立日の異世界冒険記

0145.通路の先の唸り声

「おい、大丈夫か。」
　健は、どんどん腑抜けになっていく龍が心配になってきた。だが、逆に考えると、薬でこのくらい抑えこまないといけないほど、凶暴化したら大変な状況になるのだろう。早く呪術師のところに行かなければならない。健は、ライオンにもらった白い羽を落として呪術師のいる方向を確認する。進む方向は間違っていないようだ。
　岩石ゴーレムは歩く速度が遅過ぎるので、指輪から戻さずに進むことにする。ただ、岩石ゴーレムよりはましだが、腑抜けになった龍も相当進むのが遅い。そもそも健が手を引っ張って進んでいる状況だ。
　そんなこんなで何とか通路を少し進むと十字路に出た。直進を続ける先は何やら赤く光っており、とてもじゃないが行く気がしない。左折した通路は、ずっと先まで続いており、特に何も分からない。右折した通路の先からは、何やら獣の唸り声のような低い音が聞こえてくる。健は、また白い羽を落として行き先を確認した。白い羽が示したのは、右折の通路だった。
　残念ながら、好き嫌いを言っている場合ではないので、健は白い羽の示した通りに右折の通路を進んで行く。確かに超感覚では通路の先に何かがいる気配は感じるものの、ここのところ化け物クラスの相手とばかり、遭遇してきたので多少の相手は気にならなくなっていた。
　健達が通路を進むにつれて何かの唸り声はどんどん大きくなっていった。おまけに、途中からは健達を認識して健達に向かって唸っているのがはっきりと分かる。健は多少の覚悟は決めていたものの、その唸り声で空気が震えるのを肌で感じとれる距離まで来ると、さすがに警戒態勢に入った。健達のいる通路は松明なしでも大丈夫な明るさではあるが、少し先は暗くてよく見えない。その為、唸り声を発する相手の姿はまだ闇の中だ。
　だが、健は超感覚で唸り声の相手が岩石ゴーレムほどの巨体であることを既に把握していた。そんな奴にいきなり飛びかかってこられたら厄介なので、健は再び、岩石ゴーレムに先頭を歩いてもらうことにする。健は指輪を擦りながら唱えた。
「セティ。」
　岩石ゴーレムが目の前に現れる。
「よし、この通路を真っ直ぐに進むぞ。お前が先頭を歩け。何かが襲ってきたら、やり返していいぞ。」
　岩石ゴーレムはゆっくりと歩き始める。どうやら、ダークエルフの男に動きを止められていた状況は無事に解消しているようだ。健は、岩石ゴーレムの陰に隠れるように後に付いていく。少し進むと、唸り声の相手の姿が暗がりに見えてきた。その正体は、巨大なニワトリのような姿に蛇の尾を持つコカトリスであった。