短編集

カム

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小さいオッサンの話

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時計を見ると夜の11時だった。
私は飲んでいた酎ハイの缶から口を離し、テレビの音を少しだけ大きくして、近くにあったペットボトルの蓋を外す。
酎ハイを少量ペットボトルの蓋に注ぎ、何食わぬ顔でテレビに集中しているふりをする。

今日も彼が来た。

30年間ほとんど男っ気無しの生活を送っているこの私の、あまりセキュリティに力を入れていないアパートに、彼がやって来るようになってもう一ヶ月近く経つ。

テレビで話しているキャスターのニュースを聞いているふりをしながら、私はちらりとテーブルの端に視線を移動させた。

そこには小さいおっさんがいる。
茶色いステテコと肌着のような上下を着た、明らかに50は過ぎていそうな外見のおっさん。
驚くのはその身長が十センチ程度しか無いこと。
妖精?妖怪?それともオバケか何かなのか。
初めて見たときは酔っていたので、何とも思わず摘まんでゴミ箱に捨てた。
しばらくして素面で見た時は、頬を抓った。
夜中に起きて、蛍光灯の光に照らされたおっさんを見たときには叫びそうになった。

だが、慣れという物は恐ろしい。
おっさんは別に悪さをするでもなく、テーブルの端でゴロゴロしたり、腹を出して寝たり、ラジオ体操をしたりしているだけだ。
おっさんとの間に会話はなかったけど、ペットボトルの蓋にビールや酎ハイを入れて出してあげると美味しそうに飲んでいるし、つまみのチーズや砕いたピーナッツも好物らしい。
たまに料理がうまく出来たときは、おっさんに少しだけ残してあげた。

「もしかして彼氏でも出来たの?」
と同僚に聞かれ
「うーん……まあ、彼氏じゃないけど、たまにアパートに来る男はいるよ。年の離れたおっさんだけどね」
思わずそう答えていた。

腹を出して眠るおっさんにハンカチをかけてあげながら、結婚するのも悪くないかな、と思っている自分に驚く。
一生独身でいようと思っていたのに。

だがある日を境に、小さいおっさんは来なくなった。髪の毛が薄いから寒いだろうと、折り紙で作った帽子が気に入らなかったのか、それとも近所の猫に獲物と間違われたのか。
気楽な独り暮らしが初めてさみしく思えた。

「寒い……」

冬も近づいたある日、近所の商店街に買い物に出かけた私は、通りを歩いてくる一人の男の人に目を止めた。
年は50くらいで、くたびれたコートを着た少し髪の毛の薄いおじさん。

小さいおっさんに似てる。

もしも独身だったら、ニット帽を買ってあげよう。
私は彼に近づき声をかけた。





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