーレムを召喚することにした。
残りチョークは2本。
既に3本は、使い終わった。
ゴーレムが召喚陣から現れ、「リビングアーマー」に向かって進撃を始める。今回3度目になるそれを見て、テキーラは、はぁ、と溜息をついた。
遠くに見える、るし様を助ける為に、私に出来ることはあるのだろうか。私が助けに行ったとしても、足で纏にしかならないのではないか。
奮闘しているバレンシア様は、そうは思わないのだろうか。

「テキーラ!!早く来るのじゃ!!ちと体力がやばい!!」

バレンシア様と入れ替わるように、テキーラは、戦闘に立つ。
もし「リビングアーマー」を倒すことが出来れば、るし様に頭を撫でてもらえるだろうか。




テキーラと入れ替わったバレンシアは、アイテムボックスからポーションを取り出し、グイッと一気に飲み干す。悠長に休んではいられない。
るしを助けに行かなければ。
思考が具現化した「デュラハン」が、ゆっくりとるしに近付いていく。
助けに行かねば。
助けに行かねばならない。
だが、妾は戦いが始まる前に、あることをるしに言われた。不安はあるが、妾は、るしの言ったことを信じるしかあるまい。
…信じて、今は目の前の敵に専念しよう。
バシッと両頬を叩き、気合を入れる。

「行くしかないのぅ!!頑張るぞぅ!!」




 ラムは、少なからず焦っていた。
 自分と同じ体格のモンスターと1対1で戦ったことがなかったからだ。それに、るしがピンチの追いやられていることに益々焦りが募った。

「んもぅ!!」

お互いに大剣をぶつけ合うが、相手は重い大剣を空気のようの降っているため、自分は防御に回るしかない。
何度か攻撃を受けるのを許してしまうが、それはるしから貰った劣竜の鎧一式によって防がれた。
バックステップをとり、装備についているスキルを発動させた。




大きな、歪な形をした手が、るしの首を捉えた。
恐怖で身体が支配されたるしは、なす術なく顔を歪ませた。負けることが悔しくて、震える唇を血が出るほど強く噛む。
ペーターは、好敵手の細い首に己の手を当てる。そして、首をもぎ取るために手に力を込めようとした瞬間、ハハッと、乾いた笑い声を聞いた。
音源は、今まさに死を目の前にした好敵手である。

「好敵手ヨ。何故君は笑う?君は、私二首を差し出し、シヌというのに」

るしはその言葉に驚いた。だが、思い当たる節はある。私は、緊張すると、ついつい笑顔になってしまうのだ。
これは、相手からすると、気持ち悪く見てるのかもしれない。
思考は回るが、舌は回らない。
黙っていると、ペーターは返答を待つのを諦めたかのように肩を上げて下げ、首を締め始めた。

「…っ!!」
「首がっ!!私の首が!!やっとだ。やっと、君に会いに行けるよ!!マリー!!」

息が苦しい。
頭がグツグツと煮えるマグマのように熱く、思考がショートしそうだ。
ぎゅうぎゅうと硬い手が、首を圧迫する。
息を吸おうと自然と口がパクパクと動く。酸素が足りないのか、目がチカチカし、黒と白のコントラストの世界が行き来する。
次第に意識が薄れていく感じがする。
開いた口からは唾液が漏れ、目は白をむく。
あぁ、くそ。
次は絶対に負けないからな。
勝ってみせる。


完全に気絶した好敵手を片手で持ち、ペーターは思案した。
このまま首をもぎ取ってしまっても面白くない。
それに、好敵手たる存在には、私と同じ死にかたをしてほしいと思った。
それが、彼の慈悲。
好敵手を地面に寝かせ、自身の大剣を空に掲げる。
やっとだ。
やっと。
この首さえあれば、私はマリーに会いに行ける。
マリーは私のことを覚えてくれているだろうか。
マリーのミートパイが食べたい。
マリーの笑顔が見たい。

「フィナーレだ」

血に汚れ、数々の命を刈り取ってきた大剣を、好敵手の首めがけて振り落とした。

確かに振り落とされたと思われた大剣は、瞬間にキラリと輝き、1輪の美しい見事な薔薇に変わった。

「フハハハハ!!フィナーレだと?笑わせるな、屍。貴様のような下賎な者が我の物に手を出すとは何事か!!万死に値するわ!!」

背中から聞こえる声に、嫌な予感を感じた。

「…何者だ」

突如現れたの金赤プラチナレッド髪を持った男は、凍てつくような光を深紅の瞳に宿し、何もかもを見透かしているように鼻を鳴らした。
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