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61.わたくし、演技も上手くなったと思いますのよ
しおりを挟むわたくしの口上を聞いた五の宮さまの気配が揺れる。
「高紀子姫……であったかな」
「はい、左様でございます」
しずしずと。頭を下げているので、視線だけで探る。わたくしからみえるのは、せいぜい、床に座った膝のあたりくらい。
五の宮さまは、一人で奥においでのようだから、わたくしからでは確認も出来ない。その前に控えているのが、春めいた若草色の直衣を着た右大臣と思しき男と、僧侶、それに、女房装束の女が二人。
おそらく、この邸の奥方かなにかだろう。けれど、箏が邪魔でなにも見えない。
「高紀子姫は、このような田舎に、何用でおいでになったのかな?」
五の宮さまは、探るような、冷たい視線でわたくしに言う。
「じつは、このあたりの寺に……東宮殿下が行啓されていると言うことでしたので……、折角のことですし、お見舞いに参りましょうと言うことに成りましたが、牛が暴れて逃げ出して、車も壊れてしまうし、牛飼いもどこかへ消えてしまいましたから、本当に、難儀していたところです。そこを、こちらのお邸の方に助けて頂きました。
本当に、有り難う存じます。もし、姫さまの御身に、何か大事があれば……わたくしは、東宮殿下にお詫び申し上げる為に、死ぬしかないところでした」
わたくしが、涙混じりの声で言って目元を袖口で、ちょん、っと押さえた。
「高紀子姫の大事が、なぜ、東宮殿下にお詫びすることになるのですか?」
不思議そうに、五の宮さまが問い掛ける。
「ご存じ在りませんでしたの?」
わたくしは、わざと、『さも当然』という顔をして、五の宮さまに聞き返していました。
「ああ、私は、こういう田舎暮らしだから、世間のことには疎くてね。参内も、あまりしていないものだから」
五の宮さまは、柔らかく言う。
わたくしは、その五の宮さまに、「そうでしたの、存じ上げぬこととはいえ、失礼致しましたわ」などと申し上げてから、本題を切り出した。
「じつは、我が主ですが、東宮殿下へ入宮することになっておりますの」
「なんですって?」
声を上げたのは、右大臣だった。
「そんな話は聞いていません。適当なことを言っているのでしょう!」
「おそらく、内々で話が進んでいますので……そう言え馳せ、五の宮さまに、姫さまがお見せしたいものが御座いますので、そちらを御覧頂けば、おそらく、このお話が、嘘でないと、認めて頂けるのではないかと思いますけれども」
わたくしは、しずしずと申し上げた。御簾の向こうで、ひそひそと、何かを語り合うのが解った。
「……高紀子姫は、なにを見せて下さるのかな?」
五の宮さまが言う。わたくしは、顔を上げた。本来ならば、許されないけれど、どうしても、ハッタリ半分にでも、顔を見て言わなければならない。
「東宮殿下からの、御文ですわ」
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