好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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10 解毒

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 テントの外に出ると、ちょうど日が沈んだ後で空は暗くなりかけていた。
 テントは他にもいくつか立ち並んでいて、白いローブを着た魔法使いが忙しそうに走りまわっている。傷ついた兵士達もちらほらいて、テントに運ばれたり、仲間に支えられて歩いている姿を見かける。
 風に乗って動物の鳴き声も聞こえてきた。多分飛竜たちの声だ。
 そっちに向かっていくと、怪我をした飛竜が一カ所に集められていて、作業服のような制服を着た飛竜のトレーナー達が魔法使いと一緒に治療にあたっていた。

「そっちはどうだ?」
「解毒薬が全然足りない」
「近隣の村に使いは出したのか?」
「かき集めてはいるが、飛竜一頭を解毒するのにかなりの量が必要だ。治療師のいる村も少ないし、こちらに派遣できる余裕もないという事だ。王都に応援を頼んでいるが、辺境に来るまでに何頭の飛竜がもってくれるのか、正直分からない」
「そんな……」

 なんだか深刻そうだ。
 解毒薬って事は、あの花に毒があったんだろう。何か俺に出来ることはないだろうか。

 テントを離れると、遠くの空にまだ空を飛んでいる飛行部隊が見えた。暗くても飛竜の赤い目が光っているから分かる。
 近づいて見ると、みんな戦闘というより作業をしているのに近く、残った根を剣で切ったり、集めて焼いたりしている。たまに大型のコウモリみたいな鳥やでかい虫がいて、攻撃してくるそいつと戦っている兵士もいたけど、さっきとは比べものにならないくらい緊張感はなくなっていた。

 金色の光を探すと、簡単にルーシェンが見つかった。近くにいる大型コウモリを切り捨てながら、部下達に指示を出している。
 あれからずっと戦っていたのか。
 疲れているはずなのに、傍目には全然そんな素振りは見せてない。でも、服は汚れたり焦げたりとダメージを受けていて、髪も乱れていた。

「王子、この後の指示は私が代わります。王子は少しお休みください」

 テントの方角から戻ってきたアークさんが、ルーシェンに近寄って話しかける。

「怪我人の様子はどうだ?飛竜は」
「兵士達は全員解毒しました。重傷者も完治までは無理ですが、動けるほどに回復しております。ですが、飛竜は……」
「厳しいか」
「解毒薬が足りません」

 ルーシェンは厳しい表情でそうかと呟くと、アークさんと別れ、離れた場所にいたロベルトさんを呼び寄せた。
 剣についた血を拭い鞘に収めると、ロベルトさんと一緒にテントに歩き始める。俺も後ろから付いていった。

「これから飛竜の解毒にまわる。ロベルト、疲れているだろうが少し手伝ってくれ」
「王子、私がやりますから王子はお休みください」
「解毒呪文が使えるのに、休んでなどいられない」
「ずっと魔法を使っていては、心臓に負担がかかってしまいます。どうかお休みください。倒れてしまいます」
「駄目だ。せっかく育てた飛竜を何頭も失う訳にはいかない。どうせテントに戻っても眠れないんだ。倒れたら誰かが回復してくれればいい」

 ルーシェン、まだ働くつもりだ。
 話を聞いているうちに、ぎゅっと心臓の辺りが締め付けられるように痛くなった。胸が苦しい。ルーシェンの為に何か、何かしてあげたい。

 そう強く思うと、体が白い光に包まれた。自分が光っているのかと思ったら違った。俺のまわりに、ぐるりと光る白い龍がとぐろを巻いている。

(どこ行ってたんだ?)

 白い龍の長い毛を掴むと、俺を乗せて龍は低空飛行を始める。するすると地面を這うように進み、テントの間を光のようにすり抜けた。
 そのまま傷ついた飛竜達の場所にたどり着く。飛竜達は驚いて身構えたから、俺たちが見えてないトレーナー達が慌ててなだめている。

(お前、もしかして解毒とか出来る?)

 白い龍は当然だと言わんばかりに、口から白い光の息を吐いた。ふわーっと。

 飛竜達が光に包まれて一斉に翼を広げる。
 トレーナー達や治療師が驚いて、どよめきがおこった。

(お前凄いな!)

 俺をおちょくって遊ぶだけかと思ったら、こいつかなり凄いやつみたいだ。
 元気になった飛竜を眺めながら、これでやっとルーシェンが休めると安堵した。


***

 白い龍はもう仕事をしないといった雰囲気で、上空にフラフラ飛んでいった。
 俺は驚くルーシェン達を眺めると、一足先にテントに向かう事にした。
 一番大きくて豪華なテントがテント村の中央にあって、入口に青い布の装飾がしてあったから、多分ここがルーシェンの寝泊まりしているテントだと思う。豪華で広いといっても、中は簡易ベッドに椅子と少しの荷物しか無いけど。

(まだかな)

 予想以上に解毒の効果があったらしく、大騒ぎになって王子がなかなか帰ってこない。迎えに行こうか悩んでいると、テントの外からロベルトさんとルーシェンの声が聞こえてきた。

「……しかし驚きました。みな、王宮の守り神の力だと言っていますが、本当に王子が呼び出したのではないのですか?」
「ああ。王宮の守り神なら力を感じた事はあるが、王都の外では初めてだ。俺が呼び寄せた訳じゃない。扱い方も知らないからな」
「きっと王子の願いに応えられたのでしょう」
「そうだといいが」

 二人とも嬉しそうだ。良かった。

「とにかく飛竜が飛べるなら、明日には王都に戻れる。後の作業は応援部隊に任せて帰還しよう。予定よりかなり長引いたが、これでようやく帰れるな。まだアークが作業をしているから、途中で別の隊員に交代するよう言ってくれ。俺は少し休む」

 ルーシェンがそう言った後、妙な沈黙が訪れた。
 何だろうと、身体を半分テントの外に出すのと、ロベルトさんが口を開いたのが同時だった。

「王子、王都に戻ったら、本当にあの異世界人と……、婚約されるのですか?」
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