好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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引っ越し

5 転移魔法

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 部屋を出て浮遊石のエレベーターまで歩く。倒れて何日か寝ていたので、すっかり体力が衰えていた。また体力つけないと。

 エレベーターの浮上中にふらついたら、ルーシェンが後ろから抱きしめて支えてくれた。なんだこれかなり恥ずかしいんだけど。でも身体は楽だし腕の中は落ち着く。一緒についてきていた如月もアークさんも見て見ぬふりで、完璧に気配を消してる。部下ってすごいな、俺には無理。

 15階に到着した。何だかすごく久しぶりな気がする。
 アークさんは同じフロアだけど、如月もルーシェンも部屋までついてきてくれるらしい。ルーシェンこの後時間あるんだろうか、少し部屋に寄っていってくれないかな。アークさんや如月がいる手前誘いにくい。

『ちょ、ちょっと部屋に……』
「え?」
『いえあの……』

 何て言おう。やっぱり今日は止めておこうかな。いやいや久々だし。するとかしないとかじゃなく、一緒にいたいっていうか。

 悩んでいる間に部屋の前に着いてしまった。仕方ない。大人しく寝るか。

 あれ?

「どうした、シュウヘイ?」
『ここ、私の部屋ですか?』
「そうだ」
『こんな扉の色でしたっけ?』
「久々だから忘れちゃったんですか?」

 アークさんが笑いながら答えてくれる。
 でも、おかしい。廊下や壁は同じだけど、扉の色が違う。以前みたいな落ち着いた色じゃなくて、真っ赤だ。以前がどんな色だったかと言われたら困るけど、赤じゃ無かった。
 変だと思いながらも、ポケットに入れていたカードキー代わりの身分証を取り出す。扉を開けようとして、如月に止められた。

「岬さん、ちょっとお待ちください」
『え?』
「ハルバート?」
「王子、アーク隊長、下がってください」
『え?え?』

 ルーシェンが俺を背後から抱いたまま扉から距離をとる。その前にアークさんが立ち塞がった。

「岬さん、扉が何色に見えるんですか?」
『赤です』

 そう言うと如月はため息をついた。

「……よく分かりましたね。私でも見逃す所でした。扉に小さく、かなり微量な魔力で魔法がかけられています」

 ルーシェンもアークさんも驚いたらしい。三人でしげしげと扉を見つめる。俺には呪文とかそういうのはさっぱりだ。色なら分かるけど。

「おそらく転移魔法です。一度きりしか使えない簡単なものですね」

「一体誰がこんな物を……」

 抱きしめられた腕に力がこもる。見上げたルーシェンの表情は険しかった。きっと魔法村を思い出したんだろう。

「王宮で働く魔法使いなら、誰でも描けるレベルの魔法ですね。呪文構成から見て、それほど遠くには飛ばされないようなので、私が試してみましょう。岬さん、カードを貸してください」

『でも……危険ではないのですか?』
「大丈夫です。私もそこそこの魔法使いですから」

 如月はニヤリと笑って俺からカードキーを取り上げた。焦って二人を見ても、ルーシェンもアークさんも誰も止めようとしない。

「王子、緊急の場合のみ、高ランクの魔法の使用を許可願えますか?」
「分かった。許可しよう」
「ありがとうございます」

 如月がカードキーを差し込み、ドアノブに手をかけた瞬間、扉は赤く光り、如月の姿はかき消えた。

『如月!』

 扉は焦げ茶色に変わっていた。そうだ、もとはこんな色だった。

『ルーシェン!どうしよう、如月が……』
「落ち着け。ハルバートは優秀な魔法使いだ」
『でも、魔法村みたいな事になったら……』
「封印魔法が使えるのはアルマしかいない。アルマは消滅した。大丈夫だ」
『そうですよね……』

 それからみんな無言のまま、五分くらいが過ぎた。だんだん不安になっていった頃、少し離れた廊下に赤い光が差した。

『如月!無事だったんですね!』

 魔法で戻ってきた如月は、無事だったにもかかわらず冴えない表情をしていた。

「転移先はどこでした?」アークさんが聞く。

 如月は俺と、それからルーシェンの顔を見て口を開いた。

「すぐ近くにある尖塔の屋根の上です。傾斜がかなり急ですが、飛竜に乗り慣れている飛行部隊や、魔法の使える者なら、急に飛ばされたとしてもそれほど焦る場所ではありません。ただ……魔法の使えない岬さんなら、足を踏み外して落下するでしょう」

 落下。
 俺の脳裏に、以前聞いたファンクラブの男の言葉が蘇った。

(この高さから転落したら、助からないんじゃない?)

 あれは脅しじゃなくて、本気だったらしい。
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