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おまけ(ロベルトさんの話)
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王子は首と手に触れながらゆっくりと立ち上がった。
「王子!ご無事ですか!?」
「さあ早く、婚約式に行きましょう、王子様」
笑顔で手を伸ばした魔法使いの腕を、王子が掴んで壁に叩きつけた。
「……っぐ」
「ふざけるな。シュウヘイをすぐに連れて来い」
「……おっかしいな。もっと、効くと思ったんだけど、この魔法……」
「聞こえないのか」
魔法使いは額に汗を浮かべながらも、それでも笑みを崩さなかった。
「従者は適当に飛ばしたけど、婚約者は別。僕に何かあったら、彼の手足を切り落とすけど、それでもいい?」
王子はその言葉に息を飲んだ。
「魔力がなかったら、どのくらい生きていられるかな……?王子様が僕と婚約してくれるなら、命は助けてあげるけど」
「……シュウヘイには手を出すな」
「じゃ、決まりだね」
魔法使いは衣服を整えて我々を見回した。
「王子!」
「……ロベルト、婚約式の準備だ。アークにも伝えてくれ」
「……畏まりました」
「くれぐれも変なこと考えないでよ、飛行部隊の皆さん。状況、分かってるよね」
目の前の魔法使いの細い首を一太刀で切り落としてやりたい衝動に駆られたが、王子に妙な魔法がかけられている上に婚約者の命を盾にされては迂闊なことは出来ない。
ロベルトは数人の部下を残して王子の傍を離れた。
アークにも伝えてくれ、というのはもちろん婚約式のことではない。
婚約者を探し出せば、王子ならあの程度の魔法、おそらく魅了か拘束の魔法……は解く事が出来るだろう。
ロベルトは部下に指示を出し、愛用の飛竜に飛び乗った。
王都の上空は厚い雲に覆われ、強い風が吹き始めていた。空には細かい雷が走っている。
朝は晴れていたのに、まるでこの先の未来を予感させるような不穏な雲行きだった。ロベルトは、王宮の守り神が怒っているのだと感じた。
緑水湖一帯に雹が降り始め、観光客達が慌てている。飛竜も飛行を嫌がって王都を離れようとする。
ロベルトはなんとか飛竜を落ち着かせた。任務から離れるわけにはいかない。
どこに飛ばされたか分からない一人の人間を探し出すのは非常に難しい事だった。だからこそあの魔法使いは余裕の笑みを浮かべていたのだろう。
王都にある魔法使いの屋敷を調べたが、屋敷は別荘も含めると数が多く、一軒ずつ調査するのに時間がかかった。
街は婚約式後のパレードを見ようと大勢の観光客で埋め尽くされている。陸上では身動きが取れず飛竜に乗って移動したが、そもそも王都ではない辺境の地に飛ばされた可能性もある。時間だけが過ぎていった。
嫌がる飛竜を宥めながら調査を続けていると、ようやく荒れていた天候が回復し始めた。
飛竜はまだ風の強い王都に向かうことを嫌がったが、それでもなんとか王宮に向かって飛び始める。湖面は嘘のように穏やかになっていた。
部下の飛竜と何頭かすれ違い、情報を交換する。
近隣の村には婚約者は見当たらないという情報、婚約式が始まったという情報、王子はまだご無事だが、魔法使いに従っているという情報、どれも忌々しい情報ばかりだ。
あれほど疎んじていた異世界の青年に、ロベルトは初めて同情した。
魔力も無く、知り合いのいない異世界で、どれほど心細かった事だろう。何故アークのように、力になれなかったのだろうか。
もしかすると今頃は傷を負って死にかけているかもしれない。泣きながら助けを待っているかもしれないのだ。
だが、ロベルトはこの最悪の事態を想定していたからこそ、婚約に反対していたのかもしれない。力の無い者が高い地位にいると、不幸になるのが目に見えている。
だから私は……。
そこまで考えた時、ロベルトは王宮の壁に何か動く者を発見した。
それが、探していた異世界人の青年だと気づくのに、いや、気づいてからも理解するのに数秒かかった。
***
「お探しいたしました。ご無事で何よりです」
「助かりました」
異世界人の青年は、泣いてもいなければ助けを求めてもいなかった。
「まさか、魔力無しで外壁を登ろうとしていたのですか?」
「それしか思い浮かばなかったので」
何でもないことのように答える青年に、ロベルトは異世界人の恐ろしさを垣間見た気がした。王子が無謀だと言っていたのも頷ける。
「状況を説明してください」
そう言う青年は、兵士の服を着ていたが、とても魔力が無いようには思えなかった。不思議なオーラを纏っている。それは王族のように、自然と従ってしまう類のものだ。彼には魔力が無いはずなのに。
注意してよく見れば、彼はほんの僅かに微弱な青い魔力を纏っていた。おそらくそれは王子の魔力だ。王子は、気が遠くなるような時間をかけて、彼に魔力を分け与えているのだとロベルトは理解した。
「これを」
婚約式の式場の前でロベルトは飛行部隊のマントを脱ぎ、異世界人の青年に差し出していた。
