89 / 106
89.わたくし、主上の御前だとは・・・
しおりを挟む本当になぜ、わたくしが、香散見さんをお守りしなければ、ならないのか。
本当に理不尽な気分になったけれど、香散見さんを主上の前に連れて行かないと、わたくしの非になるはずで、本当に、本当に、本当に腹立たしいことこの上ない。
けれど、ぐちぐち言っても仕方がないので、ここは、ぐっとこらえました。
翌日、朝はやくから、女房装束を香散見さんに着ていただいて、わたくしは、邸の女房総動員して、香散見さんの周囲に配置用いたしました。
ぞろぞろと、五十名の女房が連れだって行く姿は、かなり異様で、さすがに、こんなに女房に厳重に護られた姫ぎみは、宮中でも見たことはない。
そして、わたくしは、さらに腑に落ちないことに、その五十名を、先導しているので、顔なんか晒して歩いているのだ。
まったく!
わたくしも、宮仕えで慣れてしまったけれど、原則、わたくしたち、女は、顔を晒したりしないのだ。
その、わたくしが、晒して。どうして香散見さんが護られているのか、いまいち、納得できないけれど、まあ、今日だけのお話だし、我慢我慢っ!
そんなこんなで、わたくしは苛立ちながらも、主上の御元へ、香散見さんを連れたのだった。
通常、主上のお側に上がると言っても、御簾の外、さらには、簀子と呼ばれる廊下部分にて、平伏して対顔するものだけれど、
「香散見とやら、近う」
などと、主上が仰せになる。
香散見さんは、わたくしを睨み付けたけど、わたくしだって、存じ上げませんもの。主上のお心なんて!
致し方なく、香散見さんが腰を浮かせたので、わたくしも急いで、立ち上がって、御簾を手で巻き上げる。
元々父様のお部屋だった母屋に、急あつらえで作らせた、臨時高御座がみえる。
そこに主上はおわす……と思ったら高御座を出ておいでだった。
床に、直接座って、香散見さんのことを手招きしている。
「ひっ!」
香散見さんが、ひきつった声をだす。
「ほれ、香散見とやら、早う」
思わず退け腰になって逃げ出そうとした香散見さんなので、わたくしは女房×五十名に目配せする。
音もなく、しゅるしゅると、女房たちは動く。
香散見さんが、決してあとずさりなど出来ないように。
そして、わたくしは、
「香散見さん、ごめんあそばせ!」
と、香散見さんの背中を蹴り飛ばして、部屋の中へといれてしまう。
まったく!
手がかかること!
わたくしは、主上がご覧になっていたことに今更気付いたけれど、もう、遅い。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
262
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる