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***
「……修平」
『ごめん……ごめんなさい』
「修平、大丈夫か?」
寝ている間に泣いていたらしい。
康哉に揺さぶられて目を開けると、心配そうな康哉と目があった。
「うなされていた。向こうの世界の夢、見てたのか?」
腕で涙を拭った。
情けない。皆の事を思い出して泣くなんて。考えないようにしていたけど全部責められて当然の事だ。
「泣くな」
康哉が俺の頭を撫でる。
「つらかったんだろう? もう思い出さなくていい。修平は悪くない」
「……違うんだ。俺が悪い」
康哉はきっと俺が奴隷にされた事を気にしているんだと思う。でも、俺が辛かったのは奴隷にされた事じゃない。皆にちゃんとお別れが言えなかった事だ。短時間だったけど、友達かそれ以上の存在になっていた。
康哉と帰る事を選んだのは俺なのに、なんてわがままで自分勝手な奴なんだろう。自分にガッカリだ。
康哉に心配をかけるし、全部自分のせいなんだから泣く資格なんてない。そう思うけど、やっぱり涙は止まらなくて、康哉の胸にすがりついて泣いた。
***
まぶしくて目が覚めた。
もう朝なんだろうか。熱が下がったのか昨日よりかなり身体が楽になっていた。頭が痛いのは泣いたせいだ。
ベッドの中で腕を伸ばしても、康哉の身体が見つからない。それで仕方なく身体を起こすと、すぐ近くの狭いキッチンで、康哉が誰かと電話しながら何か作っているのが見えた。
「そうなんだ。お前から言っておいてくれよ」
康哉が誰かに頼み事って珍しい。
「こ……や」
声がめちゃくちゃ掠れてる。それでも康哉は俺の声にすぐに気づいて電話を切った。
「悪い。充電させてもらった」
そう言いながらベッドに戻ってきて、俺の額に手を添える。
「熱下がったな。念のため、ほら」
そう言って体温計を取り出す。
「電話……誰と?」
そんなはずないのに、半獣の面倒を見ていた康哉を思い出して、一瞬半獣の部下としゃべってるのかと思った。そういえば康哉は面倒見がいいから、慕ってる後輩とかたくさんいたよな。
「佐々木。お前バイト一緒だったろ。俺にも連絡が来てた。修平がバイトを休んでるけど何か知らないかって」
ああそっか。
俺バイト休んでた。一応今週は二日しか入れてなかったけど、二日とも確実に無断欠勤だ。
「肝試しに行った後、熱出して倒れて寝込んでると言っておいた。あいつ、お前の霊感体質知ってるからな。妙に納得してたよ」
「……ありがとう」
康哉が俺の着ていたシャツのボタンを外して、脇に体温計を差し込む。
「康哉、母さんみてぇ」
「考えてる事は違うけどな」
「……何考えてんだ?」
「聞くなよ。言ったら引くから」
何だろう。ちょっと怖いんだが。
体温は三十七度だった。もともと平熱が高いから、これくらいなら全然問題なく動ける。
「まだ少し熱があるな」
「……大丈夫」
「駄目だ。今日は一日寝てろ」
「大丈夫だって」
「お前の口癖、気づいてるか? 大丈夫ってすぐに言うやつ。でもお前は何も考えてないし分かってない」
康哉が真顔でビシビシと痛いところを突いてきた。
「だから俺がいいというまで寝てろ」
「……いやだ」
「子供か」
「ずっと寝てるなんて退屈だ」
康哉がため息を吐いた。
「とりあえず昼までは寝てろ」
「……修平」
『ごめん……ごめんなさい』
「修平、大丈夫か?」
寝ている間に泣いていたらしい。
康哉に揺さぶられて目を開けると、心配そうな康哉と目があった。
「うなされていた。向こうの世界の夢、見てたのか?」
腕で涙を拭った。
情けない。皆の事を思い出して泣くなんて。考えないようにしていたけど全部責められて当然の事だ。
「泣くな」
康哉が俺の頭を撫でる。
「つらかったんだろう? もう思い出さなくていい。修平は悪くない」
「……違うんだ。俺が悪い」
康哉はきっと俺が奴隷にされた事を気にしているんだと思う。でも、俺が辛かったのは奴隷にされた事じゃない。皆にちゃんとお別れが言えなかった事だ。短時間だったけど、友達かそれ以上の存在になっていた。
康哉と帰る事を選んだのは俺なのに、なんてわがままで自分勝手な奴なんだろう。自分にガッカリだ。
康哉に心配をかけるし、全部自分のせいなんだから泣く資格なんてない。そう思うけど、やっぱり涙は止まらなくて、康哉の胸にすがりついて泣いた。
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まぶしくて目が覚めた。
もう朝なんだろうか。熱が下がったのか昨日よりかなり身体が楽になっていた。頭が痛いのは泣いたせいだ。
ベッドの中で腕を伸ばしても、康哉の身体が見つからない。それで仕方なく身体を起こすと、すぐ近くの狭いキッチンで、康哉が誰かと電話しながら何か作っているのが見えた。
「そうなんだ。お前から言っておいてくれよ」
康哉が誰かに頼み事って珍しい。
「こ……や」
声がめちゃくちゃ掠れてる。それでも康哉は俺の声にすぐに気づいて電話を切った。
「悪い。充電させてもらった」
そう言いながらベッドに戻ってきて、俺の額に手を添える。
「熱下がったな。念のため、ほら」
そう言って体温計を取り出す。
「電話……誰と?」
そんなはずないのに、半獣の面倒を見ていた康哉を思い出して、一瞬半獣の部下としゃべってるのかと思った。そういえば康哉は面倒見がいいから、慕ってる後輩とかたくさんいたよな。
「佐々木。お前バイト一緒だったろ。俺にも連絡が来てた。修平がバイトを休んでるけど何か知らないかって」
ああそっか。
俺バイト休んでた。一応今週は二日しか入れてなかったけど、二日とも確実に無断欠勤だ。
「肝試しに行った後、熱出して倒れて寝込んでると言っておいた。あいつ、お前の霊感体質知ってるからな。妙に納得してたよ」
「……ありがとう」
康哉が俺の着ていたシャツのボタンを外して、脇に体温計を差し込む。
「康哉、母さんみてぇ」
「考えてる事は違うけどな」
「……何考えてんだ?」
「聞くなよ。言ったら引くから」
何だろう。ちょっと怖いんだが。
体温は三十七度だった。もともと平熱が高いから、これくらいなら全然問題なく動ける。
「まだ少し熱があるな」
「……大丈夫」
「駄目だ。今日は一日寝てろ」
「大丈夫だって」
「お前の口癖、気づいてるか? 大丈夫ってすぐに言うやつ。でもお前は何も考えてないし分かってない」
康哉が真顔でビシビシと痛いところを突いてきた。
「だから俺がいいというまで寝てろ」
「……いやだ」
「子供か」
「ずっと寝てるなんて退屈だ」
康哉がため息を吐いた。
「とりあえず昼までは寝てろ」
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