鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

文字の大きさ
157 / 186
第六章 大ピンチ! 呪いも運命も蹴散らして

20.鉉珱の正体

しおりを挟む



 鬼の君は、しっかりと私を抱きしめて、頬に口づけを落としたり、背中から腰のあたりまでをやんわりと撫でたり、とはっきり言ったら、セクハラし放題だった。

「鬼の君っ!」

「あなたがあまりに可愛い物だから……、八年前も、今も、あなたが、私を導いてくれたのだ。
 あなたは、私にとって、幸運の守り神なのだろうね。だから、こうして、大事の前には、しっかり、あなたの気に触れていなければ」

 ―――とか言ってるけど、触りたいだけだろう。

「……まだ、昼間ですのに」

「たしかに、昼間だね―――従此君王不早朝これより 君王 早朝(の朝議)せず……これが、世の乱れのはじまりだ」

「えーと、『長恨歌』でしたか」

「そうだね。……おや、青女せいじょは、解らなかったのに、『長恨歌』は解るんだ。……あれは、悲恋だからね。よく知られているし、あなたも、好きだろう。私は、悲恋は好かないがね」

 鬼の君は、私の首筋に、口づける。

 腰のあたりがむずがゆいような心地になって身をよじると、鬼の君は、美しい顔に、微笑を浮かべていた。

「だって、『源氏物語』を読むのにだって、『長恨歌』を知らなかったら、意図が解らなくなりますもの。『長恨歌』くらいは……」

「それで? 廃太子になった方については?」

 直接口にするのも、なんとなく憚られて、私は、思いついて申し上げる。

「―――小竹葉ささのはに 打つやあられの たしだしに……」

 かつて……。同母の妹・衣通姫そとおりひめ軽大娘皇女かるのおおいらつめ)と情を通じてしまった、木梨軽皇子きなしのかるのみこが、詠んだ倭歌だ。

 思いを遂げて同母妹と契りを結んでしまったその朝に詠んだもので、何を言われようとも、後悔はしないと言う強い決意を秘めた歌である。

 鬼の君の表情が凍った。

「まさか……」

「それを、隠す為に、嵯峨野の太閤殿下は、ご自分の一存で……つまり、当時東宮妃が内定していた、妹姫を思うシスコンのあまりに、気に入らない東宮を流罪にしたという汚名を着ました」

「それは、凄いシスコンだけど……」

「はい。つまりは、実際に、コトまで済ませてしまったシスコンと、妹の夫候補むこがねを次々と葬っていったシスコンの話です」

「多い……んだね、シスコン」

「私にも妹が居たら、まずかったと思います」

「私の場合は、萌えない姉で良かったよ―――それはともかく……この、威萬いま内親王という方は……?」

 ああ、確かに、鬼の君は間違っていなかった。こんな話は、とても、他人に聞かれたらマズイ。

 私は、鬼の君の首に腕を回して、耳許に直接申し上げた。

「……件の東宮が、心中しかないと思い詰めて……妹宮さまの喉首をカッ切ったそうです」

「なんだって……?」

「なんとか、元東宮だけは、お助けできたらしいですけど……、それにしても、凄惨な事件です」

「……じゃあ、この、別紙とやらをみてみるか」

 鬼の君は、文箱を引き寄せて、中に入っていた紙を取り出した。

 三葉の紙には、東宮隆仁親王が、配流先にて、土地の娘と関係を持って、三女を儲けたことが書かれていた。

 大姫、中姫、小姫とだけ書かれているので、本名は解らないけど、女の系図なんてこんなもんだ。

 私だって、系図に書かれたら今のところ『父様のむすめ』。仮に結婚したら『夫のしつ』。正室じゃなかったら、『なんとかのめかけ』に過ぎない。

「小姫と、中姫は、流行病で死んだようだけど……大姫は生きたらしいね。……どうやら、配流先に赴任していた京の役人と結ばれて……今は、京に暮らしているようだね。
 誰が調べているのか解らないが、毎年、大姫が生きていることを確認している、ヒマなものが居るらしい」

 今年二月に調べたと書かれている。

「では、その大姫が……」

「大姫は、役人との間に子を儲けた―――だが、この役人、今は、別の女と結婚したようだな。おそらく、受領の娘あたりと上手く結婚できたのだろうよ。大姫は、捨てられて、……子は、寺に預けられた。月並みな末路だ」

 私は、ぞわっと背筋に鳥肌が立つのを感じた。

 私の震えを、鬼の君は察したらしく、殊更甘い声で「どうしたの、姫」と聞いてくる。

 どうしたも、こうしたもないわよ。

 あの鷹峯院が、これこそ鉉珱げんように関係あると仰有って中将と小鬼に託したんだったら。


「―――この、大姫の息子が、鉉珱げんよう、ですよ………」


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

処理中です...