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おまけ(ロベルトさんの話)
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午前六時、室内で身支度を整えたロベルトは、今日のスケジュールをもう一度確認し、頭に叩き入れた。
前日に休みをもらっていたため、今日は余裕を持って部屋を出られるが、ロベルトにとっては休みは不本意だった。
本来なら一日も休まずに国のため、さらに言うなら王子のために働いていたいのだ。だが、飛行部隊はハードな仕事が多く、討伐や遠征などが入れば何日も休みが取れない事が当たり前なので、王都に滞在している期間は強制的に休みを取るように言われていた。
飛行部隊を作ったのは先代の国王だが、規約を細かく変更したのはルーシェン王子だ。部下思いの王子らしい配慮が規約のあちこちに現れていた。
飛行部隊の青いマントを身につけ、ロベルトは自室を出る。長い廊下を歩き、空き部屋になった隣の部屋の扉に目をやった。
ロベルトはその部屋に住人が滞在していた時も、極力出会わないように避け続けていたのだ。自分では全くそんなつもりはなかったが、同じフロアに住む同僚に指摘されて気づいた。
第一部隊隊長のロベルトにはいつも全く隙が無い。隊員達には尊敬されつつも恐れられているので、うかつに声をかけてくる部下は少ない。一人の男を除いては。それが同じフロアに住む同僚、アークだった。
今日もアークは同じフロアの階段前のソファーに腰掛けて書類に目を通している。
「おはよう!ロベルト~よく眠れたかい?」
いつもながら明るくよく喋る男だ。
部下たちからは泣きのアークと呼ばれているくらいよく笑いよく泣く。アークはロベルトと違い、前日の朝まで仕事をしていたはずだ。このあとは飛行部隊の会議に顔を出して打ち合わせ後に休みに入るのだろう。
「これ読んだ?」
アークは返事のないロベルトを気にする事もなく、書類と思われる物をヒラヒラと振った。
ロベルトはその書類が王宮内で最近出回っている号外だと気づいた。討伐から帰還して目を通したので内容は把握している。
ロベルトの胸の内はかなり複雑だったが、彼は無表情ロベルトと呼ばれるほど表情を変えないので、傍目からは彼が何を考えているかはよく判らなかった。しかし、アークはフフンと笑った。
「ロベルトさ、もしかしてだけど王子に何か言った?」
ロベルトの眉間にピクリと皺が寄る。何故知っているのだ、この男は。
確かにロベルトは先日行われた辺境の妖花討伐の夜、身の程もわきまえずに王子に意見してしまったのだ。彼はそれを深く恥じていた。
「ロベルトの態度がおかしいから、何かあると思ったんだよね~」
「言うな」
ロベルトはアークの手から号外を取り上げると、苦々しい気分で目を落とした。
そこには王子の恋の相手だと言われている異世界の青年との恋の噂がおもしろおかしく書かれていた。
号外はあくまで噂だとされていたが、アークもロベルトもそれが事実だと知っていた。ルーシェン王子の心には、一年以上前からずっと異世界の青年が住み続けていた。
最初はアークもロベルトも、王子の気まぐれだろうと思った。異世界出身だという事実が王子の興味を引いたのだろうと。そしてすぐに興味は薄れるだろうと思っていた。
だが、一年ほど離れ離れになっている間も王子の心から彼の存在が消えることは無かった。その事実にアークは喜び、ロベルトは不安を覚えた。
号外を見た王子は、異世界の青年の情報が洩れたことに激怒し、ロベルトと同じフロアに住まわせていた青年を王族専用のフロアに移動させてしまった。結局隣人と一度も会うことなく、異世界の青年は隣の部屋からいなくなってしまった。
「ロベルトはミサキ君の何が気に入らないのかな~」
「逆に聞くが、お前はどこを気に入っている」
「彼、可愛いよ。それに、普通だけど変わってる」
「魔力無しだ。武力も地位も後ろ盾も無い」
「そこは優秀な部下がいるだろ。僕とか、君が。主君を御守りするのが部下の務めだ。それに、王子の前でそんなこと言ったら異動させられるよ」
「……」
「素直じゃないね。ロベルトは。本当は気に入ってるんだろ?」
「違う」
断じてそんなことはない、とロベルトは思うのだった。
だが、今までの王子の恋の相手には特別に口を出したことはなかったのに、なぜ今回の相手には腹が立つのだろうか。
思えば初対面の時からそうだった。
