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それから俺は康哉の言いつけを守り、昼までベッドの中でダラダラと過ごした。テレビを見たり、康哉の作ってくれたお粥を食べたりして過ごす。テレビの中では一週間前と同じように、芸能人の話題や天気予報や地元のニュースが流れていた。一週間の間に何もたいした事はなかったみたいだ。
俺は寝ている間に充電した携帯電話からバイト先に電話しようとした。
「……あれ?」
「どうした?」
「電源が入らない」
画面は真っ暗だ。どこを押してもなんの反応もない。
「そういえば佐々木が、お前に電話してもつながらないって言ってた。充電しても駄目なのか?」
リンゴの皮をスルスルと剥いていた康哉が手を止めてこっちを見る。
「ああ」
まさか壊れたのか? あの、メアリーの動画がもう見られない? 飛竜とのツーショットも? 木村に見せようと思ってたのに。ショックすぎる。
しばらくあちこち押して、再び充電してみても何も変化はなかった。地味にへこむ。みんなとの写真が……。
「夕方店に持って行ってみるか? 完全に熱が下がればの話だけどな」
「そうする」
アニキのハメ撮り動画をちらっと思い出したけど、個人情報だし勝手に見られる事ないだろう。電話が使えないと困る。
暗いままの画面を見ながら、異世界の事を考えた。
つい一日前までは、日本に帰って来られるなんて思ってもいなかった。真っ黒お化けやアルマの事で頭がいっぱいで、危険と隣り合わせの生活だった。それがもうないのか。
安全に眠れるのは嬉しい。だけど……俺は明日からどんな風に生きていったらいいんだろう。
「修平」
康哉がベッドに腰掛けて、ポンポンと俺の頭を叩く。
「ん?」
「そんなに落ち込むなよ。まだ壊れたと決まった訳じゃない」
「恐竜みたいな生き物の動画を撮ってたんだ」
「お前、恐竜オタクだったからな」
「誰もが一度は通る道だろ?」
「俺は興味なかったけど」
康哉は笑って自分の携帯電話の写真を見せてくれた。そこには毛むくじゃらの雪男みたいな生き物と、鼻の短い象と、トリケラトプスみたいなサイが写っていた。
「おおっ!」
「お前、こういうの好きだろ? 見せようと思って撮っておいたんだ」
「スゲー! 康哉、ありがとう。俺にくれ!」
「分かったよ」
ふと、康哉と以前みたいに話せている事に気づいた。廃屋でキスされた時以来の気まずさがなくなってる。嬉しい。あの廃屋での告白とキスと、その後の異世界のあれこれで、康哉とどんな顔で話していいのか分からなくなっていたけど、今は普通だ。普通に話せてるし、顔を見ても気まずさも照れもない。
「この生き物ってどんな鳴き声とかするんだ? 懐いてるのか?」
「雪男は半獣らしい。後の二頭は騎獣だな」
「いいなぁ。俺も乗りたい」
「修平」
「ん?」
異世界動物の写真を眺めていると、康哉がじっと俺を見ている事に気づいた。
「康哉?」
「もう大丈夫みたいだから、俺は帰るな」
「え?」
「佐々木がこれからお前の様子見に来るから、店には二人で行ってこい。携帯が直ったら写真送るよ」
「康哉は?」
なんとなく、もう少し一緒にいたくて聞いてみる。
「一週間何も出来なかったからな。人と会う予定もあるし、忙しいんだよ」
「そっか。引き止めてごめん」
以前の康哉だ。絶対に俺の部屋には泊まらなかった康哉。大体いつもこんな感じであっさりと、俺との時間を終わらせていた。それが何故か寂しい。さっきまで気まずいとか思ってたのに勝手だな。
寝てていいという康哉を玄関まで見送る。
「康哉、ありがとう」
「何に対しての礼だよ」
康哉が苦笑する。
「いや、弁当とか。看病とか……」
