鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第三章 千年に一度のモテ期到来? 

14.スイーツ女子会

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 関白殿下のお邸に到着すると、二条の姫さまが出迎えて下さった。

 しかし、関白邸、妙にあまくてこうばしい香りに満ちている。前に来たときには、花や香の奥ゆかしい感じだったけれど……。

「わざわざ、私のようなものを、お出迎え下さらなくとも……」

 と恐縮していた私だけど、姫さまのほうは、実にあっけらかんとしておいでで、

「あら! 私は、帝から色をゆるされていないわ! 山吹のほうが素晴らしいのよ。帝も、そう思っておいでたと思うの」

 などと、目眩のしそうなことを仰有る。

 確かに、私は、色を聴されたらしい。どういうことか、わからないけど。

「私も、あまり参内したことはないの。関白殿下の直廬じきろ(宮中に賜ったお部屋。関白殿下ともなると、帰宅が遅くなったり、泊まり込むこともあるらしい。曹司とも言うらしい)には伺ったこともあるし、五節の舞姫もやったことはあるのだけれど」

 五節の舞姫!

 かつて、帝の前に天女が現れて舞い踊ったという故事に基づいて行われる行事だ。

 普段、邸の奥で顔も見せることなく生活する私たちにとっては、帝や臣たちがずらりと居並ぶ中を舞わなければならないというのは、物凄いことなのだ。

 仕度も冠まで付けて、比礼ひれまで纏うフルセットなので、大変だろうし重いだろう。

 このお役目を無事に果たした姫を、私は、尊敬する。

「あの時に比べたら、今回のお召しは、気楽なものだわ。さ、山吹。唐菓子を用意させたの。参りましょう?」

「唐菓子?」

 唐菓子と言ったら、小麦の粉を練って、油で揚げたのに、甘葛で作った蜜をたっぷりかけた、超贅沢スイーツ!

 それで、お邸が甘い香りだったのね。

「ええ。山吹は、唐菓子はお好き?」

「好きですけど……」

 高級品なので、ほとんど食べたことはないけどね。

 たしか、私の裳着(成人式)の時と、兄さまの昇進のときかなあ。

 あ! 私ったら、うっかり、父親より昇進してる!

「良かった! 私も、大好きなの。関白殿下も大好きなのよ、唐菓子。手をベタベタにしながら、わらべのように召し上がっていらしたわ」

 あの、美形関白殿下が……。

 嬉々として唐菓子を頬張る姿なんて、想像出来ない!

「あの、関白殿下が?」

「そうなの。関白殿下、甘いものが大好きで、夏になると、必ず、削氷に蜜をかけたものを三杯も召し上がって、お腹を壊されるわ」

「必ず?」

「ええ、必ず」

 意外~。

「果物なんかも、お好みかしら」

 それなら、あとで、山科で取れた桃とか、柿の甘いやつでも贈って差し上げれば喜ぶかも。

「ええ。木菓子も大好きです。本当に甘いものに目がなくって……おかげで、私たちにも、甘いもののお裾分けが頂けるのですけれど……」

「じゃあ、あとで、山科で取れた果物でもお送りしますわね」

「まあ、関白殿下は、きっと、喜ぶと思います。ほかならぬ、山吹からの果物ですもの!」

 ぶっ! と私は何かを吹き出しそうになった。

「ほ、ほ、ほかならぬ、私って……っ!」

「だって、山吹は、関白殿下のお気に入りでしょう? 関白殿下は、正室様とは、どうにも疎遠だし……。私がいうのもなんだけど、関白殿下って、通わせるなら悪くない方だと思うわ」

 わーっ! 何言ってんのっ!

 通わせるとかっ!

「……なんてことを言ったら、私が、山吹が入内したら困るから、関白殿下を押しつけたって思うわね。ごめんなさい」

 二条の姫さまの言葉に、頭が付いていかない。

「私が入内は、かなり無理です!」

「そうかしら……たしかに、ご寵愛だけがたのみというのは、心細いかも知れないけど……」

「先立つモロモロがなければ、入内なんて……」

「じゃあ、兄君の思いを受け容れて下さいますのね!」

 目を輝かして二条の姫さまが言う。

「……関白殿下からなんて、畏れ多くて……」

 それきり黙り込んで、姫さまのお部屋へ入って程なく、唐菓子を片手にガールズトークに花を咲かせていると、

「こちらに、山科の山吹の方は」

 などと言って、階の下から小者が私を呼ぶ。

「あ、はい!」

 と返事しそうになったのを早蕨が止めて、「なにごとです」と呼びかけると「こちら、関白殿下から御文でございます」と小者が言うので、早蕨が御簾を上げて貰ってしずしずと階へ寄った。

「お返事は、すぐ参らせた方がよろしゅう御座いますか?」

 小者に確認すると、「ご迷惑でなければ」と小者がいうのが聞こえた。

「まあっ! 山吹。関白殿下から御文ですよ! きゃあっ!」

 完全に、姫さまは、他人事だと思って、はしゃいでいる。

 山吹の花なんか添えて、香もたきしめてある薄様の文に、瑞々しくも男らしい手跡で綴られていたのは、コッチが赤面しそうなほどの熱烈な恋歌で。

 私は思わず突っ伏して仕舞った。




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