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引っ越し

2 お見舞い

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 それから寝たり起きたりを繰り返しているうちに、熱はだんだん下がって調子が戻ってきた。
 起きるたびに、太郎さんがいたり梅子さんがいたりと、そばにいる人の顔ぶれが変わってる。皆が俺の様子を見に来てくれるのが嬉しいような、申し訳ないような気になる。
 食欲も戻って、梅子さん特製のお粥を食べていると、如月が大部屋にやってきた。

「顔色が良くなりましたね」

 如月はそう言った後、まじまじと俺の顔を見た。俺も如月の周りにある赤い光に見とれる。やっぱり如月の光は大きくて綺麗だ。

『ありがとうございます。だいぶ元気になりました。認定式では倒れてすみません』
「岬さん……雰囲気変わりましたね」
『え?そうですか?』
「魔力酔いの影響でしょうか」
『どこか変ですか?魔力酔いって何ですか?』

 視力は変だけど。後は別に変わってないよな。

「何と言ったらいいか……魔力は相変わらずへなちょこですが、何故か魔法防御力が上がったような気がします」

 へなちょこ……喜んでいいのか悪いのか分からない。

「魔力酔いというのは、強い魔力に晒されて具合が悪くなる事を言います。実は王宮の21階から上には守り神が住んでいると言われてます。認定式は兵士達にその加護を受けさせる狙いがあるのですが、たまに体調不良を訴える者がいるのです。岬さんは異世界人で魔力ゼロですから、他の兵士より体調が悪化したのでしょう。王宮に住んで3ヶ月近く経つので大丈夫だと思ったのですが、私の認識不足でした。申し訳ありません」

『大丈夫です。熱も下がったし、如月のせいじゃありません』

 如月が頭を下げたので正直びっくりした。熱が出たのは白い龍と、幽体離脱のせいだと思うし。

「岬ちゃん、魔力酔いは辛いけど、一度経験するとある種の病気みたいに抗体が出来て強くなるから、次からは平気になるのよ」
『そうなんですか?』
「抗体と言うには強力すぎる魔法防御力ですけどね」
「だから岬ちゃん、元気になったら好きな人の部屋に堂々と行けるわよ!」

 梅子さんがニヤニヤしながらそう言って、如月が咳払いをした。慌てて梅子さんが周りを見回す。大部屋には誰も俺たちの話を聞いている人はいないみたいだった。
 でも、そうか。元気になったらルーシェンの部屋に行けるようになるのか。今度頼んでみよう。

***

 如月が仕事に戻った後、ジョシュがお見舞いに来てくれた。

「ミサキ君、お見舞いに来たよ。大丈夫?」
『ジョシュ、ありがとう』

 ジョシュはあいかわらずぽちゃっとしていて、頬がつやつやで可愛かった。手にはお菓子の入った包みを持っている。梅子さんが入れ替わりに洗濯をしに出かけたので、ジョシュはベッド近くの椅子に陣取ってお菓子を広げた。お見舞いの品というより自分のおやつみたいだ。

「何で医療部屋送りになったの~?仕事のしすぎ?」
『魔力酔いみたいです』
「危険な現場に行ったんだ!?」
『いや、ただの認定式です』

 そう言うとジョシュはお菓子を食べながら爆笑した。

「認定式で倒れる人いるんだね。でも良かったね、クビにならなくて。配属先からは何も言われてないんでしょ?」
『多分……』
「きっと大丈夫だよ。でも、もしミサキ君がクビになっても僕たちは友達だから」
『ありがとう、ジョシュ』

 いい奴だな。見た目通りの包容力だ。

「ところで彼氏さんは?仕事?」
『まだ出張中です』
「えっ、そうなの?せっかくミサキ君の将来有望彼氏見に来たのに~残念。じゃあ彼氏さんミサキ君が医療部屋にいるの知らないんだ。さみしいね」
『そうですね』
「僕の恋人、緑水湖の街から帰って来たんだ。だからミサキ君の彼氏も入れて今度一緒にダブルデートしようと思ったんだけど。絶対楽しいと思うんだよね~。彼氏さん帰って来たら伝えておいてね!」
『は、はい……』

 ジョシュには悪いけど……無理な気がする。ルーシェンは王子様だし。そもそもダブルデートって、した事ないけど楽しいのか?サークルのみんなで飲み会とか、みんなで旅行的な楽しさなのかな。

 しばらく幸せそうなジョシュのノロケ話に相づちをうっていると、急に廊下の方が騒がしくなった。

「何だか騒がしいね。何かあったのかな?僕見てくるよ」

 ジョシュが立ち上がって大部屋の入り口に向かったのと、部屋の扉が開いたのが同時だった。

「倒れたと言うのは本当か!?」

 良く知っている低い声が聞こえ、驚いたジョシュが硬直するのが見えた。

 久しぶりに会えたのが嬉しくて、思わず名前を呼びそうになったけど、立場を思い出して何とか言葉を飲み込む。
 幽体離脱中に会ったそのままの服装で、相変わらず王子オーラ全開のルーシェンが病室に入ってきた。
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