大書楼の司書姫と謎めく甜食

鳩子

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第一章 珍奇で美味なる菓子

天の采配

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 唐突に、こうは、ちまきに手を伸ばした。

「ああ、やはり……」

 国王の問いには答えず、鴻は、落胆したような声を出す。

「どうしたの? 粽がどうかした?」

「この粽は、蒸しています」

「ええ、粽は、蒸すものでしょう?」

 娃琳ゆりんが聞き返すと、鴻は「違う」と突っぱねた。

「粽は、ゆでるものだ」

「ええ? そうだったかしら……」

「そうだ。粽は、正しくは稲わらを焼いて出た灰と一緒に煮るものだ。何百年もそうしていたはずなのに、急に変わってしまった」

 鴻は、それが許せないらしい。そういえば、出逢った時もそうだった。『軟糖飴ソルマ』の作り方について怒っていたのだ。

「だが、この国では、既にその作り方がちまきだよ」

 冷え冷えとするような声で、王が言う。齢六十。嗄れた声が放つ一言が、鴻の動きを止めた。

「それは―――失礼致しました」

 鴻は、一度粽を置いて、拱手して詫びた。

「……それで、君は、余の質問に答えていないよ」

 追求された鴻は、観念したという様子で、「そうです」とだけ呟いた。

「詳しいことを伝えることは出来ませんが……、俺は、なんとしても、簒奪を止める為に、『真実を告げる菓子』を探して、雑琉へ戻らなければならないのです。ただ、それだけです」

 鴻の口ぶりは固い。これ以上は、梃子でも話さないつもりだろう。

(しかしまあ)と、娃琳は、内心、うんざりしていた。

 ただでさえ、游帝国の皇太子が大茶会に来るというのに、簒奪計画まで動いているとなると、かなり面倒である。

「なぜ、雑琉は、游に直接伝えられないのかな? ここにも、なにか秘密がありそうだね」

 にやり、と兄王は笑ってから、粽を食べた。なつめ、栗、柿乾ほしがき、銀杏、赤豆あずきの入った具だくさんの粽だ。

「とにかく、簒奪を止める為……それと、雑琉の民を救う為と、お考え下さい。それで、国王陛下には、後宮の大書楼への立ち入りを、お許し願いたいのです」

 椅子から降り、鴻は床に伏して国王に懇願した。

「後宮が、どういう所か、知らないわけではないだろう? あそこは、男子禁制だ」

「けれど、陛下。かつて、游帝国の皇太子殿下を、宦官を同行させるという制約はありましたが、立ち入らせた前例はありますよ」

 娃琳は、饅頭を流し込むように、お茶を飲んでから言った。

「宗主国である游帝国と、雑琉とでは、意味合いが違うだろう」

「では、必ず、宦官ではなく、この私が付くことに致します。もし、後宮の女人に指一本触れるようだったら、指を詰めさせますよ」

 さらり、と娃琳は言う。指を詰めるのは、娃琳本人ではないから、至って娃琳は涼しい顔だ。

「お忙しい司書殿が、そんなことをしている暇があるのかな?」

「いいえ、かえって、私の方が、この雑琉の若者を利用するつもりですよ。なにせ、陛下ご所望の甜食スイーツ探しを手伝わせるのですからね。これならば、兄上さまからの無理難題も、私に幾らかがあるように思えます」

 涼しい顔で言う娃琳に、兄王は、こめかみを引きつらせて居た。

「なかなか、あなたは、小憎らしいね」

「天の采配ですわ」

「天の采配……」

 兄王は、なにやら口の中で呟いていたのだが、娃琳には聞こえなかった。だが、にやり、と笑ってから呟く。

「―――いいや、最終的に、勝つのは余だろう。よし、決まった。あなたの花嫁仕度を用意させる。堋国の大長公主に相応しい、華麗な花嫁衣装を仕立てよう。
 そこな客人に関しては、あなたに任せる。くれぐれも、妃嬪の目に触れぬように」

「かしこまりました。……けれど、花嫁仕度、無駄になると思いますわ」

 ふふ、と娃琳は笑う。兄王も笑ったままだ。二人の間に、火花が散っているようだった。



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