好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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新婚旅行

11 ジェイド

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 プライベートエリアで滅多に聞くことのない悲鳴が響き渡る。風に乗って血の匂いが運ばれて来た。

 夢の中の侍女が仲間のもとに走ると、血塗れの護衛兵や倒れた侍女たちの姿が目に入った。周辺が焦げたように黒くなっている。攻撃魔法だと直感的に思う。
 あれだけ防御魔法を張り巡らせているのに、それをたやすく破る実力があるという事だろうか。

「王子! しっかりなさってください。誰かもっと回復魔法を!」

 フィオネさんがルーシェンを抱きしめて叫んでいる。侍女は必死に回復魔法を唱え始めた。見ればフィオネさんの髪もドレスも血で汚れている。怪我をしているのは間違い無いが、そんな事より腕の中にいるルーシェンの姿を見て恐怖を覚えた。
 首、両手、足の部分が血塗れだ。目は開けているけど焦点が合っていない。速く回復しないとまずい。
 動ける侍女達が回復魔法をルーシェンにかけているのを、侍女の目を通して呆然と眺めていた。

 近くに、剣を握って倒れている兵士の姿があった。ジェイドというルーシェンが信用していたあの護衛だ。
 突如、死んでいると思われたその男がゆらりと立ち上がった。再び悲鳴が上がる。生気のない顔色を見て思い出す。こいつも魔法村にいたゾンビだ。
 ジェイドは剣を構えて倒れたルーシェンに向き直る。

「……、……」

 ルーシェンはその姿を見て、何か言おうとした。だけど喉に怪我をしていて口からは血が流れるだけだ。
 別の護衛がルーシェンを守るように間に入り、プライベートエリアは再び緊張に包まれた。


***

 目が覚めた。

 今のはなんだ。消えた妖精さんの記憶?

 目覚めた時にはやっぱり全身に汗をかいていて、恐怖で両手が震えていた。

 ベッドの隣に誰かが立っている。
 消えたと思っていた妖精さんだ。すごく薄くなって、今までよりずっと存在感がない。
侍女の幽霊は名残惜しそうにルーシェンを眺めると、今度こそすうっと消えてしまった。

「ルーシェン……」

 隣に眠るルーシェンの無事を確かめる。
 喉に触れ、布団の中に隠れていた両手を探して握る。魔法の灯りがほんのりと照らす中では、ルーシェンの喉にも手にも傷は確認できなかった。
 それでも、きっとあの傷を受けたのは事実だろう。喉と両手、おそらく魔法を唱えられないようにしたんだと思う。
 王子は昔から何度も命を狙われていた、人間不信だというアークさんの言葉が実感となって襲ってきた。胸が締め付けられそうだ。信頼していた護衛に襲われて、どれだけショックだっただろう。

『ルーシェン……』

 眠っているルーシェンの喉に唇を寄せる。自分が回復魔法が使えないのがもどかしい。何かあった時、魔力なしでは役に立たない。

「シュウヘイ……?」

 起こしてしまった。首筋にキスしてたから。

「どうした……? もう目が覚めたのか?」

 ルーシェンが微笑んで俺の髪を撫でる。

『起こしてすみません。眠ってていいですよ』
「そんな事をされたら眠れない」
『ではやめときます』
「やめなくていい」

 ルーシェンが笑って、ぎゅっと抱きしめられる。
 絶対に魔法を覚えて、この先何があってもルーシェンと自分の命を守ろうと誓った。
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