ロベルトが命と同じくらい大切にしている飛行部隊のマント、崇拝する王子の青い色。自然とそれを差し出せた自分を不思議に思う。彼はそれを受け取ると、兵士の服の上から身につけた。
「王子!ご無事ですか!?」
「さあ早く、婚約式に行きましょう、王子様」
笑顔で手を伸ばした魔法使いの腕を、王子が掴んで壁に叩きつけた。
「……っぐ」
「ふざけるな。シュウヘイをすぐに連れて来い」
「……おっかしいな。もっと、効くと思ったんだけど、この魔法……」
「聞こえないのか」
魔法使いは額に汗を浮かべながらも、それでも笑みを崩さなかった。
「従者は適当に飛ばしたけど、婚約者は別。僕に何かあったら、彼の手足を切り落とすけど、それでもいい?」
王子はその言葉に息を飲んだ。
「魔力がなかったら、どのくらい生きていられるかな……?王子様が僕と婚約してくれるなら、命は助けてあげるけど」
「……シュウヘイには手を出すな」
「じゃ、決まりだね」
魔法使いは衣服を整えて我々を見回した。
「王子!」
「……ロベルト、婚約式の準備だ。アークにも伝えてくれ」
「……畏まりました」
「くれぐれも変なこと考えないでよ、飛行部隊の皆さん。状況、分かってるよね」
目の前の魔法使いの細い首を一太刀で切り落としてやりたい衝動に駆られたが、王子に妙な魔法がかけられている上に婚約者の命を盾にされては迂闊なことは出来ない。
ロベルトは数人の部下を残して王子の傍を離れた。
アークにも伝えてくれ、というのはもちろん婚約式のことではない。
婚約者を探し出せば、王子ならあの程度の魔法、おそらく魅了か拘束の魔法……は解く事が出来るだろう。
ロベルトは部下に指示を出し、愛用の飛竜に飛び乗った。
王都の上空は厚い雲に覆われ、強い風が吹き始めていた。空には細かい雷が走っている。
朝は晴れていたのに、まるでこの先の未来を予感させるような不穏な雲行きだった。ロベルトは、王宮の守り神が怒っているのだと感じた。
緑水湖一帯に雹が降り始め、観光客達が慌てている。飛竜も飛行を嫌がって王都を離れようとする。
ロベルトはなんとか飛竜を落ち着かせた。任務から離れるわけにはいかない。
どこに飛ばされたか分からない一人の人間を探し出すのは非常に難しい事だった。だからこそあの魔法使いは余裕の笑みを浮かべていたのだろう。
王都にある魔法使いの屋敷を調べたが、屋敷は別荘も含めると数が多く、一軒ずつ調査するのに時間がかかった。
街は婚約式後のパレードを見ようと大勢の観光客で埋め尽くされている。陸上では身動きが取れず飛竜に乗って移動したが、そもそも王都ではない辺境の地に飛ばされた可能性もある。時間だけが過ぎていった。
嫌がる飛竜を宥めながら調査を続けていると、ようやく荒れていた天候が回復し始めた。
飛竜はまだ風の強い王都に向かうことを嫌がったが、それでもなんとか王宮に向かって飛び始める。湖面は嘘のように穏やかになっていた。
部下の飛竜と何頭かすれ違い、情報を交換する。
近隣の村には婚約者は見当たらないという情報、婚約式が始まったという情報、王子はまだご無事だが、魔法使いに従っているという情報、どれも忌々しい情報ばかりだ。
あれほど疎んじていた異世界の青年に、ロベルトは初めて同情した。
魔力も無く、知り合いのいない異世界で、どれほど心細かった事だろう。何故アークのように、力になれなかったのだろうか。
もしかすると今頃は傷を負って死にかけているかもしれない。泣きながら助けを待っているかもしれないのだ。
だが、ロベルトはこの最悪の事態を想定していたからこそ、婚約に反対していたのかもしれない。力の無い者が高い地位にいると、不幸になるのが目に見えている。
だから私は……。
そこまで考えた時、ロベルトは王宮の壁に何か動く者を発見した。
それが、探していた異世界人の青年だと気づくのに、いや、気づいてからも理解するのに数秒かかった。
***
「お探しいたしました。ご無事で何よりです」
「助かりました」
異世界人の青年は、泣いてもいなければ助けを求めてもいなかった。
「まさか、魔力無しで外壁を登ろうとしていたのですか?」
「それしか思い浮かばなかったので」
何でもないことのように答える青年に、ロベルトは異世界人の恐ろしさを垣間見た気がした。王子が無謀だと言っていたのも頷ける。
「状況を説明してください」
そう言う青年は、兵士の服を着ていたが、とても魔力が無いようには思えなかった。不思議なオーラを纏っている。それは王族のように、自然と従ってしまう類のものだ。彼には魔力が無いはずなのに。
注意してよく見れば、彼はほんの僅かに微弱な青い魔力を纏っていた。おそらくそれは王子の魔力だ。王子は、気が遠くなるような時間をかけて、彼に魔力を分け与えているのだとロベルトは理解した。
「これを」
婚約式の式場の前でロベルトは飛行部隊のマントを脱ぎ、異世界人の青年に差し出していた。
ロベルトが命と同じくらい大切にしている飛行部隊のマント、崇拝する王子の青い色。自然とそれを差し出せた自分を不思議に思う。彼はそれを受け取ると、兵士の服の上から身につけた。
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