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89.わたくし、主上の御前だとは・・・

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 本当になぜ、わたくしが、香散見かざみさんをお守りしなければ、ならないのか。

 本当に理不尽な気分になったけれど、香散見さんを主上の前に連れて行かないと、わたくしの非になるはずで、本当に、本当に、本当に腹立たしいことこの上ない。

 けれど、ぐちぐち言っても仕方がないので、ここは、ぐっとこらえました。

 翌日、朝はやくから、女房装束を香散見さんに着ていただいて、わたくしは、邸の女房総動員して、香散見さんの周囲に配置用いたしました。

 ぞろぞろと、五十名の女房が連れだって行く姿は、かなり異様で、さすがに、こんなに女房に厳重に護られた姫ぎみは、宮中でも見たことはない。

 そして、わたくしは、さらに腑に落ちないことに、その五十名を、先導しているので、顔なんか晒して歩いているのだ。

 まったく!

 わたくしも、宮仕えで慣れてしまったけれど、原則、わたくしたち、女は、顔を晒したりしないのだ。

 その、わたくしが、晒して。どうして香散見さんが護られているのか、いまいち、納得できないけれど、まあ、今日だけのお話だし、我慢我慢っ!

 そんなこんなで、わたくしは苛立ちながらも、主上の御元へ、香散見さんを連れたのだった。

 通常、主上のお側に上がると言っても、御簾の外、さらには、簀子と呼ばれる廊下部分にて、平伏して対顔するものだけれど、

「香散見とやら、近う」

 などと、主上が仰せになる。

 香散見さんは、わたくしを睨み付けたけど、わたくしだって、存じ上げませんもの。主上のお心なんて!

 致し方なく、香散見さんが腰を浮かせたので、わたくしも急いで、立ち上がって、御簾を手で巻き上げる。

 元々父様のお部屋だった母屋に、急あつらえで作らせた、臨時高御座がみえる。

 そこに主上はおわす……と思ったら高御座を出ておいでだった。

 床に、直接座って、香散見さんのことを手招きしている。

「ひっ!」

 香散見さんが、ひきつった声をだす。

「ほれ、香散見とやら、早う」

 思わず退け腰になって逃げ出そうとした香散見さんなので、わたくしは女房×五十名に目配せする。

 音もなく、しゅるしゅると、女房たちは動く。

 香散見さんが、決してあとずさりなど出来ないように。

 そして、わたくしは、

「香散見さん、ごめんあそばせ!」

 と、香散見さんの背中を蹴り飛ばして、部屋の中へといれてしまう。

 まったく!

 手がかかること!

 わたくしは、主上がご覧になっていたことに今更気付いたけれど、もう、遅い。

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