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裏通りにヤクザがいた
しおりを挟むマサキは、自嘲するかのように笑ったり、さぞ嬉しそうに笑ったり、悲しそうな顔を作ったりしながら、語ってくれた。
勇者召喚と聞いてどれだけはしゃいだか。
魔王をすべて倒すまで元の世界には帰れないと聞いて、どれだけ泣いたか。
王に魂を縛られ、逃げることが出来ない苦しみ。
人々から押しかけられる期待が、どれだけ重いか。
自分では抑えきれないストレスを、無意識にクーフーリンに向けてしまっていた事。
すべてを聞き終えた後、マサキは憑き物が取れたかのような顔をしていた。
私は顎に手を当て、目をつぶる。
ふむぅ。
マサキの話が本当なら、王様めっさ悪い奴じゃん。勇者を逃げられないように魂に呪いをかけて縛るとか。
心臓をいつでも握り潰せますよ、的なのですな。
恐ろしい王様だ!!ブラックリストに入れておこう。
黙り続ける私に、マサキは不安を覚えたのか、声をかけた。
「あー…今の話重かったよな?ごめん」
「ん?いや、大丈夫。あのさ、魂に呪いがかけられてるって言ったじゃん?アレって、どこかに印とかあるの?」
何でこんな質問をしたかというと、純粋に魂の呪いというものに興味があったからだ。
魂の呪いって、胸のあたりに禍々しくてカッコイイ印があるのが定番じゃん?それを見てみたくてさ。
マサキは私の言葉に頷き、胸元のボタンを外し、呪いの印がある場所を見せてくれた。
だけど、そこには何も無かった。
…やっぱりか。
私の【神域拡張】って、主要キャラにも効くんだね。これはチートというやつだ。チート万歳。
さて、呪いが解けてることをマサキに教えてもいいのだけど、このままじゃあ面白くない。
王様にも一泡吹かせてやりたいし。
もう暫くは呪いのことは秘密で、いざという時に、カッコつけて教えてあげよう。
うん、そうしよう!
ふわぁ、口からと漏れる欠伸を抑え、視界端にある時計を見る。
18時か。
まだまだ早い時間だけど、今日はすごく眠い。
という訳で、私は、ある程度打ち解けた清々しい顔のマサキを部屋から追い出し、ログアウトするためにベッドに飛び込んだ。
翌日、私は世界ガチャで出た装備を、ベッドの上に並べ、悩んでいた。
大太刀が二本。
剣が二本。
大槍が一本。
二丁拳銃が一丁。
槌が一つ。
大盾が一つ。
兜が一つ。
キューブが一つ。
どれを装備していくべきか。
…兜は今のところ必要ないし、仕舞っておこう。
ラムにでもあげようかな。似合いそうだ。
盾は…うん、これも今のところいいかな。
まぁ、使う機会がほとんどないだろうし、こちらはテキーラにあげよう。これは身を守るには最高の一品だから、喜んでくれるに違いない。
漆黒の兜と、黄金に輝く大盾を、アイテムボックスに仕舞う。
残るは8つの装備。
うーん…性能的には、全体的にチート。
どれを選んでもいいのだが、どれも選びたい。
くっ、どうせなら全部装備したいところだけど、動く時に邪魔になるからさすがに駄目だ。
悩みに悩んだ結果、私は5つの装備を渋々手にした。
二丁拳銃を太ももに着いているベルトポーチに入れ、大太刀を2本とも右腰にさす。
そして、二本の剣を左腰に。
残った大槍、槌、キューブはアイテムボックスに仕舞う。
君らを使うのはまだまだ先になりそうだ。
【幻想】を使い、武器を短剣に見えるよう調節し、私は部屋をあとにした。
人が賑わう大通りではなく、私達4人は人の気配が全くしない裏通りを進んでいた。
4人とは、マサキ、茜、クーに私のことである。
ミーシャとリサーナは、茜のお使いで道具屋に行っている。対女帝戦に向けて、呪いよけの道具を買いに行っているらしい。
私がいれば呪いにかかることは無いけど、万が一億が一のこともあるかもだし、私のスキルはまだ秘密にしてる。
とても申し訳ないが、お金の出費が痛くない心の広い勇者なら、許してくれるはずだ!
