オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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79.わたくし、信じられませんわっ!

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 大急ぎで仕度をして、香散見かざみさんに男装束を着ける。

 今日も、衣冠姿。もうけの御所だから、仕方がないと割り切ろう。あー、でも、ちょっとくるなあ、とわたくしは思いました。だって、愛しい殿御と過ごした朝に、装束を着けて差し上げるなんて……朝寝をした女だけの特権ですわよ。

「アンタに着替えを手伝って貰えるんだったら……ま、悪くないわね。男装束も!」

 香散見さんも、うふふっ、と笑う。衣冠姿だけれども、ちょっと、女装の時のような笑いだった。

 それにしても、香散見さん、衣冠が、似合うのだ……。

 口惜しい位見目麗しいから、早く、いつもの女房装束に戻って貰いたい。

「高紀子、アンタは、ここに居るのよ?」

「今日は、着替えておりませんから、ここでお待ちしますわ」

「うん。そうして?」

 じゃあ、言ってくると言い残して香散見さんが去って行く。部屋に残されたのは、わたくしと、わたくしの侍女。侍女の小桃こもも。名前の割に、ちよっと歳は行っているのだけれど、それは言わない方が良い。

「姫さま、昨晩は、随分、お楽しみでしたわね」

 お楽しみ……? といわれて、わたくしは、はた、と気がつきましたわよ。

「あ、あなたがた……聞いていたのっ?」

「ええ、それは、もう」

 だって、こういうお邸勤めする楽しみの一つは、夜のお勤めですものーと、小桃は笑う。

 主が、男と交わるときの様子を見聞きするのが楽しいらしい。

「あの方……東宮殿下、かなり、手慣れておいでですね」

 それは、お子様もおいでなのだし。わたくしだって、全くの処女おとめだったけれど、本当に、気がおかしくなって取りすがって、香散見さんから受ける甘い官能に、身もだえていたような気がする。

「お妃さまもおいでだし、お子様もいるわ」

「そう、だったんですねぇ」

 小桃が、小さく呟く。その様子が少し引っ掛かったけれど、わたくしは、深く問い詰めないことにした。






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