好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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研修生活スタート

1 罪悪感と嫉妬心

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 最悪の気分で朝を迎えた。

 ルーシェンが出て行ってからしばらくの間、放心したままベッドに寝転がっていたけど、そのうち日本から持って来た目覚まし時計が鳴り出したので仕方なく起き上がる。
 今日から新しい職場で頑張らないと、そう思うのにエネルギーが少しもわいてこない。

 ルーシェンを傷つけたという罪悪感と、それでも消えない嫉妬心で胸がいっぱいだ。

 のろのろと持って来た服に着替え、顔を洗って最低限の身仕度を整える。
 異世界リュックにノートと筆記用具とガイドブックならびに辞書を入れると、17階の異世界担当課に向かうことにした。

 魔法エレベーターのあるロビーまで歩いていくと、高そうなソファーに座って書類?を読んでいる男の人がいた。
 書類じゃなくて新聞みたいなものかな。同じフロアに住む人は偉いと言っていた如月の言葉を思い出し、挨拶しようと近寄った。

 あ……この人、見覚えがある。
 明るい茶色の髪に人懐こそうな表情。身につけた青いジャケットはエリート飛行部隊の証。俺が気づいたと同時にその人が顔を上げ、目が合った。

『おは……』
「おはよう!ミサキシュウヘイ君!」

 語尾にハートマークが付きそうな勢いでそう言うと、彼は俺に飛びついて握手を求めてきた。

『おはようございます。ええと……アークさんですよね?』

 魔法村を脱出した時に、ルーシェンを迎えに来て泣いてた人だ。アルマから逃げる時にも会ったっけ。
 握手をした手がぶんぶんと振られて地味に痛い。細身なのにすごい力だ。さすがエリート兵。

「そう、ルーシェン王子の飛行部隊で第二部隊の隊長をしているアークだ。覚えていてくれて嬉しいな!君の部屋の隣に住んでるから、いつでも遊びに来ていいよ。王子の許可があればだけどね。本当は昨日挨拶しようと思ったけど止めといたよ。昨日はよく眠れた?あ、変な意味じゃないよ。ほら、別世界だからさ」

 アークさんはよく喋る人だった。口を挟む隙がない。

『それがあまり……』

 どこまで話せばいいのか分からない。ルーシェンの部下だから悪い人じゃないだろうけど、王子が昨日泊まりに来た事とか知ってるんだろうか。いやいや、いくら部下でもプライベートな話はしないよな。

「そうか!やはり久しぶりだから眠る暇なんてないよな。王子はああ見えて情熱的な方だから」

 うわぁ知ってたよ。
 如月に続いて変に誤解されてるみたいで恥ずかしい。実際には何もされてないのに。

『あ、でも、私はあまり眠ってませんが、王子は熟睡してました』

 気まずい雰囲気になった事は黙っておこう。
 でも、俺の言葉で話す隙のなかったアークさんが黙り込んだ。何かまずいことを言ったのかと心配になっていると、いきなりがばっと抱きつかれて驚く。異世界人はリアクションがオーバーだ。心臓に悪い。

「ありがとう!さすがミサキ君だ」
『え?』

 アークさんは内緒話をするように声のトーンを落とした。

「ここだけの話だけど、王子はずっと眠れない日々が続いていらしたんだ。部下には弱みを見せない方だけど、傍でお仕えしていれば分かるからね。君が来てくれて本当に良かった」

『眠れないって……どうしてですか?』

「内容は話されないが……悪夢を見るらしい。おつきの侍女の話では、ここ一年ほど、ろくに熟睡された事が無いそうだ。回復魔法や睡眠の魔法で対処なさっているが、眠られてもうなされる事が多くてね。昨日は悪夢を見てうなされたりという事はなかったかい?」

『なかったと思います』

「そうか、良かった。ここ数日、王子はとても嬉しそうでね。きっと君に会えるのが楽しみだったんだよ。これからも王子をよろしく頼むよ」

 アークさんの一言で罪悪感がいっそう大きくなった。
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