ずっと親友だと思っていたのに(康哉編)

カム

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***

 夕方、佐々木と一緒に近所の携帯ショップに顔を出した。お店のスタッフに状況を説明する。

「衝撃を与えたり、水に濡らしたりしませんでしたか?」
と聞かれ、心当たりがありすぎて何も言えなかった。
 でも王宮ではまだ携帯は動いていたよな。最後に見たのは転移する直前だ。

「直らないんですか?」
「新しいの買えよ。お前も最新機種にしろって」

 結局修理に出すことにしたけど、スタッフ曰く直るかどうか怪しいので、最新機種はいかがですか? という事だった。つまり佐々木と同じだ。修理に出した代わりに別の格安携帯を借りて携帯ショップを後にした。
 すぐに新しい物を買う気にならないのは、心のどこかで異世界の写真をもう一度見たいと思っているせいだろうか。もう戻れないのに。
 写真も動画も(アニキの動画はともかく)持っていても会えなくて切なくなるだけなら、消えてしまってもいいのかもしれない。画像だけ持っていても、それは俺の自己満足で、異世界のみんなは数年もすれば俺の顔も忘れてしまうだろう。

「……でもヘコむ」

 しゃがみ込んだ俺を佐々木が慰めてくれる。

「元気出せよ。食欲あるならお前の好きなラーメン唐揚げ定食おごるからさ」

 一週間ぶりのラーメン唐揚げ定食は胃に染みた。美味すぎて涙が出そう。
 
 佐々木にお礼を言ってラーメン屋で別れ、コンビニに寄って異世界で食べたかったいろいろな物を買い込む。おにぎりやカップラーメン、スナック菓子、ジュース、あとは漫画雑誌。コンビニ袋を抱えてアパートまで歩き、暗い部屋に戻る。
 昨日は康哉がいたけど、今日はいないから寂しい。元気になったから、康哉ともっと異世界の話をたくさんしたかったのに。

 とりあえず部屋でベッドに横になると漫画雑誌を開いた。漫画の中では異世界に飛ばされた主人公が特殊能力に目覚めて、敵をなぎ倒していく。フライパンの俺と違いすぎて笑ってしまう。

 こんな感じでゆっくりと、俺は日常を取り戻していった。

***

 異世界から戻ってきて、あっという間に十日近く過ぎた。昼は大学に通い、バイトをして、バイトのない日は大人しく帰宅。
 友人達はこぞって俺のイヤリング(ピアスだと思われているが)と指輪にツッコミを入れ、お前は変わったとか、恋人が出来たのかとか、痩せて筋肉がついたと言われた。

 修理に出した携帯電話は直らなかったので、結局俺も佐々木の勧める新しいスマホを購入した。

 佐々木に女友達を紹介してほしいと軽く頼み、康哉に新しいスマホで連絡をとる。あれ以来康哉からは全然連絡が来なかった。今までなら、数日に一度は連絡があったのに。携帯電話が壊れていたからだと思っていたけど、直ってからも何の音沙汰もない。大学が違うから会おうと思わなければ会えない。それで休みの日に康哉のマンションに行ってみる事にした。
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