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26.わたくし、成長している気がするわ
しおりを挟む正直、わたくしったら、女房としての仕事に忙しくって、香散見さんの暗殺未遂のことなんか、すっかり忘れてました。
だって……仕事は忙しかったし、その上、実敦親王が、宴に出席していらしたんですもの。
宴に出席していた、実敦親王が、じっとわたくしを見ているのを感じると、辛かったので、余計に、わたくしは立ち働きました。本当にね、帝から、『東宮の女房には働き者が居るようだ』などとお言葉があったときには、恐縮するよりも恥ずかしくなってしまった。
帝は―――勿論、お姿を拝し奉った事なんかないけれど……なんだか、怖い雰囲気がするので、わたくしは、あまり、近寄りたくはない。
わたくしの父上は、この帝に心酔なさっていて、おそらく、衣の端に口づけ出来るほどだと思う。わたくしの父上は、天下無双のシスコンとしても名高いけれど、帝に対する心酔も、酷い。
ようは、愛情が強いと言うことだから、わたくしは、悪いことではないのだとおもうのだけれど、どうかしら。
「……高陽、ちょっと大丈夫かしら?」
わたくしは、香散見さんに呼ばれて、東宮の御簾近くへ向かう。香散見さんも、御簾の中だ。
「はい、ただいま」
御簾の中へ入ると、むわっと酒の匂いが漂っていて、匂いだけで、クラクラしそうだった。見れば、酒器はその辺に転がっているし、香散見さんも、その辺にゴロゴロ転がっている。
御簾の中の東宮殿下(偽)は、そんな香散見さんを見て、オロオロとしていらっしゃる。なんだか、こんな所に替え玉に使われて、不幸な方だわ。
「香散見さん、飲み過ぎですわよ!」
「そーなのよ。飲み過ぎてて……、ちょっと、辛いのよ。ね、……お水ちょーだい?」
酔っ払って、ぐでぐでになっている香散見さんは、わたくしの足許に縋り付きながら、「お水~、お水~」とくだを巻いている。こんな酔っ払っい、東宮殿下(ほんもの)でなければ、足蹴にしていましたわよ!
「お待ち下さいませ、お持ちしますから」
お水は、どこに行けば貰えるかしらね。近くの女房に教えて貰わなきゃ。台盤所まで行くのは遠そうだし……とわたくしが思案していると、香散見さんは「お水はここよぉ」と仰有る。
見れば確かに、お水は用意してあるご様子。ああ、なんだか、とっても嫌な予感がする。
「飲ませて」
その時、わたくしは、頭から水をぶっかけて差し上げようかと思ったのを、すんでの所で堪えました。
わたくし、大分人として成長している気がするわ。
「お断りいたします。わたくし、忙しいのですから……」
「いやよォ。アタシの側に居てったら。アタシ、淋しいのよぉ、だーれも来ないんですもの。なによ、東宮って、こんなに人気なかったの? こうなると傷つくわあ。アタシ、出家しちゃおうかしら」
人気が無いというか……単純に、香散見さんがくだを巻いているから、東宮に取り次ぎも出来ないんじゃないだろうかという気分になった。第一、この人、ちゃんと、取り次ぐ気はあるんだろうか? 本当に謎。
「ねぇ、お水。のーまーせーてーよー。アタシ、口移しじゃなかったら、許さないからね?」
ほらきた。絶対、こんなことを仰有ると思っていましたわ。
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