鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第五章 後宮からの逃走

1.普通の姫君は、呪われたりしない

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 牛車に揺られながら、私は落ち着かない気分で居た。

(あなたが心配でならないけれど……、どうやら、ここにいても、事態は変わらなそうだし。とりあえず、鷹峯院に行けば、あなたにかけられた呪いのことは、何か解ると思う。
 もうそろそろ、鶏が鳴くから……あなたは早く仕度をして……)

 直親さまは、そう言って、私の額に口づけを落とした。

 おかげで、いまも、額が熱い―――ような気がする。

 直親さまの言う通りに、私は一度、後宮離脱。淑景舎には、私と身の丈が似た者を影武者としておいてきた。

 こちらは、関白殿下のお計らい。

 そして、今は、関白殿下の用意して下さった牛車(四人乗り)で、一旦、山科の我が邸へ向かっているところだ。

 なぜ、山科か―――と言ったら、関白殿下の、なにか訳知りそうな言葉のせいだ。


『あの香を、たきしめてから鷹峯院の所へ行くと約束してくれたら……』


 関白殿下は、そして続けたはずだ。


『私も、帝も、その薫りで、すぐにあの方を思い浮かべた。だから、その薫りは、完璧に作られていたと言うことだし、あなたに似合っていたのだ。だから、中々、気付くのに遅れた。
 おそらく、上皇は、その薫りを聞けば、何か、ご存じのことをお教え下さるかも知れない。少なくとも、私たちの味方かどうかは解る』


 はい、私にとって、結構ハイリスクローリターンな賭に出ることになったのですよ。

 牛車の中には、早蕨、中将、そして女房装束フルセットを纏った小鬼。おそらく、現状、小鬼は、男だと気付かれていない。

 私は、隣に座る小鬼に、そっと耳打ちした。

「ねぇ、小鬼、なんとか、鬼の君にはお会いできないの? 鬼の君は、一体、何がお望みなのよ」

「申し訳ありませんが……」

「だって、鬼の君って、二条廃帝なんでしょう?」

 びくっと、小鬼の肩が揺れた。

「なぜ……」

 それを、と聞きたかったのだと思うけど、早蕨が私を睨み付けて、

「姫さま。また、何か隠し事ですか?」

 と険しい声で聞いてきた。

「か、隠し事なんて……」

「いいえっ! 姫さまは、今、見知らぬ殿方の移り香を漂わせておいでです! 破廉恥ですっ!」

 早蕨は、うわああ、と泣き崩れてしまった。私のほうが、うわああ……な気分です。

「だから、私が、何者かに呪われて、仕方がなく、直親さまが、身固めで私を守ってくれたって……言ったじゃない!」

 事実だけど、我ながら、ヒドいな……と思っていると、早蕨は、さらに大音声で、嘆き始める。

「そんな、めちゃくちゃな話がありますかっ! 大体、なんです、その『身固め』という怪しげな術はっ! ただ単に、陰陽師が、姫さまを一晩中抱きしめて、あちこちの匂いをかいだり、体中弄ったり、顔とか髪とかに口づけを落としたいから、そんな大嘘をブッこいたに決まってますわーっ!」

 や、やめようよ……、早蕨。

 私も、直親さまの大先輩、晴明さんとかいう人の話を聞いたときには、多分、『そう』何じゃないかと思っていたけど、少なくとも、直親さまは、本気で真剣だったよ?

 しかし、真剣に抱きしめていた―――というのも、それはそれで、誤解を招きそうな表現ではある。

 確かに、直親さまの移り香が漂っているのよね。

 だから……目を閉じていると、直親さまに、まだ、抱きしめられているような心地になる。―――ちょっと、恥ずかしくて、頬が火照ってしまう。

「あの、お姉様方……」

 おずおずと、小鬼が口を開く。唐菓子スイーツ攻撃以降、小鬼は、女房達に逆らう気をなくしたらしく、『お姉様』などと呼んでいる。

「なあに、小鬼ちゃん」

「あの、私、その……『身固め』というのを、書物で見たことがありますわ……。ですから、陰陽師殿は、やましい気持ちで術を行ったわけではなくって、お姉様方のお姫様を、心底お助けしたい気持ちだったのだと思います……」

 小鬼は、たおやかに言う。

 これは……これだけ見ていても、絶対に、男だなんて気がつかない! 私が男だったら、求婚の文の十通くらい立て続けに送りたくなるような美少女ぶりだ。

「まあ……そうなの……。小鬼ちゃんは、博識ねぇ」

「私なんて……そんな……」

 恥ずかしがる姿も、完璧美少女。

 うん、これなら確かに、周りに曲者が居ても、なんとかなるだろう。

 しかし、小鬼って、なんか、戦えるのかなあ……。鬼の君の話では、お魚も捕れないようなことを言っていたけど。

「けれど、姫さまが呪われるだなんて、なんて怖ろしい事が起こっているのかしらね……」

「ええ。普通の姫君は、呪われたりしませんものねぇ」

 早蕨と中将は、深々と溜息を吐いた。

 悪かったわね! フツーの姫君とはほど遠くってっ!

 私は、ちょっと膨れっ面をしながら、牛車に揺られて山科へ向かったのだった。



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