そう、許してくれるに決まってる!
グッとガッツポーズを決めていると、横にいるクーが、哀れ、という目で私を見てきた。
そんな目で私を見ないでおくれ。
何か罪悪感が増す!
クーの視線から逃げ、私は辺りを見渡した。
ジメジメしてる。
あまり日が入って来ないのか、苔も繁殖している。
そういえば、前に一度、ここでない裏通りを、ジンと一緒に進んだっけか。懐かしい。
あの時は、グルグルと回る迷路のようで、しかもお化けがいそうで気が気でなかった。
私が思い出に意識を飛ばしていると、
「ついたみたいだ」
と、マサキが地図から顔を上げた。
古ぼけた看板に、所々朽ちているベニヤ板。
元は金で覆われていたであろうドアノブは、赤銅色の錆に変化していた。
店は開店しているのか、扉の隙間から明かりが漏れている。
第一印象は、ボロい、汚い。
【生活魔法】掛けてよろしいでしょうか?
せ、せめてドアノブだけでもっ!
私がそう志願しようとする前に、マサキは普通にドアノブを回した。
…マジか。
マジですか、マサキ君。
私は、今日一日マサキに触れないでおこうと決意した。
店内に入ったマサキと茜に続き、私もあとに続こうとしたその時、鼻に独特な血の匂いが掠れた。
バッと振り向き、入り組んだ路地裏を凝視すると、何かが動く気配が。
むむ…どうするべきか。
このまま勇者達について行くのが物語の本筋にそうものだと思うんだけど。
イレギュラーな展開に進むのもまた一興。
チラリとクーを見ると、クーも何か気づいているようだ。
うむ、話が通じるようで何より。
てことで、伝言役を頼むことにした。
「クー、私ちょっと急用思い出したから、マサキと茜に伝言宜しくね!」
「は?おい待てッ」
クーが手を伸ばすが、それに捕まる私ではない。
ヒョイッと避け、フードを被って路地裏を駆けた。
残されたクーフーリンは、文字通り消えたるしが駆けて行った方を見て、溜息をつく。
文句を言うであろう二人の勇者にどう言い訳をするか、痛くなる頭を抑え、店に足を踏み入れた。
十字に分かれ、複雑に入り組んでいる路地を匂いを頼りに進む。
次に見える角を左に曲がった瞬間、ムッとした血の匂いが強くなり、血だまりが広がっているのが見えた。
相当な出血量。
その中心に、壁にもたれかかるようにして息を潜めているグラサンをかけたオールバックの男。
うん、この世界のYA・KU・ZAかな。
早めに治療しないと手遅れになりそうだ。
「大丈夫ですか?」
いきなり目の前に現れた私に反応しない。
ふむ、かなりやばい状況だと見た。
取り敢えずハイポーションを振りかけ、胸に耳を当てる。
弱々しいが、ドクンドクンと動く心臓音。
生きてる…ね。良かった、安心した。
そっと抱き起こす。気絶しているのか、呻き声すら立てない。
一丁前のグラサンはひびが入っていたため、抱き起こした時にパキンと音を立てて割れた。
…断じて私のせいではない。
最初からヒビが入っていたんだよ!
本当だからね?
ともかく、衛星の悪い路地裏に放置しておくわけにも行かないし、一旦宿屋に連れていこう。
ぐったりした男をお姫様抱っこし、再びフードを被る。
お、重い。
リアルな私なら絶対にお姫様抱っこ出来なかったわ。
それにしても、怪盗一式を装備してこの重さ。
ベリト風に言うなら、此奴、只者ではないな?だ。
だからと言って、置いていくなんて真似はしない。
助けるならば最後まで、面倒を見てやろうじゃないか!
それに、グラサン割っちゃったし。
私は翼さんを出し、宿屋に向かった。
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