王子の命の恩人だというのに、できれば二度と王子とあって欲しくはないと思った。ミサキという異世界の青年は、その存在を意識するたびにロベルトの心の中にモヤモヤとした何かを残すのだった。
前日に休みをもらっていたため、今日は余裕を持って部屋を出られるが、ロベルトにとっては休みは不本意だった。
本来なら一日も休まずに国のため、さらに言うなら王子のために働いていたいのだ。だが、飛行部隊はハードな仕事が多く、討伐や遠征などが入れば何日も休みが取れない事が当たり前なので、王都に滞在している期間は強制的に休みを取るように言われていた。
飛行部隊を作ったのは先代の国王だが、規約を細かく変更したのはルーシェン王子だ。部下思いの王子らしい配慮が規約のあちこちに現れていた。
飛行部隊の青いマントを身につけ、ロベルトは自室を出る。長い廊下を歩き、空き部屋になった隣の部屋の扉に目をやった。
ロベルトはその部屋に住人が滞在していた時も、極力出会わないように避け続けていたのだ。自分では全くそんなつもりはなかったが、同じフロアに住む同僚に指摘されて気づいた。
第一部隊隊長のロベルトにはいつも全く隙が無い。隊員達には尊敬されつつも恐れられているので、うかつに声をかけてくる部下は少ない。一人の男を除いては。それが同じフロアに住む同僚、アークだった。
今日もアークは同じフロアの階段前のソファーに腰掛けて書類に目を通している。
「おはよう!ロベルト~よく眠れたかい?」
いつもながら明るくよく喋る男だ。
部下たちからは泣きのアークと呼ばれているくらいよく笑いよく泣く。アークはロベルトと違い、前日の朝まで仕事をしていたはずだ。このあとは飛行部隊の会議に顔を出して打ち合わせ後に休みに入るのだろう。
「これ読んだ?」
アークは返事のないロベルトを気にする事もなく、書類と思われる物をヒラヒラと振った。
ロベルトはその書類が王宮内で最近出回っている号外だと気づいた。討伐から帰還して目を通したので内容は把握している。
ロベルトの胸の内はかなり複雑だったが、彼は無表情ロベルトと呼ばれるほど表情を変えないので、傍目からは彼が何を考えているかはよく判らなかった。しかし、アークはフフンと笑った。
「ロベルトさ、もしかしてだけど王子に何か言った?」
ロベルトの眉間にピクリと皺が寄る。何故知っているのだ、この男は。
確かにロベルトは先日行われた辺境の妖花討伐の夜、身の程もわきまえずに王子に意見してしまったのだ。彼はそれを深く恥じていた。
「ロベルトの態度がおかしいから、何かあると思ったんだよね~」
「言うな」
ロベルトはアークの手から号外を取り上げると、苦々しい気分で目を落とした。
そこには王子の恋の相手だと言われている異世界の青年との恋の噂がおもしろおかしく書かれていた。
号外はあくまで噂だとされていたが、アークもロベルトもそれが事実だと知っていた。ルーシェン王子の心には、一年以上前からずっと異世界の青年が住み続けていた。
最初はアークもロベルトも、王子の気まぐれだろうと思った。異世界出身だという事実が王子の興味を引いたのだろうと。そしてすぐに興味は薄れるだろうと思っていた。
だが、一年ほど離れ離れになっている間も王子の心から彼の存在が消えることは無かった。その事実にアークは喜び、ロベルトは不安を覚えた。
号外を見た王子は、異世界の青年の情報が洩れたことに激怒し、ロベルトと同じフロアに住まわせていた青年を王族専用のフロアに移動させてしまった。結局隣人と一度も会うことなく、異世界の青年は隣の部屋からいなくなってしまった。
「ロベルトはミサキ君の何が気に入らないのかな~」
「逆に聞くが、お前はどこを気に入っている」
「彼、可愛いよ。それに、普通だけど変わってる」
「魔力無しだ。武力も地位も後ろ盾も無い」
「そこは優秀な部下がいるだろ。僕とか、君が。主君を御守りするのが部下の務めだ。それに、王子の前でそんなこと言ったら異動させられるよ」
「……」
「素直じゃないね。ロベルトは。本当は気に入ってるんだろ?」
「違う」
断じてそんなことはない、とロベルトは思うのだった。
だが、今までの王子の恋の相手には特別に口を出したことはなかったのに、なぜ今回の相手には腹が立つのだろうか。
思えば初対面の時からそうだった。
王子の命の恩人だというのに、できれば二度と王子とあって欲しくはないと思った。ミサキという異世界の青年は、その存在を意識するたびにロベルトの心の中にモヤモヤとした何かを残すのだった。
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