好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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研修生活スタート

5 好きになってもいいのかな

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「岬ちゃんの異世界担当課配属にかんぱーい!」
「かんぱーい!」
「……ぱーい」

 歓迎会はなごやかに始まった。
 梅子さんと太郎さんと如月と、よく知らない別の課の魔法使いも何故か数人、それに途中から部長と藤子さんも合流してくれた。
 改めて自己紹介をして、一年前に肝試しをしてこちらの世界にたどり着いたいきさつを短く説明する。

「……肝試しは駄目だよー」と太郎さん。
「岬ちゃんも苦労したのね」と梅子さん。
「忙しい時期だったので参りましたよ」と如月。

 一年前がなつかしいな。
 帰るために旅をしていた頃は、まさかこの国で働く事になるなんて思ってもいなかった。そう思うと感慨深い。

「どうしてまたこっちで働こうと思ったの?言葉も文化も違うでしょう?」

 藤子さんの質問に、少しだけ悩んだ。

『……この国と、出会った人たちをみんな……好きになったからです』

 そう答えると、皆からヤジのような歓声が飛んだ。

「やっぱり愛よねぇ」
と藤子さんがしみじみ言った。

 歓迎会はその後も遅くまで続いたらしいけど、異世界の酒で酔っぱらった俺は途中からの記憶があいまいになり、気づけば如月の肩にもたれつつ魔法エレベーターに乗っていた。

「……あれ?歓迎会は?」

「目が覚めました?もうすぐ部屋ですから、あと少しだけ歩いてくださいね」

 床がフワフワして雲の上を歩いているみたいだ。酔っているせいかな。
 幸せな気持ちと、不安な気持ちが混ざり合って落ち着かない。

「……如月、俺さ」
「どうしました?」
「ルーシェンを好きになってもいいのかな」

 俺の呟きに、如月は少しの間黙り込んだ。

「人を好きになるのに、許可なんていりませんよ」
「……そっか」
「もちろん嫌うのも自由です。ただ……」
「ただ?」

 如月はにやりと笑った。

「私の希望を言えば、岬さんが王子に片想い、というのがベストですね」

「なんだよ、それ。上司なんだから少しは応援してくれよ」

 ぶつぶつ言っているうちに、部屋の前に着いた。

「明日は昼から出勤でも大丈夫ですよ。ただし研修は忘れないでくださいね」

『分かりました如月課長。送ってくれてありがとうございます。おやすみなさい』

 如月に見送ってもらい、部屋に入る。
 中は暗くて人の気配はしなかった。フラフラと窓に寄って中庭に出ると、念のため飛竜がいないか確認した。
 いない。
 見上げれば高い位置に、魔法の光に彩られた王宮の上層部が存在している。離宮がいくつか浮いているのも分かった。
 あの建物の中のどこかがルーシェンの部屋だ。地上よりは近いけど、それでも遠い。会いたいときはすぐに会える距離だったらいいのに。
 そんな事を考え、だんだん自分の欲求がエスカレートしているみたいで怖くなった。
 不安だ。ルーシェンをこれ以上好きになりたくない。わがままを言って、束縛して、自分の嫌な部分ばかり出してしまいそうだ。

 昨日はあんなに近くにいたのに、ケンカなんてしなければ良かった。

 しばらく王宮を眺め、部屋に戻る。
 部屋は出た時と変わりなくて、手紙も読まれた形跡もなくて、俺はその手紙をくしゃくしゃに丸めて捨てた。
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