好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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4 火竜

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 それから飛行部隊の隊員達は素早く外に出ていった。防御用の結界を強化するために浮島の操縦室に行っていたルーシェンも、戻ってきてフィオネさんから戦闘用のマントを手渡される。

「シュウヘイ、ここより地下三階あたりにいた方が安全だ。みんなでそこに避難してくれ」
「ミサキ様、地下に避難しましょう」
『ルーシェンを見送ってから避難します』

 譲二さんに促されたけど、ギリギリまで部屋にいて、戦闘用の服に着替えるルーシェンの側にいた。魔法防御に優れたマントを着るルーシェンを手伝っていたけど、手が震えて紐がうまく結べない。
 
 シロ……いるならルーシェンを守ってくれ、俺の代わりに。
 
 そんな事を祈りながらモタモタと手伝っていると、俺の震える手をルーシェンが握ってくれた。
 
「シュウヘイ、大丈夫だ。心配しないでくれ」
『無事に倒して来てください』

 そう言うと、ぎゅっとルーシェンに抱きしめられた。ほんのわずかな時間。
 すぐにルーシェンは腕を離し、扉から外に出ていった。


 地下三階には、普段はおもに料理や掃除をしているメンバーが集まっていた。その中にジョシュの姿を見つけて少し安心する。

「ミサキ様! 大丈夫ですか⁉︎」
『はい。ジョシュもみんなもいてくれて嬉しいです』
「王子様や飛行部隊なら絶対に大丈夫ですよ」
『そうですね』

 ふとジョシュを見ると、袋に入った包みを持っている。ジョシュのお気に入りのお菓子だ。こんな時でも食べる事を忘れないジョシュにちょっと癒された。

 それからみんなしばらく部屋にいて、あちこちでかたまって何か話している声は聞こえたけど、俺はルーシェンが心配で気が気じゃなくてまったくみんなの声が耳に入らなかった。
 どれだけ壁の火時計を眺めても全然時間がたたない。窓がないから外の様子も分からない。

『みんな、どうなったんでしょうか……』
「様子を見て参ります」

 譲二さんがそう言って出ていったしばらく後、すぐ近くで何かが激突するような音が響いた。別の部屋にいた誰かの悲鳴が上がる。思わず立ち上がって悲鳴の聞こえた方へ走った。

「ミサキ様! お待ちください!」

 悲鳴は下から聞こえて来た。廊下に出て下へ続く階段を見ると、足を怪我して倒れている従者の一人が見えた。確か地下四階には外へと続く扉があったはず。
 飛び降りる勢いで階段の下に降りると、這って逃げようとする従者の五メートルほど先に大きな穴が開いていて、そこから太い爬虫類のような足と身体が覗いていた。鱗の生えた皮膚の色は真っ赤だ。

「か、火竜……!」

 廊下の近くには部屋があって、従者以外にも女の人や大勢の人たちが逃げ場をなくして部屋の隅にいた。それぞれが武器を手にしているけど、きっとみんなほとんどは火竜クラスの魔物と戦ったことはないはずだ。

 火竜は前足でさらに扉を破壊すると、大きな顔を狭い隙間にねじ込んできた。中に入ろうとするたびに火竜の身体を光のような魔法が焼く。ルーシェンの防御結界だ。だけど火竜はどれだけ血を流しても侵入をやめなかった。ギョロリとした赤い目が凶暴な色に光っている。

 ふと、昔オカマの犯罪者の屋敷で首長竜に襲われた時の事を思い出した。竜が恐ろしいのはブレス攻撃をしてくるからだ。

「ミサキ様! 違う部屋に避難を!」
『剣を貸してください』

 あの火竜を絶対に部屋の中に入れたらダメだ。炎のブレス攻撃で全員が大火傷を負って怪我どころじゃすまなくなる。
 誰かが弓矢や水の魔法で火竜を攻撃するけど全然効いていない。もっと近づいて強い攻撃を加えないと。
 竜は何もしていないのに、少し近づくだけでめちゃくちゃ熱い。火竜の吐いている息が火傷しそうなほどの熱風なんだ。

 竜が俺を見て口を開く。あっという間に目の前が炎に包まれた。遠くで悲鳴が上がる。
だけど、身体が焼かれることはなかった。
 炎のブレス攻撃は手の甲の印に全て吸い込まれていた。かわりに手の甲がとても熱くなりじんと重く痺れる。

「ミサキ様!」

 身体がぐっと後ろに引っ張られ、俺を庇うように譲二さんが俺と火竜との間に入った。

「何という無茶を! 下がってください!」

 譲二さんが的確に火竜の目や口を狙う。だけど竜は傷ついても少しも攻撃をやめなかった。花粉の影響で理性をなくしてる。

 何度目かの攻撃を仕掛けた譲二さんは、大きく口を開いた火竜の下顎に長剣を深々と突き刺し、身体をはってブレス攻撃を防ごうとした。だけど、口を開こうとする火竜がすごい力で譲二さんを押す。口からわずかな炎がもれて譲二さんのフードを焼く。
 まずい、譲二さん一人じゃどうにも出来ない。ポリムを振り返ると必死に譲二さんに回復魔法をかけていた。避難している人達も、魔法使いはいても戦士はいない。多分全員地上に出ていってる。俺がやらないと。

「ミサキ様⁉︎」

 両手で剣を持って火竜の身体に走った。俺の力じゃあの鱗は貫通させられないかもしれない。
 鈍い音と感触がして、俺の持った剣は折れ、わずかばかりが竜の身体に刺さっただけだった。
 失敗した。もっと深く突き刺さないとブレス攻撃をくらう。こんな至近距離で直撃を受けたら譲二さんが死んでしまう。

 その瞬間、片手の甲から真っ黒な魔法が生まれる。それは折れた剣の代わりに火竜の身体を一気に貫いた。
 竜はたまらず奇声を上げて外へと逃げた。
 呆然として外を見ると、火竜の身体が黒い魔法に包まれてくるくる回転しながら地上へ落ちていくのが見えた。

 あれは……多分ファンクラブの男が婚約式で俺にかけようとした魔法だ。あいつ、あんな恐ろしい魔法を俺に唱えてたのか。


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