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砦
3 不穏な空気
飛行船という名の浮島はゆっくりと飛び立ち、荒地と砂漠に囲まれた赤砂の街は小さくなってやがて視界から見えなくなった。
空気がビリビリと緊張感をはらんでいるような気がする。風がいつもと違う。空気中に含まれる魔力というのだろうか。そんなものがいつもより濃い。
浮島の端からずっと空と大地を眺めている俺を心配して、ルーシェンがやって来た。
「シュウヘイ、建物の中に入ろう」
『外にいない方がいいですか?』
「ああ。この先何があるか分からない」
たしかに王都を出発した時と違って、浮島の広場には必要最低限のものしかなくなっていた。赤砂の街に着く前にはあちこちにテーブルや椅子、飲み物や書物だってあったのに今はすっかり片付けられている。台風が来る前みたいな感じかな。
放し飼いだった飛竜達も飼育小屋に移され、外にいるのは警備担当の飛行部隊兵だけだった。
ルーシェンと一緒に建物の中に入る。砦に到着するまでは自由時間みたいだけど、みんな忙しそうにしているので、譲二さんやポリムにと一緒に俺も薬や魔法道具の数量チェックと仕分け作業を手伝う事にした。
午前中いっぱいを仕分け作業に使い、一緒に作業していた国王軍所属の兵士とも仲良くなる。俺が数量チェックに使っていた正の漢字や電卓を面白そうに眺めていたので、故郷の話をして盛り上がる。知らない世界の事を知るのは単純に嬉しいよな。ラキ王国では魔法ですごく進んでいる部分と、アナログな部分があって、数量計算はアナログっぽいから、今度からこういう仕事を手伝おうかな。といってもパソコンはないからそれほどスピードは上がらないけど。
昼を少しすぎた時間にルーシェンのいる部屋に集まって食事をとる。
昼食は昨日と違ってシンプルだった。いまから戦闘が激化しそうだから、食材がたくさん使えなくなってるみたいだ。ジョシュに、品数が少なくてすみませんと謝られたけど、パンもあるし肉料理もあるし、もともとそんなに贅沢しなくても平気なので問題なかった。
食後に甘いお茶(これが好きな事を知られていて、毎回出してもらえる)を飲んでいる時だった。
ふいにお腹のあたりがぞわぞわとなって、お茶の入った食器を置く。
なんだろう、これ。
今度は背筋にぞわぞわと悪寒が走った。
寒い。いや、気温は全然下がってないし、寒いなんて事ありえない。浮島には防御魔法がかかってるんだから。
でも、何か変だ。みんなの会話をシャットアウトして集中する。
みんなのオーラじゃない、何か別の巨大なエネルギーの塊。そんなものが近づいて来ているのを感じた。シロほどじゃないけど、それっぽい何か。熱の塊のようなもの。イメージは赤だ。
赤といえば赤砂の街、赤い砂漠、赤い悪魔……?