「それくらいしか罪滅ぼし出来ないからな」
な」
「康哉……」
「佐々木が来るまで寝てろよ」
そう言って康哉は帰って行った。
俺は寝ている間に充電した携帯電話からバイト先に電話しようとした。
「……あれ?」
「どうした?」
「電源が入らない」
画面は真っ暗だ。どこを押してもなんの反応もない。
「そういえば佐々木が、お前に電話してもつながらないって言ってた。充電しても駄目なのか?」
リンゴの皮をスルスルと剥いていた康哉が手を止めてこっちを見る。
「ああ」
まさか壊れたのか? あの、メアリーの動画がもう見られない? 飛竜とのツーショットも? 木村に見せようと思ってたのに。ショックすぎる。
しばらくあちこち押して、再び充電してみても何も変化はなかった。地味にへこむ。みんなとの写真が……。
「夕方店に持って行ってみるか? 完全に熱が下がればの話だけどな」
「そうする」
アニキのハメ撮り動画をちらっと思い出したけど、個人情報だし勝手に見られる事ないだろう。電話が使えないと困る。
暗いままの画面を見ながら、異世界の事を考えた。
つい一日前までは、日本に帰って来られるなんて思ってもいなかった。真っ黒お化けやアルマの事で頭がいっぱいで、危険と隣り合わせの生活だった。それがもうないのか。
安全に眠れるのは嬉しい。だけど……俺は明日からどんな風に生きていったらいいんだろう。
「修平」
康哉がベッドに腰掛けて、ポンポンと俺の頭を叩く。
「ん?」
「そんなに落ち込むなよ。まだ壊れたと決まった訳じゃない」
「恐竜みたいな生き物の動画を撮ってたんだ」
「お前、恐竜オタクだったからな」
「誰もが一度は通る道だろ?」
「俺は興味なかったけど」
康哉は笑って自分の携帯電話の写真を見せてくれた。そこには毛むくじゃらの雪男みたいな生き物と、鼻の短い象と、トリケラトプスみたいなサイが写っていた。
「おおっ!」
「お前、こういうの好きだろ? 見せようと思って撮っておいたんだ」
「スゲー! 康哉、ありがとう。俺にくれ!」
「分かったよ」
ふと、康哉と以前みたいに話せている事に気づいた。廃屋でキスされた時以来の気まずさがなくなってる。嬉しい。あの廃屋での告白とキスと、その後の異世界のあれこれで、康哉とどんな顔で話していいのか分からなくなっていたけど、今は普通だ。普通に話せてるし、顔を見ても気まずさも照れもない。
「この生き物ってどんな鳴き声とかするんだ? 懐いてるのか?」
「雪男は半獣らしい。後の二頭は騎獣だな」
「いいなぁ。俺も乗りたい」
「修平」
「ん?」
異世界動物の写真を眺めていると、康哉がじっと俺を見ている事に気づいた。
「康哉?」
「もう大丈夫みたいだから、俺は帰るな」
「え?」
「佐々木がこれからお前の様子見に来るから、店には二人で行ってこい。携帯が直ったら写真送るよ」
「康哉は?」
なんとなく、もう少し一緒にいたくて聞いてみる。
「一週間何も出来なかったからな。人と会う予定もあるし、忙しいんだよ」
「そっか。引き止めてごめん」
以前の康哉だ。絶対に俺の部屋には泊まらなかった康哉。大体いつもこんな感じであっさりと、俺との時間を終わらせていた。それが何故か寂しい。さっきまで気まずいとか思ってたのに勝手だな。
寝てていいという康哉を玄関まで見送る。
「康哉、ありがとう」
「何に対しての礼だよ」
康哉が苦笑する。
「いや、弁当とか。看病とか……」
「それくらいしか罪滅ぼし出来ないからな」
な」
「康哉……」
「佐々木が来るまで寝てろよ」
そう言って康哉は帰って行った。
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