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砦
12 お前から避難したいんだよ
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みんなが食料や武器や道具を砦に運んでいる間に、俺とルーシェンはエルヴィンが用意してくれたルーシェンの部屋に案内された。
砦は岩山を利用して作られているから、部屋はみんな石壁になっていて窓も少ない。
それでもルーシェンの部屋には小さな窓と広い寝台が置かれていた。部屋の窓からは山と森が点在している風景が見える。この先は隣国の領地なんだろうな。所々にのろしみたいな煙が上っているのが見えるけど、あれも戦闘のあとだろうか。
ベッドの横の岩壁にはラキ王国の紋章がタペストリーみたいに飾られている。ベッド脇のテーブルには光る石のランプと道具箱や鏡が置かれていて、その隣に装飾のついた衣装箱がある。あとは床に暖かそうな毛皮の敷物があるだけで、部屋の中は殺風景だ。
「申し訳ありません。これでもこの砦では一番広いお部屋なのですが」
「いや、これで十分だ」
「ありがとうございます。それから同じ階に会議場がございます。他に私が使用している部屋と、あと二部屋は用意できますので、フィオネ様と飛行部隊の隊長の方に使っていただくようにしていますが……」
エルヴィンはそこでちらっと俺を見た。
「王太子妃様はすぐに雲の谷に避難されるということなので」
つまり俺の部屋はないって言いたいんだな。わかるよ。
「そうだな。それでいい」
いいなぁ。俺も泊まりたい。ルーシェンと同じ部屋でいいから。
そんな事を考えていると、部屋の外にいた譲二さんが声をかけてきた。
「王子、避難してきた近隣の村の長達が王子に挨拶をしたいとのことです。ロベルト隊長と一緒に階下でお待ちです」
「そうか、すぐに行く」
仕事人間のルーシェンは、呼ばれてすぐに部屋を出て行ってしまった。
残されたのは俺とエルヴィン。気まずい。この人ついていかなくていいのか?
『では私も……』
「王太子妃様はすぐに雲の谷へ避難されますから、挨拶は不要かと」
いや、挨拶とかじゃなく二人でいるのが気まずいからだよ。お前から避難したいんだよ。
『エルヴィンは行かなくていいんですか?』
「王太子妃様をお守りしなければなりませんので」
怖っ。その笑顔にぞわぞわと鳥肌がたったぞ。
『護衛なら譲二さんがいるので大丈夫です』
そう言うと、エルヴィンはそうですねと頷いた。そして部屋を出ようとしたからほっとしたのに、急に向きをかえて俺の前へ立つと、身構える間もなく喉元に手を伸ばされる。
『な、なに……』
するっと襟もとにエルヴィンの指が入って来て、首筋に焼けるような痛みが走る。それは一瞬で、すぐに痛みは引き、かわりにふわりと白い光が舞う。回復魔法だ。
「失礼いたしました。怪我をされておいでだったので」
心臓がばくばくと酷い音を立てた。びっくりしたせいだろうか。それとも痛みのせい? それとも回復魔法か?
エルヴィンは俺が魔法厳禁な事知らないんだろうか。それとも知っててやったのか。
心臓を腕で押さえてエルヴィンを睨むと、表情だけは申し訳なさそうに取り繕った。
「驚かせてしまいましたね。軽い回復魔法だったんですが。無礼をお許しください」
軽い回復魔法? 嘘つけ。その前の火みたいな攻撃魔法が軽いんだろ。
エルヴィンは形だけ頭を下げると、部屋を出る前にもう一度振り返った。最初の挨拶の時と同じような薄い笑みを浮かべる。
「このお部屋は王宮とは比較にならないほど簡素なお部屋ですが、王子が来られるまで私が使用していたので寝台の使い心地などは保証いたします。貴方がいない間は私が王子の身の回りの補佐をしっかりとつとめますので、王太子妃様も安心して雲の谷へ行かれますよう」
な、なんだそれ。頭にきすぎて反論が思い浮かばない。エルヴィンは俺の言葉を待たずに部屋を出ていった。
身の回りの補佐って、フィオネさんがいるからお前なんて全然必要ないんだよ! 戦闘的な事ならアークさんやロベルトさんがいるんだからな!
