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運とは
しおりを挟む家に帰ると、ヴィネが青筋を立て、ギムレットは涙を流していた。
「ど、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわ!!るし、我らがどれほど心配したと思っている!!汝が九死に一生を得る度に、ギムレットが泣いていたぞ。それを慰める我はどれほど憂鬱だったことか!!」
「るし様ぁ!私は、私は、また貴方様を失うかと、そう思ってしまいました。るし様、ご無事で何よりです!!…うぅっ」
私に抱きつき、おいおいと泣くギムレット。ごめんね、と言い、頭を撫でる。
そう言えば、家ではLive台の映像も流れるから、私の危うげな戦い方を観ていたのだろう。
「2人共、心配掛けてごめんね。私、もっと強くなって、2人に心配かけさせないよう頑張るからっ!!」
「…ほぅ、言ったな?では、今から特訓だ」
「え?」
ヴィネの目があのスパルタの炎を灯した。嫌な予感がし、逃げようと身体の向きを扉に向ける。だが、それも虚しく首根っこを掴まれた。
「おぅふ」
「さて、るし。我はトレーニング場というものを作った。これは今から汝(おまえ)を強くするための場所だ。思う存分に喜べ?」
ヴィネがベリトに見えてきた。逃げようにも逃げられないし、叫ぼうとすれば口を抑えられる。
「行くか。ギムレット、飯は朝、昼、晩で持ってきてくれ。頼んだぞ?これはるしの為なのだ」
「るし様の?」
「そうだ」
ギムレット、助けて!!と叫ぼうと口をモゴモゴさせるが、ヴィネの手力は強く、一向に口は開かない。アイコンタクトを送ろうも、ギムレットはキッチンに飛び込んでいった為、意味はなかった。
「るし、我は特訓の前に、汝に話しておくべきことがある」
話しておくべきこと?それ一体…思案する間もなく、私はトレーニング場に連行された。
トレーニング場の内装は、ドーム型になっている。シンプルな白に塗り固められたその場所の床は、足で押すと柔らかい。例として言えば、ゴム製だろうか。多分それに1番近いと思う。
キョロキョロとあたりを見回している私を見てヴィネは嬉しそうに顔を緩ませた。
「ヴィネ、ここ凄いね。いつ作ったの?」
「ん?汝が戦っている間にだが?」
「だから、ベリトが来たのか」
「そういう事だ。るし、感謝するんだぞ?我が汝(おまえ)の為に、汗水垂らして作ったのだから」
実際のところはスキルでちょちょいとなのだが。
それを知っている私は、ジト目でヴィネを見やった。ヴィネは、私の睨みを何処吹く風で受け流す。
「さて、我はるしに話したいことがあると言ったな?」
「うん」
「汝の運についてだ。汝のステータスは運に偏っているだろう?今の汝の持つ運のトータルは、968だ。これの意味が分かるか?」
「分からぬ!!」
だろうな、とヴィネはため息を吐く。
運が968あったらどうだというのだい?…よく分からぬ。
あ、あと少しで1000だね。そういう事かな?
「汝は、ステータスを上手く使えていない。それどころか、自身で抑制している」
抑制?それはどういう事だろうか。確かに私はガチャ以外にあまり運を感じないけど…。
「例えば、汝が石を適当に投げた際、モンスターに当たったことがなかったか?」
…あった。確かそれはまだ始めたばっかりの時、やっと倒したゴブリンがタダの石しか落とさなかった。イライラが爆発して適当に石をぶん投げたら、なんとびっくり、他のゴブリンに当たるではありませんか。あの時はびっくりしたなぁ、うんうん。
そんな私の反応にヴィネは、ふむ、と頷く。
「心当たりがあるようだな。それが運だ。だが、汝(おまえ)はさっきも言った通り、自身で運を抑制している。その為、スキルでしか運を発生出来ていない。石が当たるような例はたまに、しかない。故に汝は運の無駄遣いをしている」
「…無駄遣い」
「そうだ。我は先刻の戦いを見て、無理矢理にでも汝の運の抑制を解かなくてはいかないと感じた。よって、我は心を鬼にし、この1週間で汝、即ち家畜の貴様には我のスパルタ特訓に付き合ってもらう」
「え」
「家畜、我が汝の事をこう呼ばずに済むよう、せいぜい頑張れ」
黒い髪を掻き揚げ、真紅の双眼が向けられた。
ベリトとは違う明るめの目は、スパルタの炎をメラメラと燃やしていた。
これはもう逃げられない。
ゴクリと喉を鳴らし、ヴィネに質問を投げる。
「つまりは、私が運を上手く使わない限り、ここから出られない的な?」
「そうだ。話はここまでにして、さぁ、始めようか」
そう言って、ヴィネはパンパンと手を叩いた。すると、トレーニング場は渓流が流れるエリアへと変わった。空にはモンスターが現れ、悠々と飛んでいる。
モンスターを【鑑定】すると、「ソヨカゼ」という名の鳥型モンスターだった。羽の先端が黄緑、目はつり上がり、嘴はギザギザであった。
装備なしで噛まれたりでもしたら、私の腕はチョンパされるだろう。
そう思う程に、嘴が鋭利であった。
「あの、ヴィネさん?これは…?」
「あぁ。そこらに落ちている石をあそこにいるモンスターに当てる。ただそれだけだ。飛んでいる鳥全てを落ちている石で落とす。なに、簡単なことだ。汝(おまえ)なら出来る。武器は使うなよ?…我から言える助言は一つ、考えるな、感じろ」
無責任にそう言い放つと、ヴィネは光の粒を残して消えた。空に変わった天井を見上げると、ソヨカゼが何匹も飛んでいる。
試しに近くに落ちている石を拾い、投げるが、どうにも当たらない。当たりそうになっても、避けられる。
「難しい」
ぜんっぜん当たらねぇぞ。私にもジン達のような天才的な才能があれば!!
