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第17話 激闘の結末

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 ワイバーンは空中を旋回し、荒木田さんの出方を伺っているようだった。荒木田さんがワイバーンの攻撃を防ぎ続けてくれたおかげで、攻めあぐねているみたい。これは好都合だ。

「水無瀬さん、そこから動かないでください」

 荒木田さんが水無瀬さんのそばに寄って、空に向けて右手を掲げた。
 すると、『亜空障壁ハイパーバリア』がドーム状に展開され、2人を完全に包み込んだ。これで、2人は今から使うスキルに巻き込まれない。

 それを見届けてから私はポケットから耳栓を取り出して、両耳に装着する。

「よし、準備はオッケー」

 私は再びワイバーンを視界に捉え、さらにその頭上に視線を移した。

「『瞬間移動テレポーテーション』!」

 身体が宙に浮く感覚と共に、私はワイバーンのさらに上空へと転移。そのまま自由落下を開始した。

 姿勢を整え、両手で輪っかを作ってワイバーンへと狙いを定める。

「くらえっ!『惑乱の音響コンフュージョンノイズ』!」

 両手から光輪が生み出され、真下に向けて放たれた。

 光のリングは直進したのち空中で弾け、指向性を持った音波が発生。辺り一帯の大気を高周波の振動が振るわせる。

 ワイバーンは一瞬苦しむように顔を振ってからこちらを見上げた。しかし、今さらこちらに気づいてももう遅い。ワイバーンはそこでグラリとふらついてバランスを崩し、もがきながら落下し始めた。

「よしっ、効いた!」

 『惑乱の音響コンフュージョンノイズ』は特殊な音波で平衡感覚を狂わせ、態勢を崩させるスキル。

 敵味方関係なく影響を与えるから正直扱いづらいし、効果時間は短く一時しのぎにしかならない。それでも、実質必中である点が足止めとして優秀だ。

 特に空を飛んでいる敵には効果抜群で、相手に抵抗力がなければほぼ確実に墜落させることができる。

 ワイバーンはぎこちなく翼をばたつかせつつ垂直落下し、地面に激突。衝撃で土埃が激しく舞い上がった。

 私も高空から落下しながら、さらに『束縛の雷撃バインドブリッツ』でワイバーンに追い打ちをかける。

 電撃がワイバーンを痺れさせたのを確認してから、『亜空障壁ハイパーバリア』を展開している荒木田さんのところに転移。

 手で丸を作って、合図する。ついでに耳栓を取って、イヤホンをつけなおした。

「お見事です。しかし、あれほどの高所から落ちてもまだピンピンしていますね」

 『亜空障壁ハイパーバリア』をいったん解除して荒木田さんがぼやく。

 見ると、ワイバーンは尻尾や両手の爪を振りかざしてのたうち回っている。麻痺させたはずなのに、まだこんなに動けるなんて。これでは近づいて攻撃するのは危ない。

「アキちゃんの秘策によって、ワイバーンの撃墜に成功しましたっ!しかし、まだまだ体力はありあまってるみたい!さあ、ここからが正念場ですっ!」

“なんか知らんけど落ちて来たぞ”
“近いと迫力ヤバイな”
“このままやっつけちまえー”
“よく分からんがチャンス!”

 視聴者には『亜空障壁ハイパーバリア』で音も届いてないから、なにが起きたか伝わってないみたい。でも、水無瀬さんが機転の利いた実況で盛り上げにかかったおかげで、コメントは白熱している。

「ここが攻め時ですね。落ちてきてくれたおかげで、自分も加勢できます」

 荒木田さんが右手を前に出し、『亜空障壁ハイパーバリア』を発生させる。

「この力はこんな使い方もできるんです。『亜空障壁ハイパーバリア突貫圧縮オーバークラッシュ』」

 展開された『亜空障壁ハイパーバリア』が音もなく荒木田さんの手を離れ、高速でワイバーンに向かって撃ち出された。

 無彩色のシールドはワイバーンの胴体に直撃すると、凄まじい勢いでその巨体を押し込んだ。

 抵抗むなしくワイバーンの身体は土煙を上げながらズルズルと後退していく。

 広場の端にそびえる大木に行きついてもなお『亜空障壁ハイパーバリア』の勢いは止まらない。轟音と共に木々をなぎ倒し、背後の物体をすべて巻き込んでひき潰していく。

 その間に『亜空障壁ハイパーバリア』はどんどん収縮していき、ほどなくして消滅。

 ワイバーンはバリアと障害物に挟まれて圧し潰されながら、はるか後方へと追いやられてしまった。

「こ、これはっ!荒木田さんの必殺技炸裂!?あの巨体が軽々と吹っ飛んで行っちゃいましたっ!ワイバーンはどうなってしまったのか!もっと近づいて確認してみましょうっ!」

 カメラを構えてワイバーンの方へと向かう水無瀬さんと共に、荒木田さんも移動を開始する。私もそれを追って『風精霊の加護シルフブレス』で空へと駆け出した。

“すごい技隠し持ってんな”
“荒木田さん攻撃も強い”
“いよいよ大詰めって感じだ!”
“いけいけ、やっつけろー”

 コメントは盛り上がり、もう決着を望む声も多い。このまま畳み掛けて止めを刺してしまおう。

 ワイバーンは傷だらけでぐったりと倒れていたが、それでもまだ体を起こそうとしている。私は上空から慎重に接近を試みた。

 すると、苦し紛れに繰り出された尻尾の一撃が私を狙って横薙ぎに飛んでくる。垂直に跳躍し、すんでのところでそれを躱す。空を切った尾は地面に叩きつけられ、大地に亀裂が入る。

 すかさず座標を指定。私は尻尾が地面にめり込んだ隙に、ワイバーンの後ろへと転移で回り込む。そして、尻尾の根元に右手で触れる。

 『瞬間移動テレポーテーション』でワイバーンの筋肉質な尻尾を切断。ワイバーンが悲痛な鳴き声を上げる。

 しかし、今度はがむしゃらに鋭利な爪を振り下ろしてきた。即座に飛び退くと、鋭い爪が地面に突き刺さり衝撃で足元が隆起する。

 すでに満身創痍なのに、ワイバーンは少しも油断できない殺傷力をもってして暴れまわる。

「もう虫の息かと思われましたが、とんでもないっ!ワイバーンはいまだ健在!アキちゃんの追撃もなかなか致命傷にならないっ!それでも、あともう少しです!頑張れアキちゃんっ!」

“やれー!”
“もうちょっとだ”
“尻尾を奪ったのはでかい”
“がんばれー!”

 みんなの応援が次々と聞こえてくる。あと一押しだ。これで決める!

 バックステップで一旦後退し、倒れていた木の幹に手を当てる。ワイバーンの真上に座標を指定。

 真正面に突然現れた大木の一部を、ワイバーンは右腕の爪で容易く切り裂いた。細切れになった木片が降り注ぎ、ワイバーンの視界が遮られる。

「ここだっ!」

 『風精霊の加護シルフブレス』の最大出力を足元に集中。解放した突風に乗って一直線にワイバーンの懐に飛び込む。怯みながらも反射的にワイバーンの左腕が動く。
 しかし、その爪が繰り出される直前、私の右手がワイバーンの腹部に到達した。

「『瞬間移動テレポーテーション』!」

 胴体がキレイな円形に切り取られ、断末魔の叫びが辺りにこだまする。

 一拍の静寂が訪れたのち、ワイバーンはついに翼を横たえ、そして息絶えた。
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