ああ、やばい。腹が立ちすぎて心臓がばくばくする。落ち着け。
しばらく心臓を落ち着かせてから、部屋にあった鏡に首筋を映してみた。何か変なことになってないだろうな。というか、こんな所に目立つ傷なんてあったか? 火竜の火傷なら腕の方が酷いんだからそっちを治すはずだけど、そっちはそのままだ。つまり回復魔法じゃなくてただの嫌がらせだろ。
シャツをまくって鏡を覗き込み、何もないことに安心する。以前胸につけられた魔法の傷跡は残ってるけど。
夜明け前に、胸や首筋にルーシェンが薬を塗ってくれて、傷跡に触らないようにしながらたくさんキスしてくれた事を思い出す。
そういえば、その痕がない。あいつもしかしてキスマーク焼いたのか……? もしそうならオーラと同じで、心の中真っ黒だな。
砦は岩山を利用して作られているから、部屋はみんな石壁になっていて窓も少ない。
それでもルーシェンの部屋には小さな窓と広い寝台が置かれていた。部屋の窓からは山と森が点在している風景が見える。この先は隣国の領地なんだろうな。所々にのろしみたいな煙が上っているのが見えるけど、あれも戦闘のあとだろうか。
ベッドの横の岩壁にはラキ王国の紋章がタペストリーみたいに飾られている。ベッド脇のテーブルには光る石のランプと道具箱や鏡が置かれていて、その隣に装飾のついた衣装箱がある。あとは床に暖かそうな毛皮の敷物があるだけで、部屋の中は殺風景だ。
「申し訳ありません。これでもこの砦では一番広いお部屋なのですが」
「いや、これで十分だ」
「ありがとうございます。それから同じ階に会議場がございます。他に私が使用している部屋と、あと二部屋は用意できますので、フィオネ様と飛行部隊の隊長の方に使っていただくようにしていますが……」
エルヴィンはそこでちらっと俺を見た。
「王太子妃様はすぐに雲の谷に避難されるということなので」
つまり俺の部屋はないって言いたいんだな。わかるよ。
「そうだな。それでいい」
いいなぁ。俺も泊まりたい。ルーシェンと同じ部屋でいいから。
そんな事を考えていると、部屋の外にいた譲二さんが声をかけてきた。
「王子、避難してきた近隣の村の長達が王子に挨拶をしたいとのことです。ロベルト隊長と一緒に階下でお待ちです」
「そうか、すぐに行く」
仕事人間のルーシェンは、呼ばれてすぐに部屋を出て行ってしまった。
残されたのは俺とエルヴィン。気まずい。この人ついていかなくていいのか?
『では私も……』
「王太子妃様はすぐに雲の谷へ避難されますから、挨拶は不要かと」
いや、挨拶とかじゃなく二人でいるのが気まずいからだよ。お前から避難したいんだよ。
『エルヴィンは行かなくていいんですか?』
「王太子妃様をお守りしなければなりませんので」
怖っ。その笑顔にぞわぞわと鳥肌がたったぞ。
『護衛なら譲二さんがいるので大丈夫です』
そう言うと、エルヴィンはそうですねと頷いた。そして部屋を出ようとしたからほっとしたのに、急に向きをかえて俺の前へ立つと、身構える間もなく喉元に手を伸ばされる。
『な、なに……』
するっと襟もとにエルヴィンの指が入って来て、首筋に焼けるような痛みが走る。それは一瞬で、すぐに痛みは引き、かわりにふわりと白い光が舞う。回復魔法だ。
「失礼いたしました。怪我をされておいでだったので」
心臓がばくばくと酷い音を立てた。びっくりしたせいだろうか。それとも痛みのせい? それとも回復魔法か?
エルヴィンは俺が魔法厳禁な事知らないんだろうか。それとも知っててやったのか。
心臓を腕で押さえてエルヴィンを睨むと、表情だけは申し訳なさそうに取り繕った。
「驚かせてしまいましたね。軽い回復魔法だったんですが。無礼をお許しください」
軽い回復魔法? 嘘つけ。その前の火みたいな攻撃魔法が軽いんだろ。
エルヴィンは形だけ頭を下げると、部屋を出る前にもう一度振り返った。最初の挨拶の時と同じような薄い笑みを浮かべる。
「このお部屋は王宮とは比較にならないほど簡素なお部屋ですが、王子が来られるまで私が使用していたので寝台の使い心地などは保証いたします。貴方がいない間は私が王子の身の回りの補佐をしっかりとつとめますので、王太子妃様も安心して雲の谷へ行かれますよう」
な、なんだそれ。頭にきすぎて反論が思い浮かばない。エルヴィンは俺の言葉を待たずに部屋を出ていった。
身の回りの補佐って、フィオネさんがいるからお前なんて全然必要ないんだよ! 戦闘的な事ならアークさんやロベルトさんがいるんだからな!
ああ、やばい。腹が立ちすぎて心臓がばくばくする。落ち着け。
しばらく心臓を落ち着かせてから、部屋にあった鏡に首筋を映してみた。何か変なことになってないだろうな。というか、こんな所に目立つ傷なんてあったか? 火竜の火傷なら腕の方が酷いんだからそっちを治すはずだけど、そっちはそのままだ。つまり回復魔法じゃなくてただの嫌がらせだろ。
シャツをまくって鏡を覗き込み、何もないことに安心する。以前胸につけられた魔法の傷跡は残ってるけど。
夜明け前に、胸や首筋にルーシェンが薬を塗ってくれて、傷跡に触らないようにしながらたくさんキスしてくれた事を思い出す。
そういえば、その痕がない。あいつもしかしてキスマーク焼いたのか……? もしそうならオーラと同じで、心の中真っ黒だな。
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