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第二章 山科にて『鬼の君』と再会……

10.鬼の君との出会い

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 私は鬼です……、とその人は告げた。

 目鼻立ちは整っていて、血まみれながらも、強い瞳をしていると私は思った。

「鬼、ですか」

 馬鹿正直に問い掛けた私に、鬼―――以降、鬼の君と呼ぶことにするのだけれど、鬼の君は、ふふ、と笑った。

「ええ……鬼ですよ、姫君。こんなところにいると、人食う鬼に食べられてしまいますよ」

「あなたも、食べるの?」

「さあて、どうだったか……」

 鬼の君は、月を見上げて、小さく呟く。

「食べたかも知れないし、食べられたかも知れないね」

 謎かけみたいな言葉を残して桜から離れようとしたけれど、身体が蹌踉けてしまったようだった。

 倒れる! と思ったから、私は、慌てて鬼の君に駆け寄った。

「大丈夫かしら?」

 支えようとすると、鬼の君はびっくりした顔をして、「怖くはないの?」と聞いてくる。私は、多分、もの凄く怖かったのだとは思うのだけど、そこは、下級とは言え公家の姫ですから、みっともない真似は出来ないと、気を奮い立たせました。

「ええ、怖くはないわ。それよりも、鬼の君、お怪我をしているわ。休んだ方が良いと思うの」

「休む……と言っても、実は私は、都の陰陽師たちに追われて、調伏ちょうぶくされ掛かっていたところでね。身を隠せるところが良いのだけれど」

 冗談を言うのだから、割合、余裕があったのだと思う。

 けれど、陰陽師は嘘だとしても、遠くの方……山裾のあたりが、赤々としているのは、松明を持った兵達が近づいてきているからだろう。

 追われている―――というのは、あながち嘘ではないのだ。

「近くに、人があまり近づかないという社があるわ」

「本当に近づかないの?」

「ええ」と私はこくん、と頷く。「昔の帝のお墓らしいわ。だから、滅多な事では人が立ち入ることも許されないの。うちのじいやが、折角洗って干しておいた衣が飛んで行ってしまったのに、入ることも出来ないって、嘆いていたわ」

「……なるほど、ここは、山科だったね。たしかに」

「そうでしょう? そこならば、追っ手の陰陽師さんたちも、立ち入れないわ。帝の勅許でもあれば別でしょうけど」

「帝……」

 鬼の君は、フッと笑った。

「帝は―――居ないよ」

「帝が、居ない?」

 どういうことだろう、と私は首を傾げる。ただ、鬼の君は、すこし、嫌な表情をしているので、きっと、『帝が居ない』と言うことにも、関係があるのだと思う。

「そう。帝は居ない……それは確かだ」

 そう呟いた鬼の君の顔色が、みるみると悪くなっていく。私は、これは大変だと思いながら、とにかく、鬼の君を、昔の帝のお墓だという祠へ連れて行った。





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