「……シュウヘイ、シュウヘイ?」
ルーシェンが俺の名前を呼んでいるのに気づいて顔を上げた。
「どうした? どこか痛むのか?」
『ルーシェン、ここに何か近づいています。赤い何か。けっこう大きいです』
ルーシェンはそれだけで何かを察したらしかった。
立ち上がってすぐに部下に指示を出す。
「防御結界を強化する。飛行部隊は武器を持って定位置につけ」
『私も行きます』
「シュウヘイはここにいてくれ。ジョージ、シュウヘイを頼む」
「お任せください」
おろおろしていると、建物の扉が開いてアークさんが入って来た。確か先に砦に行っていたはずだ。飛竜で戻って来たらしい。髪も服も、いつものアークさんじゃないくらい乱れてる。
「アーク、何があった」
「砦に着く少し手前の砂漠に、凶暴化した火竜の集団を発見しました。大多数は同族で殺し合っていますが、何頭かこちらに向かっています。この浮島が襲撃されるのは時間の問題かと」
赤いエネルギーの塊は、火竜だったらしい。不安と恐怖で心臓がやけに速い音を立てた。
空気がビリビリと緊張感をはらんでいるような気がする。風がいつもと違う。空気中に含まれる魔力というのだろうか。そんなものがいつもより濃い。
浮島の端からずっと空と大地を眺めている俺を心配して、ルーシェンがやって来た。
「シュウヘイ、建物の中に入ろう」
『外にいない方がいいですか?』
「ああ。この先何があるか分からない」
たしかに王都を出発した時と違って、浮島の広場には必要最低限のものしかなくなっていた。赤砂の街に着く前にはあちこちにテーブルや椅子、飲み物や書物だってあったのに今はすっかり片付けられている。台風が来る前みたいな感じかな。
放し飼いだった飛竜達も飼育小屋に移され、外にいるのは警備担当の飛行部隊兵だけだった。
ルーシェンと一緒に建物の中に入る。砦に到着するまでは自由時間みたいだけど、みんな忙しそうにしているので、譲二さんやポリムにと一緒に俺も薬や魔法道具の数量チェックと仕分け作業を手伝う事にした。
午前中いっぱいを仕分け作業に使い、一緒に作業していた国王軍所属の兵士とも仲良くなる。俺が数量チェックに使っていた正の漢字や電卓を面白そうに眺めていたので、故郷の話をして盛り上がる。知らない世界の事を知るのは単純に嬉しいよな。ラキ王国では魔法ですごく進んでいる部分と、アナログな部分があって、数量計算はアナログっぽいから、今度からこういう仕事を手伝おうかな。といってもパソコンはないからそれほどスピードは上がらないけど。
昼を少しすぎた時間にルーシェンのいる部屋に集まって食事をとる。
昼食は昨日と違ってシンプルだった。いまから戦闘が激化しそうだから、食材がたくさん使えなくなってるみたいだ。ジョシュに、品数が少なくてすみませんと謝られたけど、パンもあるし肉料理もあるし、もともとそんなに贅沢しなくても平気なので問題なかった。
食後に甘いお茶(これが好きな事を知られていて、毎回出してもらえる)を飲んでいる時だった。
ふいにお腹のあたりがぞわぞわとなって、お茶の入った食器を置く。
なんだろう、これ。
今度は背筋にぞわぞわと悪寒が走った。
寒い。いや、気温は全然下がってないし、寒いなんて事ありえない。浮島には防御魔法がかかってるんだから。
でも、何か変だ。みんなの会話をシャットアウトして集中する。
みんなのオーラじゃない、何か別の巨大なエネルギーの塊。そんなものが近づいて来ているのを感じた。シロほどじゃないけど、それっぽい何か。熱の塊のようなもの。イメージは赤だ。
赤といえば赤砂の街、赤い砂漠、赤い悪魔……?
「……シュウヘイ、シュウヘイ?」
ルーシェンが俺の名前を呼んでいるのに気づいて顔を上げた。
「どうした? どこか痛むのか?」
『ルーシェン、ここに何か近づいています。赤い何か。けっこう大きいです』
ルーシェンはそれだけで何かを察したらしかった。
立ち上がってすぐに部下に指示を出す。
「防御結界を強化する。飛行部隊は武器を持って定位置につけ」
『私も行きます』
「シュウヘイはここにいてくれ。ジョージ、シュウヘイを頼む」
「お任せください」
おろおろしていると、建物の扉が開いてアークさんが入って来た。確か先に砦に行っていたはずだ。飛竜で戻って来たらしい。髪も服も、いつものアークさんじゃないくらい乱れてる。
「アーク、何があった」
「砦に着く少し手前の砂漠に、凶暴化した火竜の集団を発見しました。大多数は同族で殺し合っていますが、何頭かこちらに向かっています。この浮島が襲撃されるのは時間の問題かと」
赤いエネルギーの塊は、火竜だったらしい。不安と恐怖で心臓がやけに速い音を立てた。
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