ゴロンと草むらに寝転がる。土の匂いが鼻を掠める。
本当にヴィネは凄い。完全に匂いも感触も再現してるよ…。もしかして、空間を捻って本物をこのドームの中に持ってきてたりするのかな。あのお風呂を作るヴィネだ。やりかねぬ。
青い空に流れる雲を見る。
あ、あの雲はお肉だ。林檎も見える。
ポケッとしながら、おもむろに手に持っていた石を空に投げる。
ヒュンッと雲を突っ切り、小さな穴を開けた。
「sov!?」
何かに当たったようだ。
石の代わりに落ちてきたのはギザギザな嘴が特徴的な「ソヨカゼ」。
地面に打ち付けられ、金色の粉に変わっていった。
「やった…?」
今のって、運を使ったよね?ね?おっしゃぁぁあ!!この調子で撃ち落とすべし!
立ち上がり、川辺の小石を拾い投げる。避けられる。拾い投げる。避けりれる。拾い投げる。避けりれる…。
あれ?当たんないぞ?一個ずつ投げているからかな。
「ふっ…見てろよ、数打ちゃ当たる。私の小石(ボール)は落ちん!!」
両手に小石を抱え、空に小石を打ち上げる。野球の投球マシーンのように、肩をぐるぐる回して空に逆小石雨を振らせる。
投げた小石は帰ってくる。
「あいたっ!!あいた!!」
頭を手で隠し、丸まる。
空から小石の雨が降ってきた。ドンかぶりである。
「あぁーもう!!なんで当たんないの!?」
ガシガシと頭を掻き、憎々しげに「ソヨカゼ」を睨む。
「ちょっとは当たってくれたっていいじゃんか!!」
「sov」
まるで笑っているかのように嘴を鳴らす「ソヨカゼ」。
コイツ、知能高い…。
諦めずに何度も何度も投げ続けるが、未だに撃ち落としたのは、運良く倒した最初の1匹のみである。途方に暮れていると、ベリトとヴィネが現れた。
「ハハハハハッ!!精が出るなぁ、家畜。自身で石の雨を降らせるとは、病気か何かか?」
「そう言ってやるな、28柱。家畜、落とせたのは1匹だけか?」
ヴィネの家畜、という言葉に心臓がギュッと掴まれた気がした。いつもは名前で呼んでくれる人がいきなり家畜、と吐き捨ててくるのは心にグサグサくる。
「い、1匹だけ…だって、全然当たんないんだもん!!」
「当たり前だ。あれは我が錬金で作った合成獣(キメラ)ぞ?貴様が運を使わぬと倒せぬように細工してある。ありがたいと思え家畜。涙を流し、我に跪くが良い」
運を使わないと倒せないとか、厄介なものを作ってくれましたね…。涙が出るほど嬉しくないです。
「汝は、何故そんなに運を使うのが下手なのだ?普通ならば、息をするように使えるというのに」
ヴィネ、そんな事言われても、私リアルでは運が相当悪いから、よくわかんないんだよね。ここだと運が良いし、リアルとここでのギャップとかが要因とか?…ってか、そもそも運って何?
「うむ、そんなことも知らぬのか家畜。我は寛大であるゆえ、教えてやらぬこともない。運とは、人知では計り知れないものである。貴様のその矮小な頭で理解するには少し難しいやもしれぬな。しいて言うなら、偶然を必然に変えることが出来る」
「…それ、すごい」
運があれば、運命を変えることが出来るという訳だ。ただ、私の場合はそれが使えず、苦労している訳なのだが。
「我らには汝が運を抑制する理由に検討がつかぬ。…おっと、家畜、飯だ」
小さなため息をつきながら、ヴィネはギムレットの作ったご飯をアイテムボックスから取り出した。
湯気が立ち、鼻腔をくすぐる。
お腹が鳴り、涎が口内に溢れる。
さてはギムレット、本気で作ったな?
「今日は飯が当たるが、明日からは、飯時になるまでに10羽落としていないと、飯は当たらぬぞ?」
「そんなぁ!!私、お腹がすいて力が出なくなるよ!!新しい顔をおくれ」
「ん?…安心しろ、汝が運をつかい、モンスターをすべて倒したあかつきには、我らが褒めてやる」
「ホントに!?」
「おい、45柱、その中に我も含まれておるのか?」
「当たり前だ」
ヴィネとベリトがギャーギャーと喧嘩を始めたところで私はご飯を食べ始める。
セタンタのお母さん、デヒテラさんが作ってくれたあのコンソメスープや、サラダに似ている。
美味しい!!
視界右端にある時計は20時38分。これを食べたら今日はもうログアウトしよう。その後で、運について考えようと思う。
ご飯を食べながら空を見上げると、「ソヨカゼ」がチラホラと見える。
私はこれから1週間の特訓を想像し、深い溜息をついた。
「おい家畜。溜息をつくと、運が逃げていくぞ?」
してやったり、とニヤリと笑うベリト。
「ふん、私はそんなヘマはしないもんね!!」
「汝は早く運について理解を深めろ」
ピシャリとベリトとの言い争いを強制的に終わらされる。今日のヴィネは怖い。普段怒ったりしない人が冷たくなると、凄く怖い。
「…だが、此度の戦いは良くやったな」
るしにだけ聞こえるようにと紡がれた言葉。ベリトに聞かれると、面倒臭いためである。
私はヴィネを見て、ふにゃりと笑う。やはり、ヴィネは何処まで冷たい態度をとったとしても、ヴィネなのだ。
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